「おくりびと」(2008)
2009年 03月 25日
いわずと知れた第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。
監督は滝田洋二郎。主演は本木雅弘ことモックン(この言い方のほうがしっくりくる)。
死(というか遺体)と向き合うことにより生を知っていくということが、四季の移り変わりと共に描かれています。
生と死の対比がとてもわかりやすい。
冷たい腐乱死体と妻の温かい体。
まだ動いていたがために調理できずに川へ帰されるタコ。かつて生きていた物を口にして生きる実感をかみしめる納棺師の社長。
死者と常に向き合う社長の部屋は彼が育てる植物に覆いつくされ、死者と向き合う毎に主人公はチェロを奏で、音をつむぎ出していく。
死者を送る一方で新たな命も芽生える。
自身が肯定された存在だったことを父と向き合うことによって知り、めぐりめぐる命の輪の中に自分もいたことを理解する主人公。
生まれてくる我が子を間にして微笑みあう笑顔は幸福感にあふれてとても良い。
この映画は一貫して存在していた者、存在する者への優しさに満ちています。
主人公は基本的にありふれた、どこにでもいるような普通の青年で、ちょっと流されやすそうな素直なところも含めて、極めて一般的な人だと思う。
だから嫌味がない。
納棺師という仕事が世間的に受け入れられにくいことを十分わかっていて、自分が自分の仕事に対してどう思っているのか、よくわかっていない中で揺らいでいるところは、見ていてこちらも納得できた。
一方で妻の反発もわかる。
「穢れ」の感覚は現在では昔ほどではないと思うけど、でもやっぱり難しい問題。何百年もそういう価値観でやってきたものであるから。
一つ一つの命に対して、人はもちろん、動物や植物、小さな若芽から満開の桜まで、命あるもの全てに優しい映画。
見送ってくれる人がいる人は幸せだ。見送れる人がいる人も。
見送る形がきちんとあるということも。
いい映画だったですね。
アカデミー賞外国語映画賞を受賞したこと、改めてうれしく思いました。