「虎の牙」

アルセーヌ・ルパンが、おそらく四十代半ばにさしかかった頃の物語。
莫大な遺産をめぐる連続殺人事件に関わらざるをえなくなったルパンと、悪魔のごとき犯人との壮絶な闘いが見所の大長編です。

仕掛けられた罠の巧みさ、革命時代の遺産というべきからくり館、飛行機を使った追跡劇……。
とても映像的なお話で、是非映画にしてくれないかなあと読みながら思っていたら、それも道理、この作品はもともと映画用に作られたお話なのでした。先日初めて知ってビックリ。

そう言われたら成る程と思える箇所がたくさんあります。特にルパンの描かれ方がそう。
本作は非常に悪魔的な犯罪のお話で、あのルパンが大いに難儀するんだけど、その割に笑えるところが多いのは、最前線で体張ってる彼がとても人間味にあふれた人だから。冷静沈着な頭脳の持ち主でありながら激情家というルパンを、この作品はとてもよく描けているのです。

嫉妬に苦しみ、悪魔的犯罪に戦慄し、敗北を前に絶望する……けれども強靭な肉体と怜悧な頭脳でそれらに打ち勝つルパンがいい。
知力を総動員して考えに考えに考え抜いて、ついに真実を突き止める場面はチョー素敵です。
ホントにカッコいいんですよ。
でも困った人でもあるんですよねー、やっぱり。





今回ルパンが恋する女性は、自身の年齢と比較したらかなり若く、そしてどうも犯人らしく、どうも自分を嫌いらしく、どうも他に親密な男性がいそう、といった女性。
そのため大変悩み、嫉妬に悶え苦しみ、感情のコントロールに苦労します。
というかルパン、コントロール全然できません。
そのため当り散らされる部下は大変で、「うわーイヤだ、こんな親分めんどくさー」って感じなんだけど、心酔してる上に親分の気性を十分承知している部下はとてもいいヤツなんですね。
大好きな親分を慰めるんですよ、「女なんてものは~」とか言って。
恋愛経験豊富なルパンにそれを言うから読んでて大笑いなんですが、それ以上に「ぶっ」と吹き出すのが、なぜこんなにもグダグダするのかという理由をルパンがポロリと言うところ。


「俺は今まで一度も恋をしたことがない」


エエエエエーッ!

アンタしたじゃん!いっぱいしてきたじゃん!
どの口が言うんだ、どの口が!


とはいえアッパレなのは、彼女に苦しめられ大いに怒りを感じたとしても、当人にそれをぶつけてないところ。
さすが紳士ですね。怒りにまかせて無体を働くなんてこと決してしません。その辺はオヤジ、よく自制がきいています。
その分部下が大変なんだけどさ。



ルパンの感想を書いていると、なぜか彼の恋愛話が多くなってしまいます。メインのストーリーやトリックは大ネタバレになるのであまり書けませんが、恋愛だと感想書いてもいいかなと思えるのが大きいです。
子供の頃に読んだポプラ社版は、ストーリーやトリックはそのままだけど、恋愛はあまり描かれていませんでした。恋愛話は彼の人間的魅力を存分に伝えてくれるので、やっぱり大人向けの完訳を読まないと彼のイメージは違ってしまうと思います。

ルパンは読めば読むほど好きになりますねえ。
個人的な第三次ルパンブーム、まだまだこれからも続きそうです。
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by teri-kan | 2009-04-12 14:36 | アルセーヌ・ルパン | Comments(0)
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