「金三角」

アルセーヌ・ルパンはベル・エポックに活躍した人というイメージが強いですが、第一次世界大戦中も別人に成りすまして大いに活躍しています。
ただ冒険の中身は非常に政治的かつ愛国的。絵画や宝飾品にかまける余裕はさすがにありません。

「金三角」はそんな戦時下の、パリが舞台の物語。のっけから負傷した帰還兵が登場し、そういう時代であることを嫌でも感じさせる長編です。

金(きん)をめぐる物語と愛をめぐる物語が複雑に絡まりあい、その辺を整理させないと途中でわけわからなくなる話なのですが、人によっては犯人のトリックはバレバレなんだそうで、そういった鋭い方にはわかりやすいのかもしれません。
私は初読時は素直な小学生だったので、青年大尉と同じように驚き、苦悩し、謎の前にすっかり立ち尽くしてしまったものでした。結構残酷なシーンもあって、そのインパクトも強烈だった記憶があります。

本作の犯人は非常に悪辣で、その下劣な品性といい非道さといい、実はルパンシリーズの中でも最も嫌いな人物の一人。
ルパンもどうやらそうらしく、犯人に対して全く容赦がないですね。とことん軽蔑していて、最後の追い詰め方も苛烈極まりない。

やっぱり戦時中だからかな。なんだか登場人物皆に余裕がなく、まあルパンは一応悠然としていますが、暗い時代のお話という印象が否めない作品です。


で、ここで大尉のお話。





この作品はもちろんタイトル通り黄金を追う物語で、ルパンもその作業に邁進するのですが、主要登場人物である青年大尉にとってのメインテーマはただ「愛」。金は大事だけど、それでも愛の前には金なんてなんのこっちゃといった感じです。

いみじくもルパンが語っていますが、ルパンが登場するまでの彼はとても英雄的で、危機の際にも理性的な考え方ができる人でした。ところがルパンと共に行動するようになった途端、恋人への愛に目がくらみ、ほとんど足をひっぱるが如くの行動をとってしまいます。

ルパンはさすがに大人物なので、呆れながらも笑ってますが、読んでるこっちはちょっとイライラ(笑)。もしかしてガスが頭に回っちゃったのか?なんてヒドいことを思ったりしてしまうくらいなのです。

でも、よくよく考えれば、ルパンと出会う直前、つまり死にかけた直前になって、彼は彼女と初めて心を通わせたわけです。ようするに、彼らはデキたばかりの恋人同士なのですね。
しかも彼女の愛は自分一人が助かるよりも彼と共に死ぬことを選ぶくらいの深い愛。それは母親と同じ行動ではありますが、それまでに年月をかけて愛を育んできた親達とは違い、大尉と彼女の場合はいきなりビュンッと頂点に上ってしまった愛なのです。あれを境に彼の心が彼女のみになってしまったとしても、まあ無理からぬ話なのですよ。

そしてそんな女性の命はもちろんどんな犠牲を払っても守りきらなければいけません。
彼女がさらわれたのは彼の大きなミスですが、だからこそ彼女を助けるために気も狂わんばかりになってしまったのは理解できる。多少、いや、かなりイライラさせられますが、でもわからない感情ではない。

本作のヒロインは大変気の毒な半生を生きており、結婚のいきさつとか読んでて身の毛がよだちます。
彼女にはその分もこれから幸せになってもらいたいものです。
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by teri-kan | 2009-04-20 09:50 | アルセーヌ・ルパン | Comments(0)
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