「王妃の首飾り」その2

6才のルパン、すなわち少年ラウールは首飾りをまんまと盗み出しましたが、その代償は大きく、母は伯爵夫人に辛く当たられ、とうとう伯爵家を追い出されてしまいました。

ラウールは相当伯爵夫人を恨んだことでしょう。しかし哀れな母親を見て、「こんなことなら首飾りなど盗まなければよかった」と考えたでしょうか。

いえ、それだけはないですね。首飾りを奪って伯爵夫人を窮地に追いやったのと同じように、「いつかまた痛い目に合わせてやる」と考えたことでしょう。
だから大人になって名を変えて伯爵夫妻に近付き、彼らを精神的に追い込むのです。ラウールの恨みはそれほど深く、そしてその会話の中で伯爵夫人への舌鋒がどんどん鋭くなっていくのは、結局夫人が何一つ変わっていなかったから。母を追い出した悔恨がなかったばかりか、昔のままに母を侮辱したからなのです。


実は夫人はルパンの母親を犯人と思い込んだから辛く当たったのではありません。屋敷から追い出したのは事件が原因ですが、もともと事件前から友人とは思えない程の厳しさで彼女に接していました。
では一体夫人はなぜその最初から母親に辛く当たっていたのか。
ルパンが首飾りを盗んだ理由は性癖以上に夫人への嫌がらせの方が強いのですが、そこまでしたくなるほどの夫人の仕打ちとは何だったのか。

その辺非常に気になりますね。
アンリエットが恨みを買うような女性でない分尚更。







このドルー・スビーズ伯爵夫人というのは非常に興味深い女性で、傲慢でちょっと子供っぽい性格と描かれており、実際言動もその通りです。困っている友人を引き取ることはしましたが、それが優しさからだとはどうしても思えぬ態度を貫き、貴族出身の友人をなんと召使同様に扱っていました。こんな女性がまたなんでアンリエットを引き取ったのか、そっちの方が不思議になるくらい慈悲のない人なのです。

ルパン扮するフロリアニ騎士と伯爵夫人との会話は厳しく、あれだけ少年単独犯であることを説明してなお「母親が子供にやらせた。共犯だ」と言い張る彼女には、並々ならぬアンリエットへの私怨を感じて、読んでるこちらさえ鼻白むほどでした。
あれでは首飾りを盗んだから友人を嫌ったのではなく、もとから嫌いだったと言っているようなものです。ルパンは相当頭にきたことでしょう。

ではなんで夫人はアンリエットを嫌いだったのか。
彼女を自分の屋敷に置くのは嫌々だったと思われますが、それでは自分を頼ってきた事自体が気に入らなくて嫌うようになったのか。
しかしそうであるにしてはあまりにアンリエットへの態度が酷すぎると思います。いくら労働者階級の人と結婚したからといって友人に対してあの部屋はありえない。召使として使っているのもありえない。
となると実は夫人は居候させる以前よりアンリエットのことを嫌いだったのではないか。
そのように考えることもできると思います。

学生時代のことを想像すると妄想の域に入ってしまうのですが、仮にずっと昔から嫌っていたとするなら、当時二人の間に何かあったのかもしれませんね。アンリエットは何のわだかまりも持っていないようなので、伯爵夫人が彼女を一方的に嫌いに思う何かが。
となると自分を頼ってきたのを幸い、屋敷に引き取って徹底的に辛く当たってやれと思った可能性もあります。

どちらにしてもラウールはそんなふうにして冷遇される母親が可哀想でしょうがなかったことでしょう。だから伯爵夫人が最も大切にしている首飾りを盗みました。
でも夫人が母でなく自分を疑ったなら、案外ラウールはそれで納得できたような気もします。
母は善良で、そもそも召使にされるような女性ではなく、ましてや犯人扱いされるいわれはない。
ラウールは子供の頃からずっとそれを言いたくて、大人になってもそれだけを彼らにわかってもらいたかったはずだから。

もちろん、子供の犯行と見抜けなかった大人達をバカにしたかったことも大きいだろうけど。



ルパンはよく貴族に変装するし、貴族的な生活を好んでもいるけど、貴族のどうしようもないところも十分承知していて、いけすかない貴族をバカにすることがしょっちゅうあります。というか品位に欠ける特権階級の人間には基本容赦ない。
そういったある種の貴族嫌いの原点はドルー・スビーズ伯爵夫人にあるはずで、特に彼女の持たざる者への慈悲の無さにはかなり思うところがあったのではと推測します。

そういった意味では、ルパンの人生に於いて無視できない女性と言えるかも。
ルパンは彼女のこと心底嫌いだったでしょうけどね。



「王妃の首飾り」についてはまだまだ続きます。その3が最後になります。
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by teri-kan | 2009-05-12 10:44 | アルセーヌ・ルパン | Comments(0)
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