ドロレス・ケッセルバッハ その6

その5の続き)

ところで、ドロレスは26歳で、ルパンは38歳です。
結構年の差あるんですよね。








ルパンがドロレスを愛すようになったのは、その保護本能を強く刺激されたからだと思います。彼女は登場時から不幸な女性で、いよいよ身に危険が及ぶとなると、必死でルパンの庇護を求めてきました。
男なら誰だって彼女を守りたいと思うでしょう。いわんやルパンをやです。

「助けて」とルパンに訴えたのは、もちろん戦略上の理由が一番でした。ですが一方でそれは掛け値なしの彼女の本音であって、だからルパンをしてもその裏を見破ることが出来ない。
問題はその怯えの正体で、「私は不幸だ」と嘆くそれを、ルパンは「彼女自身の凶暴さへの恐怖」と回想しますが、ドロレスの犯行を振り返ってみると、彼女が殺害行為を忌み嫌っているとはとても思えず、どう考えても嫌っているのは自分が犯人とバレることの方なのです。彼女の恐怖は彼女のおかれている状況そのものと考えた方が断然理解しやすいのですよ。

そりゃ殺人を犯さなくてすむならそれに越したことはなかったでしょう。なにしろ彼女は安全な立場にいたい女性で、自分を危うくすることそのものを嫌う人だから。
ですがその安全を守るためには更に殺人を重ねなければいけないところまで彼女は来てしまっている。そして彼女は本当に殺人衝動にかられる自分を呪っているのか。一体彼女にとって殺人とは何なのか。


ドロレスは野望に邁進すると同時に強迫観念のように安泰を求め、精神的に緊張し続けた結果、肉体が極度に脆弱化していきます。ですが邪魔者を殺すという行為は、即ち安心感をもたらす行為であり、尚且つ目的に近づく行為でもあったから、殺人を犯す前後は心身ともに軽やかだったでしょう。実際黒衣のL.M.は非常に身軽。

殺人はあくまで手段であってそれ以上でもそれ以下でもない。
彼女にとってはそういう位置づけだったのではないでしょうか。
同様に、自分を守るもう一つの手段としてルパンの庇護を受けたいという欲求も本当に持っていた。彼は彼女の知る最も強い男で、彼を追い落とそうとして失敗してきた彼女は一番それをよく知っているからです。

自分を守りたいという一念が、時にルパンに泣きつくこととなって現れ、時に殺人という行動になって現れる。彼女の思いはただそれだけで、恐れているのは何より自分の破滅。全ての行動はそれが源になっており、言ってしまえばそれほど彼女は怖かったのですよ。自分を破滅に追い込むものが。


彼女の最大の不運は、その対象がルパンその人であり、レオン・マシエに目を向けさせたとしても、ルパンがいなくならない限り恐怖は永遠に去らないということでしょう。
彼に懇願する「助けて下さい」は「死んで下さい」と同義語であって、それは彼女がルパンと同じ野望を持った時からの宿命であり、彼の敵となってしまった故の必然なのです。彼女の恐怖の根源はルパンにあり、それはとりもなおさず彼女を駆り立てる野望そのものにあるのです。

もし殺人を犯す自分を恐れるというのなら、恐れるべきは彼女に殺人を犯させた、彼女に取り付いて離れない野望しかない。
しかも事件の終盤に至って厄介になってきたことには、その野望は自身どう扱っていいのかわからないような代物に成り果てているということ。
最初はせいぜい大公妃になりたいといった程度のものだったでしょう。それすら彼女にとっては大きな野望だったはず。それが自分を滅ぼそうとするルパンを攻撃するうち、とてつもない大きな謎の渦中に入り込んでしまい、そりゃそのスケールの大きさに興奮はしたでしょうが、かといって一体彼女に何が出来るのか。
ルパンでさえ全身全霊をかけて取り組んでいるような大掛かりな事業ですよ? どう考えたってドロレスの手には余るのです。

だからルパンの壮大な計画を聞かされた時、感動を込めた目で彼を見つめる。
それはもしかしたら初めて自分を超える者の存在を知った瞬間かもしれません。「この男となら」といった感慨すら持った可能性もありえる。
だからいざルパンを殺そうという段階になって珍しく躊躇もする。これが唯一彼女が見せた人間らしい一面で、彼女が自分以外の存在を初めて認めた証かもしれません。

しかしもう後戻りはできないのです。彼女の心に巣食った野望は、それを許さないほど徹底したやり方を彼女に取らせてきて、ルパンを殺してしまわなければ、恐怖は永遠に彼女の中に存在し続けるのです。


確かにルパンはドロレスにとって唯一の特別な存在でしょう。それを愛と呼んでも、ある意味間違いではないのかもしれません。
でも彼は彼女にとって最初から最後まで恐怖を伴った敵でした。
それ以上の存在には、おそらく決してならなかったと思います。



(続きます)




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by teri-kan | 2009-06-16 10:53 | アルセーヌ・ルパン | Comments(0)
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