「特捜班ヴィクトール」

盗まれた国防債券とそれに絡んで起こった殺人事件が不思議な展開を見せるルパン作品。

老刑事ヴィクトールの目線で描かれたこの物語は、じわじわとルパンに近づいていく過程にその面白さがあり、アルセーヌ・ルパンが大活躍する冒険活劇、というのとはちょっと違います。
一つ一つ捜査し、一人一人尋問し、ちょっとづつ根回しをして、ちょっとづつ真相に近づいていくという、なんともシブいストーリー。

多分そのシブさのせいでしょう、昔ポプラ社版を読んだことがあるのに、内容をほとんど覚えていませんでした。全体的に地味だし、ヴィクトールもうほとんどおじいさんだし、子供が好む内容じゃないのは確かで、今回完訳を読んだ時も初めて読むかのような感覚だったのです。

ただ、ルパンが登場した時の違和感だけは記憶に残っていました。
本作の“ルパン”はなんだかなあって感じで、まあ一言で言うなら、
「これはヒドイ」
でしょうか。
ヴィクトールも難儀なことでした。

でもまあ、この展開は読めるといえば読めるかな。






この作品に描かれている事件はどうもつかみどころがなく、警察も新聞も世間も騒ぎまくってはいるものの、読んでるこちらとしてはとても浮世離れした印象を受けます。
ヴィクトールの戦いは彼以外の人間の思惑とは完全に乖離してしまっているので、国防債券や殺人事件に気をとられていると一気にわかりにくくなってしまうのですね。しかもヴィクトールも“ルパン”も虚構の中を生き、男爵や家主達の夫婦関係も偽りに彩られ、ヒロインさえ目くらましをかけられたような状態の中でルパンを慕い、主要人物の誰も彼もがベールに包まれたような生活を送っている。最後全てのベールが剥ぎ取られるけど、それでも劇中劇のような、どこか実態のなさのようなものを感じてしまう。

その理由はやはりルパン自身にあるのでしょうね。
彼が自分を抑えて地道に活動しているせいだと思います。

とはいえその地道を支える情熱は確かにあって、派手な立ち回りが似合う人なのに、コツコツとした作業も辛抱強く厭わずやるんですよね、ルパンって。
あの容姿の下には精力的な男がちゃんと存在していて、最後は勝利のダンスについても熱く哲学語るのです。
「神聖な情熱が必要だ!」とか言って。

「情熱」は結構キーワード
本作に描かれているのはシブい情熱ですが、他作品とは違ういぶし銀なルパンが楽しめるお話だと思います。



ところで、実は本作で個人的に一番信頼できる人物はおじいさん刑事のラルモナ。
最後あんな別れ方になってしまったのがショックなくらいで、彼にだけはフォロー入れとかないとマズイだろう君ぃ、という気分になったものです。

ラルモナ、全てを知った後どう思ったですかねえ。
ああーなるほど納得、と笑い飛ばしてくれていたらいいなあ。
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by teri-kan | 2009-07-15 11:02 | アルセーヌ・ルパン | Comments(0)
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