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「OZ」その1

個人的に樹なつみマンガの中で最も素晴らしいと思っている作品。
もう20年前のマンガなんですねえ。
なんだかしみじみ~。

時代は核戦争後の近未来、舞台は小国の乱立するアメリカ大陸。
傭兵として戦いの最前線に生きる主人公が、とあるきっかけで伝説の都市を目指す、という物語です。



久々に読み返して思ったのは、主人公がやたら素敵で、これは女にとって理想の男の典型だよなあってことでした。

サバイバルに強い男はやっぱり魅力的なのです。
どんな状況下にあっても優先順位を間違えず即座に決断。戦闘能力は高く、権力者と渡り合いながらも決しておもねず、恐喝も辞さない苛烈さを持ちながら、しかし情にあつい。
主人公ムトーはその優しさと厳しさのバランスが絶妙で、とても素敵なのです。彼の内面の弱さも含めて、好きにならない人はほとんどいないんじゃないかな。

このマンガはそんな主人公の戦いの物語なんですが、ストーリーの鍵となるのは美形の人造人間で、それをめぐる様々な関係性から「人の感情とはどういうものか」といったことを問う物語でもあります。

限りなく人に近い人造人間は学習能力があり、しゃべりが巧みな上、喜怒哀楽や嫉妬心さえ表現して、ほとんど人間と変わらない。一方で主人公の育ての親は、車や土のような「物言わぬ物」にさえ感情や魂といったものを感じていた人でした。
本作では、感情を得たいと言う人造人間の横で、生身の人間も感情的で、生きるのに過酷な時代ゆえ行動が感情・本能の赴くままで、どこか刹那的でもある。そんな刹那を生きる人間とそうでない人造人間の差は決定的に存在して、物語中でもそこの部分の違いで悲劇が生まれたりする。
人は相手に感情を投影して理解しようとする生き物で、「物言わぬ物」とさえ信頼関係が築ける反面、物言う人造人間とは理解し合えず、人間同士だってその部分ではもどかしい。
本作のテーマの中には「理解」ということもあるんだろうと思います。


というわけで、以下は理解し合えた人達について。




ムトーは当然のことながらモテモテで、中でも彼ととある人物とのほとんど恋愛関係のような関係は、ちょっと、いや、かなり切ない。
とうの昔に失われた、夢に見てやまない宝物のような自然と、人工物であるはずの彼の金髪が、ムトーの中で同じになる光景は、綺麗で切なくて、個人的には樹マンガの名場面の中でも白眉のシーンだと思います。

彼(つーか彼女?)があの感情を持つことができたのは、おそらくパメラ・プログラムのおかげだと思うのですが、あれを取り込んだからこそ彼女(つーか彼?)はムトーに対して女になれて、更に次が最大の理由なのですが、消される運命だった自分の存在について悩みに悩んだからこそ心を持つ事が出来たのですね。
唯一「悩み」を与えられた一体だけが「心」を得る事ができたというのは、偶然でもなんでもなかったと思います。

人造人間でありながら「感情」を持つ事が出来た彼女は、実は人造人間の中でただ一人人間らしい体を持たない機械体で、人の体をどれほど渇望していたかは推して知るべしなのですが、だからこそムトーに彼自身の体をもらったことは、この上なく嬉しいことだったでしょう。
別に自分が生身になるわけじゃないけど、ムトーは最も欲しかったものをくれたということですからね。好きな人から与えられたことが嬉しいし、何より理解してくれていたことが嬉しい。既にムトーは彼女の「目」が彼女の人格を表していることをわかっていて、それを彼女に告げてますが、その時の涙が語っていた通り、わかってもらえて受け入れてもらえたことが、彼女にとっての最大の喜びなのです。

理解されるというのは存在を認めてもらうということで、機械でありながら自分の存在意義について悩まなければならなかった彼女にとって、ムトーの理解はそれだけで生まれてきた甲斐のあったものでした。
だから最後の行動が行える。
まあ本当に、「人」ですよね。



この物語には同じように自分の存在意義に悩む女の子が出てきて、彼女もそんな状況と必死に戦っていますが、実はわかりにくいけどムトーもこの種の問題を内面に抱えていて、彼は救う役割を持っていると同時に救われる立場でもあります。

彼は心も、体の方も救われて、ある意味エンディングはメデタシメデタシなんですが、でもこっちの心に残るのはとても切ない何か。


ムトーの最後の台詞は、あたたかすぎて困ります。
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by teri-kan | 2009-12-18 12:26 | 少女漫画 | Comments(0)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


by teri-kan
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