「BANANA FISH」その3

作者は始めの頃どこまでストーリーを想定して描いていたのかなあと考える事があります。
最初から英二をあそこまで重要なキャラクターにするつもりだったのか、アッシュの魂を深く扱う物語にするつもりだったのかどうか、読み直す度いつもその辺が気になります。

最初はそこまでじゃなかったような気がするんですよね。ただ単に「BANANA FISH」をめぐる陰謀とストリートキッズの抗争を描きたかっただけではないかなと思う。英二はあくまで読者目線で見ることのできる登場人物という役回りで、まさかアッシュとあそこまでの関係になるとは考えてなかったんじゃないかな。

とはいえストーリーにほとんど破綻はないので、最初からこういう筋立てでしたと言われたら、そうですかと頷くしかありません。
この辺の緻密さには脱帽ですね。よく出来てるお話だと思います。







問題のラストシーンだけど、ほとんどの人はアッシュが死んでしまうことを予想していたと思うし、私もそれは覚悟してました。
でも生き残る方法を探すことが出来なかったかなあと、やっぱり思ってしまいます。少年時代のアレコレはアレコレとして、その後の人生それなりに穏やかに生きていけなかったものかと、例えばシンのその後を読んだりするとどうしても思ってしまいます。
あんな風に殺さなくても何とかなったんじゃないかと……ま、無理だってわかってるけどさ。

アッシュって物語の途中から何十年に一人出るか出ないかのスーパーマンになっちゃって、彼の才能は彼個人だけのものにとどまらないシロモノに肥大化してしまったんですよねえ。
異常な世界でのみ重宝される化け物じみた人になっちゃって、事件の全てが終わった時、読んでるこっちが今後の彼の才能の持って行き場を心配したものでした。

確かに彼は最初から出来のいい少年だったけど、にしてもあの天才設定は一体いつ生まれたのだろう。あそこまで超人じゃなけりゃその後も生きていたって全然問題なかっただろうに。

英二との対比というのはあったのかなあと思います。月龍の、アッシュと英二への歪んだ愛憎を際立たせるために、アッシュを一際高いところに持ち上げたというのはあるかなと思う。
あとアッシュの中の二面性。ゴルツィネとブランカが作り上げた完璧な悪魔になりえる超人性と、英二にだけ見せるフツーの十代の男の子の部分と、その差を魅力的なものにするのに確かにアッシュの超人化は一役買っている。
おかげで英二との関わりが深まってくる辺りから、ストーリーはアッシュの内面にどんどんどんどん深く入っていって、そこのところは確かに面白かったですね。

アッシュが英二を手放せなくなってしまう直接的な原因はショーター殺害ですが、多分最初の構想では兄グリフィンを撃った兄の友人マックスと同じ業を自らが背負ってしまうというところにもっと重きが置かれていたのかなと思います。アッシュは兄を撃ったマックスに対して殺したいほどの気持ちを持ってたけれど、自分だって同じ理由で同じことを友人にしてしまって、その自分に対する許せなさを静めてくれる人物として英二と同様にマックスの果たす役割も最初は大きくするつもりだったのではないかなと思います。

ところが英二が全部一人で静めてくれちゃったんですよねえ、あの状況下でアッシュの存在を全肯定して。

あそこであの台詞「君まで死んだら僕は気が狂っちまう」は効きますよ。あの親友殺しはアッシュ自身の魂を殺したも同然の行為で、ああいうのに弱いアッシュであるなら一気に転落してもおかしくなかった。なのに英二の存在と、彼の言葉に救われて、アッシュは英二さえいてくれれば人間として狂わずに立ち続けられる人になっちゃった。
アッシュがその後真っ当な精神で戦っていけたのって、本当に英二のおかげなんです。

だから友情とか愛情とかいう言葉では、アッシュにはちょっと軽すぎるんじゃないかと思う。彼にとって英二はホントに彼の人生そのもの、魂そのものだったでしょう。

終盤になって英二が撃たれて、それに対するアッシュの犯人への仕打ちは酷すぎで、ラオが「こいつにとって大事なのはあの日本人だけで俺らは虫ケラ同然」みたいにアッシュを公然と責めるけど、あれって半分当たってるけど実は正確ではない。
他の人間が虫ケラっていうより、英二はアッシュの命なんです。英二がいるから自分は生きていられるってくらい英二はアッシュ自身。だから相応の報いがくるのは当然で、なんかもうあの頃のアッシュと英二は同じ魂分け合って生まれてきちゃってる?状態で、二人を引き離す事なんて絶対無理に思えるくらいだった。
英二が撃たれて現実が目の前に下りてきた直後にブランカがミもフタもない事を言っちゃうんだけど、あそこであれを言われるのはだから可哀想すぎで、ブランカの意図はわかるんだけど、ちょっとアッシュが気の毒だったなあ。
まあ、だからこそ最後の英二の手紙が彼には思いっきり救いになるわけですが。



ゴルツィネを滅ぼして、自分を苦しめてきたものに自分でケリをつけて、英二に魂を永遠に救われて、アッシュが穏やかな顔で死を迎えることができたのは美しい終わり方でした。
本当にストーリーとしては美しいし、とりあえずあのラストには私も満足してます。英二の中で生き続けられるならアッシュは本望だったろうし。
でもやっぱり死ではない閉じ方が描けなかったかなあと寂しい思いにもなる。
遠く離れていても永遠に友人同士でいたのは違いないから、違う国でそれぞれ生きるっていう終わり方でもいいのになあとか、未練がましく思ってしまいますね。

結局私もアッシュ好きなんですよ。
好きな主人公が死んじゃうのはやっぱり悲しいものです。
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by teri-kan | 2010-09-10 10:12 | 漫画 | Comments(0)
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