「オリエント急行の殺人」

イギリスで製作されているシリーズもののドラマ「名探偵ポワロ」の1作。
新作の一つで、先月初めてNHKで放映されました。

デヴィッド・スーシェのポワロはとても好きで、このシリーズはほとんど欠かさず観ているのですが、「オリエント急行の殺人」は有名な映画があることから、自然と映画との比較になりました。
他にも映画化された作品のドラマ化作品はありますが、「地中海殺人事件」や「ナイル殺人事件」はそこまで映画の影を感じずに観ることができたんですよね。
でも「オリエント急行」は事情が違って、映画のポワロが強烈なキャラクターだったためもあってか、それとの比較でどういう解決の仕方をするのか、映画のようにとりあえずめでたしで終わるのか、観る前からそこが気になっていました。

映画版はここの感想でも書いたけど、音楽がとても優雅で、もう呆れるくらいなんです。
事件自体も「豪華列車と常ならぬ大雪が見せた幻」っぽい感じで、実際に起こったことじゃないみたいな、優雅な雰囲気なのです。
ま、実際に起こったことじゃないってポワロが結論づけたからそういう印象を持つのは間違ってないんだけどさ。

とまあいろいろあって、このドラマを観るとどうしても映画との比較になってしまうのでした。

では、ここから下はネタバレ有りで。







原作を読んでないので作品の肝がどこにあるのか、クリスティの意図はわからないのですが、少なくともポワロの解決の仕方が特殊であるということは、その一つとして挙げられると思います。
即ち、真実にたどりついた自分の推理を捨て、現地警察にウソを言ったということですね。それをするポワロの内面は一体どうだったかということです。

映画はあの一作きりなのでああいう雰囲気でも構わないけど、ドラマシリーズではポワロはこれまで延々と殺人事件を解決してきて、殺人という罪に終始厳しい態度を貫いてきました。
今までそういう姿を見せてきたポワロが、果たしてオリエント急行の犯人をどう扱うのか。
そこが一番のテーマで、おそらくそこの苦悩をわかりやすく見せるため、トルコの姦通罪の事件の挿入となったのでしょうが、にしても難しい問題であります。
法とは一体なんぞや?
このドラマはそういった領域に踏み込んでいるのですよ。

結果としてポワロは私立探偵であって警察ではない、というのが全てなのでしょう。
自身が法の番人ならばポワロは迷わず犯人を突き出したと思いますが、ポワロは警察ではなく、しかもこの事件は前段階として誘拐殺人犯が殺人罪に問われていないという、かつて法がまともに機能しなかった大前提がある。
そこのところが問題を難しくしてるんですよね……。

人の世の法が機能しないのなら神の法で裁く。

犯人の行為を正当化する大義名分はこれで、ここでポワロも立ち止まってしまうんですね。で、観てるこっちも悩んでしまう。「ここに悪人はいません!」という車掌さん(だったっけ?)の叫びはこっちもかなりグサリときて、このドラマのハイライトはもう映画とは全然違うんですよ。真実に近付く過程がスリリングだった映画に対して、ドラマはポワロがどういう結論を出すか、それ一点のみ。

だからこれは推理ドラマと言っていいのかどうか、ちょっと悩ましい。
実際私は鑑賞後は「一体法とは?」みたいなことばかり考えたし、私的な復讐に神を引っ張り出す思考回路にも「うーん?」って感じだったし、西洋との違いを強く思いました。

犯した罪に対する相応の罰というのは、人間が考えてわかるものではないのかもしれません。
「目には目を、歯には歯を」はある意味シンプルですごいですが、現代社会でこれは現実的ではないし、犯人が未成年でも大人と同様の罰を与えるべきか揉めた光市の事件のような例もあるし、罪に相応の罰を与えるって難しいですね……。
このドラマでいうならあの罰してる場面は……痛かったよねえ(涙)。
グサッ「うえー」グサッグリグリッ「うえー」って、観てるこっちが胸を押さえたくなるくらいに。
でもあれを行った人達がこれが相応の報いと思っているなら、あの場ではあれでいいんだろう。遺族感情がきれいごとで消化されるなんて思わないし。



ていうかねえ、そもそもこの事件の問題は最初の誘拐殺人犯の裁判がまともでなかったことにあって、こういう話を見るたび思うんだけど、なんで金と暴力がこんなにも堂々とまかり通るんだ? あれだけ世間を騒がせた事件で、皆が注目してただろう裁判で、一体なんで無罪になるのよ。
いくら当時マフィアは力を振るっていたとはいえ、そんなにも世間は弱いものなのか?
金と暴力で法を捻じ曲げ、かたや私刑を行うために神の法を持ち出す。
一体なんなんだよ、もーって感じ。

とまあ、そんなことを思った、後味の悪い「オリエント急行の殺人」でした。
娯楽で観るなら映画の方かな。
あの能天気な音楽がなんだか懐かしい。
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by teri-kan | 2012-03-23 10:49 | 海外ドラマ | Comments(0)
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