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チャレンジャーだなあ

「家盛決起」はホモ回にあらず、微妙なすれ違いが生んだ悲しい家族の物語である!

……と宣言しても、インパクトの強さは如何ともしがたく、頼長と家盛シーンに話題をかっさらわれるのは仕方ないんだろうなあ。
まあ確かにすごいんだけどねえ。
ホント、よくこんなの電波に流したなあ、NHK。

去年の大河ドラマも、家康の伊賀越えに江が同行していたのには「チャレンジャーだなあ」と思いましたが、今回のチャレンジはあれとは比較になりません。
ありえないことを創作するのは、失敗してもバカにされるだけで済みますが、タブーと思われていること(男色シーン)や触れない方がいいんじゃないかと思われている事実(院政は男色がフツー)を放映するのは、批判もシャレにならないものになる可能性が大なわけです。
「平清盛」スタッフはそこに堂々と挑んだわけで、いやー、さすがにこういうのは避けるだろうと思っていたものだから、こっちもビックリしました。変に曖昧にせずきちんと描写していたし、うん、これなら今後戦国モノでも出来るんじゃないかなあ。案外ドラマ表現の幅も広がるのではないか。

まあそれはいいとして、山本頼長、恐かったですねー。
陰険貴族の底意地の悪さ全開で、さすがロクでもない手段で他氏排斥を何百年にも渡って延々やってきた一族の血を引くご子息でありました。
ネット上では真意を明かすのが早過ぎると言われてましたが、あれはあれでいいんでしょう。
真実を知って苦しむ家盛をいたぶるのは彼の趣味だろうから。
嫌がりながらも自分の言うことを聞くしかない相手から財産を搾り取るのがいいのだから。
それこそが摂関家の威光を相手に知らしめるということなのだから。

基本摂関家の人間は皇族と摂関家以外はどうでもいいし、武士なんてそれこそ人間として見てないし、自分の仕掛けた罠でもがき苦しむ姿に「ケケケケケ」って袖の向こうで笑えればOKで、言うなればそれだけ彼らは絶対的な力を持ってるってことなんです。
目をつけられたらその時点で終わり。「家盛が一門を売った」と頼長が言えば、その通りにしかならない社会的現実があの時代には確固としてあるのです。
頼長からお声がかかればそれだけで平家一門大喜びの、飼い主と犬とでも言うべき、決して埋められない力の差が。

可哀想になあ、家盛。

頼長からお声がかかってもただ一人尻尾を振らない清盛の器の大きさ(決して妬みだけで喜ばなかったわけではない)を、家盛はかなり正確に知っていたんじゃないかな。
幼い頃から兄上大好きだった家盛は、清盛の美点を最もよく知る人間の一人で、兄のようには振る舞えない自分というものもわかっていただろうし、だからこそ己の出来ることをしようと一門の益となることをすすんでやってたと思う。
でもそれが完全に裏目に出てしまったよね。
しかも兄を愛した家盛の存在こそが平家の要になっていたということを、肝心の父と母がわかっていなかったのが彼にとっては不幸だった。

可哀想に。

父・忠盛には三つの側面があって、舞子を愛した男の部分と、社会の壁を破って国政に参加するという大望と、平家の棟梁・家族の長としての責任と、この三つが彼の理性の下で並立してるんだけど、宗子は妻として夫の過去の女がどうしても気になるし、清盛は父の大望と自分を重ねることしかしないし、家盛は平家一門の中での立ち位置ばかりを考えて、忠盛を中心にこの三者がまとまらなければならないのに、肝心要のそこがバラバラなんですよ。
忠盛はそもそも無茶なことをその身に抱えていて、でも大望に近付くことが平家栄達と重なっていた時期は上手くやってたんです。いずれ清盛が棟梁になれば公卿にもなれそうだし、そうなれば平家繁栄も約束される。そういう夢が見られるうちは忠盛も理性で生きていけた。
でも今や清盛は社会的にも平家内部的にも排除されつつあって、望みが潰えそうになってしまえばさすがに忠盛の心も揺れる。家盛が跡継ぎになりたいと言うなら「それもいいかな」なんてブレてしまう。

簡単に言えば、老いちゃったんだろうな。
姿には見えねど老いが入ってきたというか。
鳥羽院の覚えめでたい清盛だったけど、それがダメになるなら頼長の寵を受ける家盛という手もあるなと、うっかり思っちゃったところが父は昔の父ならず、ってところなんでしょうね。
忠盛がその大望を抱いたきっかけは清盛の存在にあったはずなのに。

宗子は宗子で舞子より愛されない自分の悲しさを「家盛が哀れ」という言葉でごまかしちゃって、これはちょっとね、本当に家盛が哀れすぎだ。
母親は息子を哀れがり、息子は笑わない母を哀れがる。
ババを引いたのは「なんとかせねば」と先に動いた息子の方。
母親としてはたまらないだろうな……。



とまあ、ホントのテーマはここにあるんだけどね、「家盛決起」。
でも頼長とのアレがやっぱり話題になるよね。
まああれは個人的にもいいシーンだったと思います。
頼長の優雅な猛禽類と獲物家盛、という図は、単純に美しかったです。



平家も源氏も摂関家も、微妙に親子間、兄弟間の軋みが生まれつつあって、ドラマとして非常に良いところにきていると思います。
次は平家内部は大嵐っぽいし、崇徳院も出るっぽい。

来週もとっても楽しみです!
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by teri-kan | 2012-04-09 15:19 | 大河ドラマ | Comments(0)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


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