「浄瑠璃を読もう」

橋本治著。新潮社。

浄瑠璃とは人形浄瑠璃のことで、今でいう文楽のこと。
個人的に全く馴染みのない伝統芸能で、ストーリーを知ってる作品は皆無。
そんな超ド素人がこんな本を読んで理解できるのかって話だけど、橋本治だから理解できるだろうと思い購入。
浄瑠璃のことばかり解説されたら寝ちゃうけど、橋本治なら浄瑠璃を通して江戸時代に深く切り込んでくれるはずだし、実際内容は期待通りで、作品のストーリーも粘っこく(笑)説明してくれるし、全く浄瑠璃を知らない人にもオススメできるくらいの日本論、江戸時代の芸能論、庶民論になっています。

当たり前ですが、歴史は継続していて、戦国時代が終わって江戸幕府が始まったとか黒船来航で明治維新が起こったとか、時代の区切りはあれど流れは全てつながっていて、例えば明治に近代化を受け入れたから日本人は変わったとか、そんな簡単なものではもちろんなくて、江戸時代に培われた思考や価値観なんかは明治になっても当然人々の中に継続されている。
……なんてことをいちいち「なるほどなあ」と感じさせてくれます。
明治以後軍国化に突き進む日本の、出来るかどうかどうやってやるかより先に「まず覚悟を決める」ことを求める極端な性質が、実は江戸時代に出来上がったものだという解説にも「へえええ」でした。
価値観が固定化されてる江戸時代の、理屈のつけ方とかこじつけ方とか、日本人ならわかるわかるってところもね、ホントに日本人を細かく分析した本になってます。

にしても、浄瑠璃のストーリーって簡単に人が死ぬんですねえ。
江戸時代のあるべき形に合わせるためなら我が子の命さえ簡単に捨てるんだからすごすぎる。
本当にね、あっさりと死ぬんですよ、いくら死が身近な時代とはいえ人の命が本当に軽い。
でもこの本に紹介されていた中で一番観てみたいなと思ったのは一番ぶっとんだお話の「本朝廿四孝」。
他の話も無茶苦茶だったけど、これは本当にすごかった。
これこそジェットコースタードラマ?
振り落とされずに最後までお話についていくのが大変そう。

有名な「義経千本桜」には桜の季節がストーリーには全く絡まないそうで、なのになぜタイトルになってたり背景に満開の桜が使われたりしているのかというと、義経自身が桜だという捉え方を江戸時代の人達がしていたからだそうです。

ようするに「ベルサイユのバラ」みたいなもんですかね。
あの話だって別にバラが話に関わってくるわけじゃない。ていうか、バラはマリー・アントワネット自身のことで、例えば彼女がページにドンと登場する時なんかはバックにバラが書き込まれていたりする。
もちろんそれはアントワネットがカゴを背負ってバラを背中に生けているわけじゃなく、彼女自身を象徴するものとしての表現なわけで、義経の桜もそれと一緒だと考えれば、当時の人間にとっての義経のイメージも理解しやすくなります。
よほど愛されてたんですね。桜LOVEの日本人が桜にたとえるのだから、判官贔屓も納得です。


この本には8本の作品が紹介されていて、どの解説も面白いのですが、最もオススメするのは「冥途の飛脚」かな。
これがあの時代に書かれたというのだからすごい。近松門左衛門はやっぱり天才なんだ。
でも辛い内容です。人間社会のままならなさ、そこに生きる人間のままならなさがリアルに書かれていて、近松の作品は辛すぎて江戸時代では次第に上演されなくなったっていうの、わかるような気がします。
上演されなくなったからこそ芸能ではなく文学作品として評価されたなんて面白いですね。
ホント、読んでて初めて知ることばかりで、本書はとても楽しかったです。




[PR]
by teri-kan | 2013-03-01 13:39 | | Comments(0)
名前
URL
画像認証
削除用パスワード
<< ペトロヴィッチ監督 「アバンチュリエ」5巻 >>