「ツクヨミ 秘された神」

戸矢学著。河出書房新社。

「三種の神器」が面白かったので同じ著者の作品を購入。
アマテラスとスサノオの兄弟ツクヨミについて書かれた本で、他の兄弟に比べ記紀の記述が極端に少ないこと、祀られている神社の数も極端に少ないこと等の理由を解き明かし、その背景を語るといった内容です。

本作は「三種の神器」とセットで読んだ方がいいかもしれません。あれを読んでいたらこっちの理解も深まるし、こっちを読んでいた方があっちの理解も深まる。
一部内容が重なってるところもありますが、ある意味仕方ないかも。2冊をまとめたものを出してもいいんじゃないかなーとは思いましたけどね。

さて、ツクヨミと言えば月。ツクヨミのお姉さんは太陽神アマテラス。
月と太陽。陰と陽。陰と陽といえば陰陽道。
実は本書はツクヨミに深く関わる陰陽道を細かく語っている本で、どのようにそれが日本で成立したか、日本の社会にどれだけ深く浸透しているか、といったことを詳しく説明している本でもあります。
そしてそれに欠かせないのが天武天皇。
というか日本の陰陽道は天武天皇ありきであり、天武天皇なくしてありえない。さらに天武天皇なくして日本はない、というくらい重要で、それについてはかなり熱くペンを走らせている印象を受けました。
当時の月についての認識を紐解くなら、月を読むことを得意とした人について解明しなくてはならないって感じかな。
ツクヨミと天武天皇の関係は面白かったですね。

で、その天武天皇。
日本古代史における最重要人物の一人であり、しかしどこか謎に満ちた人物。
その謎は壬申の乱以前の事績が全くないことによるもので、昔からそれを指摘している方は結構な数いました。
私自身本書で否定されていた「舒明天皇の子ではない説」を昔読んだことがあるし、「実は百済の人だった」とかいう小説風の本も読みました。実際そういった類の本を続けて読んだせいで、すっかり「天武天皇はどこかうさんくさい人」というイメージがついてしまって、実は天武天皇関係の本はしばらく避けていたことがあったんですね。
天武天皇に限らず、「実は誰それの子ではない」とか「実は存在しなかった」とか、そういう系統の本って結構つまらないんですよ。
まあ最近は「書いてあることを素直に読めばいいんだよ」って本にめぐりあうことが多いので、いろんな説があれどそれぞれ読んでて楽しいのですが、そうなるとじゃあ天武天皇の前半生の空白は一体何?ってことになるんですよね。
で、本書はそれにきちんと回答を与えてくれるわけですが、うん、そう言われてみればそうかもしれないなという気は確かにする。
よくよく考えれば、前半生がまるで謎ということ自体がおかしいのです。日本書紀が天武天皇を最大限称えている歴史書だというのは誰も異論がないと思うけど、そうでありながら前半生に何も言及していないこと自体がおかしいんですよね。うさんくさい出自ならば創作したキラキラしい前半生を書き入れててしかるべきだし、良いも悪いもきれいさっぱり何もないというのは、やはり何らかの作為が後に働いたからという見方は正しいような気がします。

そこのところの論は面白かったですね。特に草薙剣は天皇にこそ祟る、だから天武の素性は正当であるというところ。
「三種の神器」でより詳しく草薙剣について分析されていますが、三種の神器についての認識の甘さというか、神道や道教といった古代社会を成り立たせていた思想や哲学を知らずして当時のことを知ろうというのは無理なんだなということを教えられた感じです。

まあ肝心のツクヨミの影が仕方ないとはいえ薄くなってしまったのはどうかと思いますが。
ツクヨミのことを知りたくて読んだけど、終わってみれば天武天皇と陰陽道について詳しくなっていたというのがなんだか変な読後感です。




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by teri-kan | 2013-03-07 11:04 | | Comments(0)
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