「怨霊の古代史」

戸矢学著。河出書房新社。

「ヒルコ」を読んでたら更にこの著者の本を読みたくなって、新たに2冊ほど購入したんだけど、これを読んでたら更に他の本も購読せねばならない気になって、いやー、この商売上手っ。
どんどん戸矢氏本が増えていく……。

きっと著者が神職の方だからでしょうねえ。神社や神様についての知識量と造詣の深さが面白くて、どんどん読みたくなってしまう。
神社に興味を持つと究極的に知りたくなるのはそれぞれの神社の由来と実際の歴史との関わりなんですが、誰を祀ってるのか、いつなんのために祀ったのか、この著者の本は長年漠然と抱いていたそれらの疑問にたくさん答えてくれるので本当に面白いです。
で、「怨霊の古代史」は特にその辺についての記述が核心的というか挑戦的というか、ホントなのかね?と思うところもあったりするけど、目の前が開けてくる気がしました。

本書は飛鳥時代の政争に焦点を当てた内容で、主に蘇我氏を扱っています。
三輪氏や物部氏、中臣氏についても触れていますが、メインは蘇我氏のルーツを明らかにし、蘇我入鹿暗殺の真実を暴くことです。
実はそれを題材にした本は巷にあふれてて、私もいくつか読んだことがあるのですが、本書でも指摘されている通り奇説というべき説もあって、読んだのを後悔するようなものも存在します。だから飛鳥時代絡みの本は結構避けてて、本書も最初は読む気なかったんだけど、読後の今は読んでよかったという気持ちが大きいですね。

というのも、本書で説明されている蘇我氏の真実がもし証明されたなら、蘇我氏と蘇我入鹿の名誉が真に復活するんじゃないかなと思ったからです。
私は歴史上の人物についてあまり思い入れがなく、良い説でも悪い説でもどちらでも構わないという感じなのですが、蘇我氏については気の毒だと思う気持ちが強くて、蘇我氏に都合の悪い説にはちょっと「やだな」と思ってしまうんですね。全然公平じゃないんだけど、それを言うなら日本書紀が甚だしく不公平だし、どうしても肩入れしてしまうんです。
入鹿暗殺や一族滅亡自体は普通に起こりえる権力闘争の一つといった感じで特別思うことはないんですが、業績や名誉を何もかも奪われてしまった感がアリアリなのがお気の毒で、1300年以上たった今なお殺されて当然みたいな評価をされているというのがね、本当に気の毒だなあと思ってしまうのです。

祖先神があの神様だというのは突飛でしたが、でも名前は確かにそうだし、個人的には正しい説であってほしいと願っています。蘇我氏の血筋の正しさの証明だし、「よみがえるわれ」と書いて「蘇我」というのはいい着眼だなあと思いました。
四天王寺と法隆寺についても、人間を動かす根源が恐怖心というのは今の世でも通じることなんで納得です。法隆寺の例の救世観音も日本史で最も理屈に合わない死に方をした人、長年隠されてきた仏像同様その真実を最も人々に知られていない人と考えれば、本書の説は筋が通ってると思います。

救世観音は聖徳太子怨霊説で有名ですが、聖徳太子と山背大兄王の人物像の分析は面白かったですね。
いやあ、深く考察もせずに高潔と決め付けるのはダメだねえ。本書で最も驚いたのは山背大兄王に対する著者の冷徹さかもしれないな。
山背大兄王は聖徳太子の息子だから「かわいそう」、蘇我蝦夷と入鹿は名前が悪いから「やられて当然」。
日本書紀から受ける安易なイメージは罪作りですね。



この本、内容はいいんだけど、もっとタイトルをどうにかできなかったものかと思います。
これじゃ巷にあふれてる本と一緒にされてしまいます。ていうか実際してたし自分。
この著者の他作品はタイトルも表紙も個性的で、「ヒルコ」なんていまだに本屋で異彩を放っていますが(だからずっと手に取るのをためらっていたという面もある)、その点だけが本書は残念ですね。
このタイトルと表紙じゃ本棚で埋もれてしまいます。




[PR]
by teri-kan | 2013-03-15 14:01 | | Comments(0)
名前
URL
画像認証
削除用パスワード
<< 「SWAN」モスクワ編 その22 「ヒルコ 棄てられた謎の神」 >>