「古事記の宇宙(コスモス)」

千田稔著。中公新書。

内容紹介には、「神々は『古事記』にどう現れたのか? 海や植物、天地や身体などにこの国の自然観の源流をたどり、『古事記』の言霊を体得する」とあります。

読んでみると確かに紹介通りの内容で、共感できる事が多かったです。
鳥に対する古代人の考え方、植物への考え方、確かにサカキの葉は美しい緑で艶があり、古代では特別だったろうことが想像できます。
鳥はヤマトタケルのエピソードしかり、天と地を結ぶものだったのでしょう。
学術的な生態などわからない時代の、鳥への原始的な思いを想像すると、霊的なものを感じるのはむしろ当たり前なんだろうなと。
鳴き声はそれぞれ特徴があって美しいし、自由に空を行き来する鳥に深い意味を見出そうとしたのは理解できますね。埋葬と結びつくのも理解できます。

私は言霊というものをそこそこ信じてるし、悪いことを口にしたら禍がやってくるといった程度の迷信も、それなりに正しいと思っているのですが、そういった感覚が現代の日本人に全体としてどれだけ残っているのか、ちょっとよくわかりません。
花に向かって毎日歌ってあげたらイキイキ育つということでもいいと思うのだけど、自分の身体感覚でどれだけ自然を含めた周囲のものと近付きあえるか、そこの理解の程度の差で、この本をリアリティ持って受け入れられるかどうかが決まるような気もします。

とはいっても、現代人の自然への接し方はどっちかというと理解で、古代人は基本的に畏怖だと思いますが。
だから根本的には全然違うんですけどね。

とまあそんな感じで、全体的にはなるほどナットクの内容なのですが、どうしても一点ひっかかることがあって、それは海洋民族としての海の神話の説明をしているところ。
あれだけ日本人は海洋民族だ、海は大事だと説明しておきながら、スサノオが海の統治をイザナキから任されたのには意味がないと言い切ってるところ。
あれは矛盾しすぎにもほどがあると思うのですが。
海洋民族の海の神話がそれほど重要なら、スサノオが海の統治を任されたことも重要で意味のあることと考えるのが普通じゃないですかね。
残念ながらここは全然しっくりこなかったですね。

あと、トヨタマヒメが出産の時、八尋の和邇(やひろのわに)の姿に戻っていたという話。
「このワニはサメのことだ」という説が昔から一般的だったのだけど、どうやら本当のワニらしいということで(つまりアリゲーターとかクロコダイル)、その説を本書で紹介してくれてるんだけど、いくらその神話を持ち込んだのが中国からきた人達で、その人達にとっては姫の真の姿はアリゲーターだと言っても、日本に渡ったその人の子供や子孫はアリゲーターを目にすることは一度もないわけで、いくら故郷を知ってる長老が例えばトカゲをつまんで「ワニとはこれの大きいヤツじゃ」とか説明したって想像には限りがあるでしょ。見たこともないのにアリゲーターを思い浮かべるとか無理だよ。
ワニはワニでそのまま単語は残ったかもしれないけど、日本で何十年何百年と代を重ねていくうちに動物は身近な動物の姿に置き換わるか、あるいは誰も見たことのない想像上の動物として確定されるか、そうなっていくのが自然だと思うし、となると日本の神話としてはその置き換わったものが日本の神話であって、既にアリゲーターではないということになると思うんだけど。

ていうか、派虫類のワニが大海原を泳げるとかありえるんだろうか。
トヨタマヒメは太平洋かどこかの海の中出身だと思うんだけど、そうであるなら海をスイスイ泳げる生き物じゃないとおかしくないかなあ。

とまあ、そんなことを素朴な疑問として思いました。
でも全体的にはなるほど~な内容です。
ちょっと古代の人に近づけるかな。




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by teri-kan | 2013-04-16 11:22 | | Comments(2)
Commented by かのん at 2013-04-16 17:30 x
こんにちは。

トヨタマヒメの出産で思い出しましたが、江戸時代の『先代旧事本紀大成経七十二巻本』のなかで語られる天皇の容姿が異常なのです。

例えば神武天皇は、身長が3メートル15センチあり、頭に角を生やし、
鱗と尻尾があり、目が赤く輝いているなど・・・
だから、トヨタマヒメがワニだかを産んでも、あり得る話カモですー^^;

つまり爬虫類生命で、それを「龍神」と恐れ崇めたのではないかと・・・
なにせ天皇のルーツ、それにつながる権威が爬虫類「龍」の系譜と述べているので、徳川幕府は禁書(偽書)としたとありますね。

その『先代旧事本紀』には、「十巻本」、「三十一巻本」、「七十二巻本」の三種類が存在しているようなんですね。

先の記事の戸矢さんの著書はどの「先代旧事本紀」なのか判りませんが、多分聖徳太子の時代にまとめられたという「十巻本」の方でしょうか?・・・

偽書扱いされている「古史古伝」は多いですが、これが一番かもしれない位強烈だと思います~^^;
Commented by teri-kan at 2013-04-17 11:26
かのんさん、こんにちは。

神武天皇、すごい風貌ですね。
「日本書紀」ではトヨタマヒメの出産時の姿は龍だそうなので、龍の血をひく子としての解釈でそんな姿なのでしょうか。

外からやってきた神話は日本でもあちこちの地域に合わせたものに変化していると思うので、「これ」といった一つのイメージにはならないのかもしれませんね。
「日本書紀」の「一書に曰く」の通りなのかもしれません。

でもサメや龍はわかるけどアリゲーターは……。
古代の日本でいつまでもアリゲーターのままでいるのは難しいと思うんですよねえ。
アリゲーターから龍に変化したというのは納得なんですけど。

>戸矢さんの著書はどの「先代旧事本紀」なのか判りませんが、多分聖徳太子の時代にまとめられたという「十巻本」の方でしょうか?

はい、そうです。
偽書ではないという前提に立つと空白が埋まって随分古代が豊かになるなあと感じました。
固定概念で排除するのはダメですね。
いろいろと勉強になりました。
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