「聖書考古学 遺跡が語る史実」

長谷川修一著、中公新書。

「聖書に書いてあることってどこまでが事実なんだろう」という単純な興味から手にとった本です。
で、案外確定されてないことが多いんですね。エジプトやアッシリアなど周辺国がしっかりしていてそっちの記録が残っていればいいのですが、記録が乏しい時期もあったりして、特に時代が古ければ古いほど、当たり前だけど不確か極まりなかったりする。
政情の不安定さからあの地域は発掘調査もままならないし。

まあ、どう考えても最初の方は作り話としか思えないですけどね。
ただ書かれた時期の社会を反映させて先祖の物語を書いたという、その背景に説明がつけば、それは意味があります。それも立派な民族の歴史だし。
そういった説明は本書はとても丁寧で、そこら辺初心者にはありがたかったです。

古代のユダヤについて個人的に最も知りたいのは、ていうか誰でもそうだと思うんだけど、出エジプトなんですよね。
これがどこまで本当なのか、さすがに映画みたいに海が割れたと主張してる人はいないだろうけど、少なくとも大量のユダヤ人が一斉にエジプトを出た記録がエジプト側にあれば、あそこまで話を膨らませる基となった歴史的事実として納得できます。
でも、その辺まだはっきりしてないんですねえ。
本当に民族の記憶に強烈に残るような大がかりな脱出があったのか、たいしたことない事を大袈裟に脚色したのか、確実なことはまだ全然わかってないみたい。

昔読んだ本に書いてあったのですが、ユダヤだけでなくどの民族も民族固有の神を信じていて、その点ではユダヤが特別だったわけでは全然ないのに、なぜユダヤだけが強固な信仰心を持ち続けられたのか。
それは神の存在を信じるに足る普通では成し遂げられない何かが実際に彼らの身に起こったからで、出エジプトがそれにあたるのではないか。

この説明には当時大いに納得して、出エジプトは当時の人々が「奇跡だ」と思えるような形で実際に起きたのだとずっと思ってたんだけど、でも思い込みが先にくる思考の道筋はかなりよろしくないようで、本書はフラットに事実を見て判断することをこつこつと説明してくれます。

入門書って感じなんですよね。
古代のイスラエル云々に留まらず、考古学そのものに対する見方を教えてくれる本って感じ。他の歴史本を読む時の心構えにもなるし、発掘された事物を思い込みから判断することの危うさ、そうならないように自戒することの難しさを真摯に書いてくれています。

そういう意味で歴史を研究したいと思ってる人にはとてもオススメな本。高校生や大学生が読んだらいいかも。
個人的には読んだ後はユダヤの歴史は案外どうでもよくて、歴史の学び方の方に視点がいったくらいだし。

で、最も知りたい「ユダヤ人がどんな苦しい時でも自分達の神を捨てなかった理由」については、結局よくわからないままでした。
いや、本書でも説明はされてるんですけどね。選民意識があるからだって。
でもその選民意識がどこからくるのか、それがわからない。その理由になりえると思っていた出エジプトはなんだかはっきりしないものだったし。
ただ、それが実際にあったにしろそうでなかったにしろ、どれだけそれに意味を持たせられるかという、物語の創作性が大きくものを言っているのだとしたら、妄想をどれだけ膨らませられるか、それをどれだけ盲信できるか、結局そこに行き着くのかなあという気がしてくる。
ようするに思い込みの激しい民族ってことだけど。

でもそうなると、なぜ他の民族と比べてユダヤだけ際立って思い込みが激しいのかってことになって、となるとやはり奇跡的な何かがユダヤ民族にだけ起こったのだろうか、でもそれは一体何?という、最初のところに戻ってしまう。
選民意識は一度生まれてしまえば後は増幅するだけだと思うので(ユダヤ教から発生したキリスト教もその点では同じようなものでしょう)、その生まれたきっかけ、それが知りたいなあと思います。
歴史的事実がもっと明らかになればと思うけど、まだまだ長い道のりっぽいですね。




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by teri-kan | 2013-05-23 12:12 | | Comments(8)
Commented by かのん at 2013-05-23 16:08 x
こんにちは。
>出エジプトなんですよね。

『ツタンカーメンと出エジプトの謎-隠されたパピルスの秘密』(アンドレ・コリンズ著)を読んで、
イクナートン(アメンホテプ4世)のアマルナ改革→アテン神を崇拝、
多神教であった従来のエジプトの宗教を廃し、唯一神アテンのみを祭る世界初の一神教を始めた事など・・・
なるほど~~と思いましたね。

つまり、イクナートンがユダヤ人の一神教発生に影響を及ぼしたのではないかとか、ヤーウェ信仰は、このアテン神信仰がモデルになり、それを持ち出したのではないかとか色々想えるワケで・・・。

ツタンカーメンは日本でも人気が高いですよね。
山岸凉子さんの漫画で『ツタンカーメン』も読んでみました~
細川先生の『王家の紋章』は途中リタイアしましたが^^;

ユダヤ関係の本は結構読みましたが、いまだに解らないことが多いですね。
Commented by teri-kan at 2013-05-24 11:27
かのんさん、こんにちは。

そうそう、思い出しました。
西欧の宗教って異端と言われてたものも含め源流はエジプトにあるんですよね。
そういえば読んだことあります。
思い出したのでその本を引っ張り出してみました。
それにはユダヤ民族の祖アブラハムとその妻サラもエジプト人で、もちろんモーセもエジプト人。ていうかアクエンアテン(アメンホテプ4世)自身がモーセで、十戒も聖書の文言もエジプトの文書に残されているものと酷似しているとかなんとか。

いやー、すっかり忘れてました。恐ろしいですねえ私の記憶力。
まあモーセがアクエンアテンとか、読んだ当時は全くありえんって感じだったんでしょうね。今も極端な説だなーと思うし。
でも現在まで続くユダヤ教的一神教の大元がエジプトにあるというのはそうなんでしょう。もしかしたら認めたくない人も多いのかもしれないけど。

「ツタンカーメン」は読みましたよー。
「王家の紋章」は同じく途中まで。
あれってまだ続いてますよね? 時々プリンセスの表紙であの絵を見るけど、「すごいなー」と思うだけで手を伸ばす気力はもうないです……。
Commented by かのん at 2013-05-24 13:44 x
こんにちは。

私も始めは抵抗があったのですが、今は結構納得してますね。
しかし、このイクナートン王の祖母も母も妃もエジプト人ではなく、
フルリ人の国であるミタニ王国から嫁いで来た王女や神宮の娘らしい。

フルリ人は元々ウラルトゥ地方に住んでいた民族で、ノアからテラに至るまでの九代にわたってフルリ人の娘をめとっていて、ユダヤ人はフルリ人と同一民族といっても過言ではないと。

アブラハムが妻のことを妹サラと呼んだように、日本でもイザナギが妹
イザナミと呼んだのも、フルリ人の習慣が妻のことを妹と呼ぶことに起因しているらしいですが・・・。

フルノミタマ、フツノミタマなどもモンゴル名と言われてますが、
フル→フルリ人のことかも・・・。
Commented by teri-kan at 2013-05-27 00:10
かのんさん、こんばんは。

ミタニ王国ってミタンニ王国のことですよね?
もうここら辺になるとうろ覚えの世界です。
そういえばそんな名前あったなあといった程度の。

フルリ人とユダヤ人ですか……。
同一民族と考えることができるのなら、古代ユダヤの歴史ももっと明らかになるのかな。

フルノミタマ、フツノミタマはモンゴル名説なんてものがあるのですか。
いやあ、いろんな説があるんですねえ。
なんていうか、どこまで信憑性があるのかどうか、いや、あってもとても覚えられそうにない。
モーセ=アクエンアテン説さえ忘れる頭なんで、ホント困るんですよね。
もっと記憶力がよかったらなあって本当に思いますね。
Commented by かのん at 2013-05-27 08:16 x
>ミタニ王国ってミタンニ王国のことですよね?

同じだと思います。
ミタンニというと、篠原千絵さんの『天は赤い河のほとり』で知り、興味が湧いたのですね。

フルリはトルコのヒッタイトなんですね。
ヒッタイトというと鉄で、日本では鍛冶師の神=スサノオみたいな・・・
だから、大陸を経てだとモンゴル名だとかも出てくるんでしょうね。

歴史というのも日本国内だけで見ていると分からないことが多いですが、世界と関連して考えていくと色々見えなかった部分なども見えてくるようで、私は、面白くて楽しいなぁ~と思っているのですー^^;
Commented by teri-kan at 2013-05-28 11:46
かのんさん、こんにちは。

「天は赤い河のほとり」ってヒッタイトに飛ぶ話でしたっけ?
読んだことないんですけど、この漫画、結構いろんなところで出てきますね。
読んでる人多いんですね。

私の歴史への興味は「なんで今はこんな世の中なんだろう」というところからきてるので、信憑性の高いものに興味が向きがちなんですよね。
トンデモ説でもそれが今と大きく関わっていることなら頭の中にも入ってくるんだけど、そうでないとそこまでではないという……。
だから歴史好きだけどロマンは足りないなあと思います、我ながら。
いろいろな説を自分の中に取り込んで遊べたらもっと楽しいのかもしれないなとは思うんですけどね。
Commented by かのん at 2013-05-28 14:22 x
こんにちは。

>「天は赤い河のほとり」ってヒッタイトに飛ぶ話でしたっけ?

私のは、あくまで漫画は、切っ掛けだということですー^^;

ヒッタイト帝国の首都であったハットゥシャシュの人たちは、太陽女神の信徒であったようで、ヤズルカヤの岩神殿のレリーフは興味深いです。
日本のアマテラスとスサノオの誓約のようで・・・

ハットゥシャ遺跡は、現在も発掘が続けられていると言いますね。
Commented by teri-kan at 2013-05-29 14:37
かのんさん、こんにちは。

私も漫画がきっかけの知識って多いですよ。漫画の影響大です。

「天は赤い河のほとり」はよく話題にのぼるので、ヒッタイトが出てくるのはともかくとして、ストーリー的に面白いのかなあという純粋な興味があります。
「王家の紋章」みたいに現代と行き来するのかなとか、やっぱり水つながりなのかなとか、そんなところも気にはなるけど。

ヒッタイトは太陽信仰ですか。しかも女神なんですね。
太陽を崇めるのは世界のスタンダードとして、女神か男神かという違いは面白いですね。

日本人としては女神としていた民族の方に親近感を覚えるかな。
男神は時に威圧的ですもんね。
威圧的な太陽神って恐いですよ。
唯一神の原型が男の太陽神と言われれば、なんか結構納得できますね。
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