「ルパン危機一髪」
2013年 11月 05日
この作品の日本語による全訳はされてないらしく、読もうとなると子供向けのポプラ社しかないそうですが、このポプラ社版も現在ではシリーズから外されており、読む事がますます難しくなっているというアルセーヌ・ルパン本です。
有力政治家の殺害から始まる連続殺人事件をめぐる話で、ルパン扮するルノルマンが活躍しています。
ルノルマン時代というと、ルパンが三十代半ばから後半にかけてといった年齢。
心身ともに最も充実してる時期ですが、事件の性格からして他のルパンものらしいスケールの大きさは感じられません。愚直に警察の仕事を務めているといった感じで、泥棒まがいのことも一応するにはするけど、目も眩むようなお宝や大いなる歴史の謎とは無縁です。
というか、明るさとか陽気さとか大ホラとか、そういったルパンらしい前向きなものも皆無。
小学生の時これを読んで、自分、何を思ったんでしょうねえ……。
今回改めて読んでみて、「こんな悲しいお話だったのか」と、心底寂しい気分になってしまいました。
いや、昔もしんみりしたなあという記憶はあるんだけど、ただしんみりと物悲しいだけではなくて、なんて言うかなあ、この二人はただ巻き込まれただけで、別にこんな不幸な目に合わなくてもよかったんだよなあと思えてしょうがないんですね。
なんでこんなことになっちゃったんだろうとか、どこで間違えたのだろうとか、後ろ向きな方向へ思考がいってしまうのですよ。
爽快感皆無。
とても虚しいですねえ。
ルノルマンの推理はなかなか面白いのです。
最初の殺人を発想の転換で解き明かすところとか「おおっ」って感じだし。
でもなー、最後がなー。
あんなクズのどーしよーもない犯罪がきっかけであそこまで不幸になってしまうのがなー。
そこのところがつくづく残念ですねえ。
我が子を救おうとする母を愛するという点で、どこか「水晶の栓」に似たところもある今回のルパンですが、ボアロ=ナルスジャックのルパンはことごとく恋愛から遠ざけられています。
妙に慎ましいんだよね。それって違うだろってくらいに。
そこら辺に一番ルブランとの差を感じます。
去年発売された「最後の恋」の方がよほどルブランっぽい。ていうか、推敲に荒さがあるとはいえさすがルブランの名で出てるだけはある。
いくつになっても、どの名を騙っても、「あなたほど好きになった人はいません」と言ってのける情熱がルパンには必須なんですよ。
彼の情熱は宝へも女性へも等しく注がれているものだから、片方の恋愛が欠けてしまうとかなり薄味になってしまう。だから今回のお話もとてもあっさり風味。
小学生以降も何回か読み直したはずなんだけど、事件のあらましをまるで覚えてなかったのはそのあっさり感にあると思いますね。
情熱プリーズ。
なんだか昔のルパンが読みたくなってしまいました。