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三谷幸喜の「オリエント急行殺人事件」

二夜にわたって放送された超豪華ドラマ。
言うまでもなく原作はクリスティの名作。

映画ドラマが既に有名な作品なので、舞台を日本にしてどういう雰囲気になっているのか、三谷作のオリジナル部分が違和感なくマッチしているのか、俳優は映画版の超スターのイメージを踏襲しているのか、解決方法が非常に微妙な話だけどそこはどう締めるのか、などなど、注目ポイントてんこ盛りのドラマでした。

で、結論から言うと、面白かった。
パーフェクトとは言わないけど、日本版として日本人が楽しめたドラマだった。
ただ、どうしても気になる点が二つあって、まず、タイトルはやっぱり「特急東洋の殺人事件」がふさわしかったのではないかなと。
オリエントって東洋は東洋でもトルコ辺りのイメージですもんねえ。
ドラマ内では「ABC殺人事件」だって「いろは事件」だったし、ここはタイトルもこだわって日本語表記にしたら良かったのではないかな。
何のドラマかさっぱりわからなくなってしまう恐れ大だけど。

まあタイトルに関してはいちゃもんの自覚がありますが、もう一つの問題点については、結構マズイのではないかと思います。
つまり、犯人が自白しちゃったことですね。
はっきり自白しないとオリジナル部分が成立しないので仕方ないのですが、犯人に自白までされて警察に突き出さないというのは、さすがにちょっとなあって感じです。
あくまでもあの犯人の行動はポアロ(ていうか勝呂)の脳内で生まれただけのものって建前がないと、あの解決の仕方はマズイでしょう。

といった構造上の問題点はありますが、ドラマ自体は面白かった。
ということで、登場人物の感想を映画版と絡ませて書きたいと思います。








ポアロにあたる勝呂を野村萬斎が演じたというのは良かったと思います。
萬斎というか、伝統芸能の人。
他者と違う存在という雰囲気を出せますからね。で、萬斎ならコメディっぽくできる。
映画版ではアルバート・フィニーが強烈なポアロをやってますが、萬斎はあれほど居丈高ではなく、でも素で自信満々。
ドラマ版のデビッド・スーシェが少し入ってるかな? 
案外バランスの良いポアロになってたと思います。変人部分も含めて。
アルバート・フィニーが全くかわいくなかったのと比べて萬斎のはかわいげもあって、勝呂をまた見てみたいという気にもさせてくれました。
クセのある演技だったけど、なかなか良かったのではないでしょうか。

個人的に「とってもイケてるじゃないか!」と思ったのは能登大佐の沢村一樹。
今まで偏見入ってて申し訳なかった。ちゃんと重々しい演技ができるんだ。
いい顔になってました。軽いハンサムが帝国軍人らしいハンサムに大変身。
映画版はショーン・コネリーで、あの人は立ってるだけでその道のプロって雰囲気が出せますが、沢村一樹もちゃんとそれらしくなってて良かったですねえ。
大佐の一番の見どころはナイフを突き刺すところなんですが、職業軍人としての見せ場、カッコイイ。
三谷幸喜のオリジナル部分を見ると、いざとなった時躊躇なく仕事ができる人物として軍人がメンバーに必要だったことがわかるし、頼れる大佐は頼もしかったですね。

嵐の二宮君の秘書は5年間一番辛かったですねえ。
昼出川さん(料理人)の怒りが薄まる時間の流れも辛いけど、敵に仕えて始終一緒にいるというのはしんどいわー。
映画版では秘書はアンソニー・パーキンスが演じてるんですが、アンソニー・パーキンスと言えば「サイコ」のマザコン。つまり、アンソニー・パーキンスといえばマザコン。というわけでもないけど、彼が年上の大佐夫人を慕えば、そのベースにあるのは母への思慕。
そこんところが二宮君の場合は日本らしく、「アイドルのように奥様を慕う」という形になっていて、ブロマイド(つーか記念のツーショット写真)を後生大事に抱えてる様が、案外ありえそうで良かったです。
まあ、馬場さんとか周りの人間は引いてたけど、うっすらコメディ風味になってて良かったですね。
でも燃やした脅迫状は、捜査手法であんなことが出来るなんて知らなかったからしょうがないんだけど、萬斎に全部バレちゃったのは二宮君のせいだったのか。
うーん、ドンマイ。

昼出川さんの青木さやかは映画まんまで笑いました。
小林隆の執事は、映画ウンヌンよりこの人自体が執事っぽいですよね。
で、確かこの執事、腕に覚えのある人だったよね?
オリジナル部分で藤本隆宏の運転手と一緒に藤堂を強襲する場面があるけど、執事の経歴の説明があれば、ああいう荒っぽい所業に出た理由もわかりやすくなった気がしますね。
轟侯爵夫人の草笛光子は品と貫録で文句なし。
富司純子も良かったです。
映画版(ローレン・バコール)よりも明るい印象だったのは、声質の違いもさることながらオリジナル部分のあるなしが大きいかな。

安藤伯爵夫妻が結構いい味出してて、玉木が「華やかな外交官&妻にベタぼれ」という役どころを無理なくやってるのが良かった。
映画版の伯爵より好きかも。
杏は容姿は文句なし。ちょっとアナイス・ニンみたいで雰囲気抜群。
でもしゃべったら杏。
今まで気にしたことなかったけど、あまりいい声じゃないんですねえ。

イタリア系の運転手が博多弁の運転手になってて、なんと北九州出身だとこの度初めて知った藤本隆宏がとても自然に博多人を演じてて、職業軍人である大佐とは別の意味での肉体派でがんばってました。
映画ではちょっと役割の小さい小間使いの恋人の探偵さんが、オリジナル部分で大活躍してたのもいいですね。
下関駅の出発直前のあそこが一番ハラハラしたなー。

西田敏行の車掌さんは安心して見ていられました。
娘への抑えられない愛を表す場面が映画では印象的なんです。
この特急での犯罪計画に彼は不可欠ですが、車掌という職務をこなしながら犯罪の円滑な遂行を促すというのはしんどかっただろうし、私情をできるだけ排していなければ乗り切れなかったでしょう。
そこのバランスの表現が難しくて、役者もだけど車掌さん本人的にも大変な役回りだったと思います。

まあ、ドラマで一番可哀想なのはパインさんなんですけどね!

佐藤浩市も三谷幸喜ドラマでは安心してみていられる常連。
ヒィケーッケッケ、とでも書けばいいのか、なんかものすごい笑い方をしてましたが、映画版のラチェットがいかにも悪い顔だったのを思うと、ちょっといい人ぽかったかな。
生まれがお気の毒といった話もあったし、個人的にはここは同情の余地なしの徹底的なクズの方向でお願いしたかったかも。

松嶋奈々子はいいポジションにいる女優さんなんですねえ。
品と知性と華がある女優って確かに貴重だし、声にちょっと憂いがあるのがいいのかな。
今後もこういったクラシカルなドラマに欠かせない人になるのでしょう。
帽子が似合ってて、また帽子自体がとてもよくて、絵として見てもいい姿でした。

で、最も印象的だった人物1位2位を争うのが、なんと八木亜希子の呉田さんで、実は原作でもこれを演じたイングリッド・バーグマンがアカデミー助演女優賞を受賞してるんだけど、この役って登場人物の中では確かに特殊なんですよね。
皆が皆、「正義の殺人を成さん!正義の殺人は正しい!」と最初から意気込んでいる中、彼女だけはそこで葛藤があるのです。
キリスト教国出身の宣教師である映画版とは当然違いはあるんだけど、最初から最後までいろいろな意味で葛藤し続ける呉田さんは印象に強かったな。
演技する葛藤に比べれば殺人の葛藤はそれほどでもなくなってたってのが笑えるけど、覚悟するまで時間がかかる人なんですね。
いよいよ列車に乗り込むという時の表情は面白かったですね。

といった感じ?
誰か書きもらしてないかな。

鉄道省重役と医師は文句なし。
配役バッチリですね。
ていうか、キャスティングでほぼ成功は決まったようなもんですよね。脚本次第なんですよ、ホント。
相変わらず役者の個性と役がピッタリ合ってたドラマだったです。
この辺の妙が楽しめたからこのドラマは良し。
三谷幸喜に期待したものは見せてくれたと思います。

あ、最後ワインの乾杯で締めてくれたらもっと嬉しかったかも。
映画版は完全犯罪完了を祝うように、皆が無言でワイングラスを傾けるんですよね。
このドラマでは5年間のオリジナルをやったから違う終わり方でしょうがないんだけど、ちょっと余韻のない終わり方だったかな。
二宮秘書もなんか楽しそうで、まあこの辺は5年の月日をしっかりと書いたがゆえの明るさなのかもしれません。
衝撃と悲しみに打ちひしがれていた時期からの年月をどうとらえるか、案外このドラマのオリジナル部分は深いものがあります。

その辺が一番興味深かったですね。
いろいろな面で面白いドラマだったと思います。




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by teri-kan | 2015-01-14 00:56 | ドラマ | Comments(0)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


by teri-kan
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