「天と地の守り人 ロタ王国編」

上橋菜穂子著、新潮文庫。

守り人シリーズの最終章、三部作のうちの第一部。
各国への工作活動を進めるタルシュ帝国、戦争準備にひた走る新ヨゴ皇国。
そしてスパイうごめくロタ王国。
時代の荒波に振り回される一人一人の人間の物語です。

以下はもうネタバレしかない感想です。








前作「蒼路の旅人」で「うおおぉチャグムうう」状態だった私は、そのテンションのまま本作のページを開いたものだから、いきなり始まった手紙に、更に「チャグムううう」となってしまい、気持ちを落ち着かせるのが大変でした。
応援したくなる主人公だと読む方も大変ですね。

この「ロタ王国編」、チャグム目線の「旅人」でやられてたら、読んでるこっちも心が折れまくってどうしようもなかったと思います。
チャグム、どん底まで沈み込んでたけど、それも当然だわ。
頭は良いし、度胸はあるし、心は綺麗だし、しみじみキラキラした子なんだけど、状況が悪すぎるんですよねえ。
時代の嵐に吹かれて転がされまくり……というか、この時代は結局皆がそう。
数少ない状況を把握している人達だって、ただ時代の流れに乗っかってアレコレしているにすぎない。
乗っかってしまえばそこから降りることは難しく、流されるままに行きつくところまで行くしかないという、皆そういった状態。
時代のうねりというのは恐ろしいものなのです。

ただまあ、チャグムはギリギリのところで助けられて、なんていうかなあ、この二人が一緒にいるというのはとてつもない安心感です。
バルサが良いこと言うんですよ。
バルサ本人からしてみたら、ただ単に彼女の価値観に基づいただけの言葉だったかもしれないけど、チャグムにとっては心の窓を開けて風を通してくれたようなものでしょう。
宮に居た時から虜囚として過ごしていた間ずっと、皇太子として、国を率いる者として、民の期待を集める者として、それ以外の生き方はない、それ以外の死に方もない、といった扱いしかされませんでしたからね。
しかもチャグムは責任感がある上に心が柔らか。
自分に期待を寄せる人の思いやら何やらを素直に吸収してしまう。
これではいっぱいいっぱいになって苦しいばかりです。
そういったもので凝り固まっていた心がバルサの言葉でちょっとほぐれたみたいで、別に道を変えるわけではないけど、少しは余裕を持って先に進めるようになったのではと思います。

バルサはそういったところ、ホントにニュートラルで、アスラの時もそうだったけど、所謂「大人の事情」ってやつから見事なまでに自由なんですね。
もちろんそうなるにはそうなるだけの厳しい人生があったからですが、だからこそチャグムには救いで、で、バルサにとってはロタ王国のカシャルやシハナの「大人の事情」は、とことん肌に合わないだろうなと思うわけです。
ホントにね、チャグムが関わっているのでなければ、今のような世界のゴタゴタ、バルサはできるだけ距離を置きたいものなのではないかなと思います。

アスラといえば、とりあえず目覚めていたことにホッとしました。
ささやかながら笑顔も戻ってきたということで、本当に良かった。
でも声が失われていて、もうこれは決して戻らないものなのでしょうか。
例のアレを引きちぎったからこその後遺症でしかありえなくて、あの時のアスラの苦しみと決死の覚悟が改めて胸に迫ってきて辛いです。
前作でタルシュの脅威を目の当たりにして、「出でよ、タルハマヤ」なんて言ってた自分が情けなくなりましたよ。
今更タルハマヤを望むだなんて、そんなの人でなしのやることだ。
と思っていたら、なんと王弟殿下もタルハマヤを惜しんでて、人でなしの仲間発見。
追い詰められた人間の思うことは恐ろしいですね。

ロタの王弟殿下はまだマシで、新ヨゴの帝なんて追い詰められまくって民と玉砕まっしぐら。
やってることは「祈っててやるからワシの盾になれ~」だもんなあ。
平時においては新ヨゴの社会システムは結構いいと思うんだけど、有事にはまるで役に立たないのが辛いですね。
もともと争い事がイヤで北にやってきた、ある意味ヘタレな始祖を持つ皇家の帝ですからねえ、もともとこういうのには向いていないんだろうな。

で、犠牲を払うのは民衆だと。
実は本作で一番ヤバい状況にあるのはタンダではないかと思うのですが、チャグムはとりあえずバルサがいるとして、ホント心配なのはタンダ。
タンダのためにもチャグムとバルサは頑張ってくれーと、結局今回も激励で終わる感想なのでありました。

次は「天と地の守り人 カンバル編」。
チャグムがんばれ、超がんばれ!です。




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by teri-kan | 2015-02-16 00:01 | 本(上橋菜穂子) | Comments(0)
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