「天と地の守り人 新ヨゴ皇国編」その1

上橋菜穂子著、新潮文庫。

守り人シリーズの最終章、三部作のうちの第三部。
バルサとチャグムの物語、いよいよ完結です。

以下は長い感想です。








辛かったですねえ。特に前半の戦闘場面。
優しくて平和主義者なタンダとチャグムの目線で語られるから、なおさら辛さが突き刺さる。
戦場でタンダの思うこととか、いちいち素人っぽくて、いかにも徴集された一般人なんですよ。
いやもう、戦の場面はホント辛かったな。

あんな状況下にあっても、というかあんな状況下だからこそ、皆自分に出来ることを頑張って必死でやってるんです。
避難して商売の基盤を守る商人、彼らを護衛する用心棒、負傷した草兵を保護した村人、男手をとられた畑を守る村人、雪崩洪水の予知に全力を尽くす呪術師、同盟に基づきタルシュと戦うロタ軍とカンバル軍、チャグムは彼らを率いて先頭に立ち、帝は帝らしくその治世の幕を下ろす。
負わされた責任をそれぞれが命をかけて全うしようとしているのだけど、だから尚更タンダが哀れでね、あの状況にあってタンダがなすべきことは、どう考えても槍を持つことじゃない。
まあタンダはその象徴みたいなもので、それは全ての草兵、タルシュ軍の枝国兵に言えることなんだけど、その辺がもうただただ辛い戦でしたねえ。

今回のバルサはとてもパーソナルな戦いというか、今までも新ヨゴをどうにかしたかったというより、チャグム個人のために彼女は頑張ってたわけですが、今回タンダを助けるためにとった行動はものすごくて、なんて言ったらいいのやら、どんな時でも冷静沈着なのが凄まじかったですね。
無人のタンダの家を見た時とか、合戦による死者と負傷者の状況を聞いた時とか、確かに絶望に近い不安を感じてるんだけど、それによって狼狽えたり血圧が急上昇急降下することなく、ずっと冷静なんですよ。誰かに当たり散らすこともない。
その辺の精神力というか、ギリギリの命のやり取りをずっとしてきた人間の肝の据わり方、最善の行動を絶えず選択し続ける胆力の強さ、これがもう凄くてね、ちょっとバルサには圧倒されちゃったですよ。本当に凄かった。

タンダを失ったらバルサは生きていけるのか?って恐れをずっと感じてて、バルサ自身は職業上そういう感情とは向き合わないようにしてるけど、実際に死んだとなってしまったら一気に切れてしまわないかとか、「天と地の守り人」ではそこがずっと不安でした。
だからああいう大手術があったとはいえ、とにかくタンダの命が守られたことには大きな安心しかなくて、バルサの帰る場所が失われなくて本当に良かったと、巻のまだ半ばでしたがそこで既に脱力状態でした。
タンダの症状がとてつもなくショックだった上に、バルサが恐いくらい想像を絶した行動をとったので、なんかもう、頭の中すっからかんだったような気がします。

一方チャグム。
もうね、この子はなんと言ったらいいのか。
同情されるのは本人も本意ではないだろうけど、これからも大変なのは目に見えてるからね。
今までいろんな垣根に苦しんできたように、これからも苦しむのだろうと考えると、こっちの気が滅入ってきますよ。
まだ17歳なのに。

本当の自分と帝としての自分、古い価値観と新しい価値観、越えなければいけない垣根はこれからどんどん出てくる。
聖なる帝を頂点に据えるシステムはある面ではとても有効で、それにすがりつく人は上も下もなく多いことでしょう。
新たに国作りを進める上で、自分が嫌った帝システムの長所に気付くこともあるだろうし、そこら辺どうバランスをとって国を作っていくのか、帝の聖性も自身のカリスマも不要だというなら、国をまとめていくための中心に何を据えるのか、今後のチャグム新ヨゴ再建物語には興味が尽きません。
うん、何年後か何世代後かの物語、書いてくれないものですかね。
どういう国になっているのか、是非見てみたい。

チャグムと卵のなれ初め(?)が明らかになったのは良かったですね。
あの卵は一定期間水の外に出ないと育たないとか、そういう性質もあったりするのかな? ちょっと「精霊の守り人」を読み返したくなりましたね。

ああいう視線で宮が流される場面を見ることになるとは想像していなかったので、ここでもまたまたチャグムが気の毒になってしまったわけですが、異世界が見える他の子供達もそうだったように、両方の世界にまたがっている子はしんどいですね。
チャグムは帝になって更にしんどい目に合うわけですが、あちらの変化を感じられる帝の存在というのは、考えようによっては強みになるかもと思います。
星読博士と呪術師の知識も合わされば、かなり再生新ヨゴは強固なものになるかもしれない。
案外科学の発達した国になったりするかも。
あー、学問の奨励は来そうですね。
チャグムは帝一人の力で国が守られるわけではないことを皆に自覚してもらいたいらしいけど、そのためにも世の理を明らかにしそれを学ぶことは必要だ。
うん、なんとなく先の展望が開けてきたかも。
こういう道ならばチャグムはものすごく頑張れるような気がする。
気が遠くなるほど先の長い話だけど。
まずは皆が住む家を建てて食べるものを作る田畑のやり直しからだし。
でもなんだか未来に希望が見えてきたなあ。

で、数十年後、国の道筋をつけて適度に中年になったところでチャグムは代替わりすればいいよ。
次代への引き継ぎはチャグムがしっかりしているうちにやった方がいいし、チャグムは退位して今度こそ自分の好きなように生きたらいい。
で、是非年とったタンダとバルサに会いにいってほしい。
その治世の豊かさと穏やかさを二人に褒めてもらえばいい。

いやね、このままバルサとチャグムが二度と会わないと考えるのは、さすがに辛いんですね。
会わないのが普通だし、バルサとチャグムがこういう絆を結べたのは、ひとえに非常時の連続だったからで、穏やかな日々だったら二人が会う理由なんてないんだけど、でもいつか会えたらいいなあ。
もうこれは願望だけなんですが、会えると思えば私の心も安らぐので(笑)、ここはもう会えるもんだと思っておきます。
うん、絶対に会える。



長くなってきたので、続きは次回に回します。
あ、一つだけ、チャグムの母上が息子の人格を認めてあげられる人だったことは触れておきたい。
「なんで皇子らしくしないんだ!」系の不満をチャグムに言うような人でなかったことが驚いたし嬉しかったんです。
「皇子に生まれたのが不幸だった」と嘆くことのできるこの妃は、良いバランス感覚をお持ちのよう。
この数年は父親と息子の後に自分も続きたいくらいの気持ちで過ごしていたかもしれませんが、終わってみれば英雄の国母。
宮中の権力争いはどうなるかわからないものですね。

次は南の大陸から見た北について。
タルシュ皇帝の北の大陸への夢の理由が、何気にとんでもないものだったので、それをちょっと書いてみます。




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by teri-kan | 2015-02-20 23:35 | 本(上橋菜穂子) | Comments(0)
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