スイスの自衛権

昔から時々出ていた意見で、スイスのような永世中立国になればいいじゃないかというのが日本にはあるのですが、それについて常々思っていたことをちょっと書いてみます。




2006年に行われたトリノ冬季オリンピックは、1999年のIOC総会で開催地が決定したのですが、立候補地として名乗りをあげていた都市の一つに、実はスイスのシオンがありました。
投票前はシオンが有利と言う声があって、スイス国民は楽しみにして結果発表を待っていたらしいのですが、蓋を開けてみれば大きく差をつけてトリノに決定。
スイス国民は大層ガッカリしたそうです。

で、翌日の朝刊(もしかしたら朝日新聞)にスイス人のコメントが載ってたんですね。
「ここまでスイスが嫌われていたとは思わなかった」と。
嫌われていた自覚はあったけど、オリンピックを開催させたくない程嫌われていたのかと衝撃だったらしく、その新聞ではその辺の背景についても説明してくれてました。

まあざっくり言うと、スイスはどことも同盟を結んでいない。集団的自衛権を拒否している。
だから困っている国があっても絶対に助けに行かない。
「助けてあげろよ」と他の国の人々が思っても、自分の国は自分だけで守るからよそのことは知らん、という態度を固く守り通している。
そんな国の在り方だから、そりゃ周囲から見れば好きになれるはずないだろう、スイスという国の悩ましいところである、という説明です。

スイスが他国のために戦いたくないと思う気持ちは、実は彼の国の歴史を見れば納得できることではあります。
スイスは国土が山だらけで、農地をほとんど作れず、これといった産業もなかったんですね。
だから国民が食べていくためには男連中が傭兵となって金を稼ぐしかなく、スイス傭兵は長い間他国の軍に雇われ、他国同士の戦争で血を流し続けてきました。
今もバチカンのスイス衛兵に名残として残っていますが、そういった歴史を歩んできた国ですから、もう他人のために自分達の血を流すのはイヤだという意識になっても、まあしょうがないよなあという気はします。

その変わり自国を守るために血を流す覚悟は大いにあります。
集団的自衛権を行使しないということは、有事の際にどこの国も助けてくれないということ。だから当然自分達だけでやるしかない。
徴兵制はもちろんありますし、各家庭の銃の所持もバッチリです。
1年前だか2年前だかの国民投票で、確かそれらの存続が大多数で支持されたんじゃなかったかな?
スイスは永世中立国で、アニメのハイジのおかげもあって、日本ではのほほんとした平和主義国家のイメージが強いですが、実際はバリバリの武装国家、徹底的な武装孤立主義です。

新聞に出ていた件のスイス人は嫌われてるスイスを嘆いていたけど、欧州人でないこちらとしてみれば、スイスには名高いスイス銀行があるし、欧州のド真中の中立国としての役割も果たしているし、孤立と言ってもアジアとは全然違うからいいんじゃないの?って感じです。
西欧の一員であり白人国家ってだけでこの世界では勝ち組だし、日本が昨今のアジア情勢の中で孤立したらマズイなあと悩むのとは訳が違います。
ていうか、日本は孤立だけは避けなきゃダメでしょう。
どう考えてもスイスのように自分達だけで国を守れるわけがないし(なにしろ周辺国が軍事大国だらけ)、オリンピック開催地の選考等であからさまに嫌われてる態度をとられて平然としていられるようなメンタルを持ってるわけでもないし。

とまあ、そういうことをいろいろ考えてると、集団的自衛権は必要なんだろうなあという結論にしかならないんですよね。
今審議されてる中身や過程はともかくとして、集団的自衛権自体はね、日本には必要なんじゃないかなあと。
先の大戦で得た教訓の一つは「世界で孤立しない」ってことだし、金だけ出して済んでた時代はとっくに終わって、安全なところで安全なことだけしてOKな時代も終わりつつある今、孤立せず、いざとなったら他国に助けてもらえる日本にするには何が必要か、考えないといけないんだと思います。

消極的平和主義の究極の形は鎖国で、江戸時代の日本はその消極的平和主義のおかげで稀にみる安穏とした年月を過ごしてきたけれど、そんなもの外国の都合一つで終わってしまうのだということは、幕末の黒船来襲で既に経験しています。
外国政府の意を受けた船が領海に勝手に侵入し、あからさまな敵対行為(例えば江戸に大砲を向ける、巡視船に追突する)をした時点で、平和は終わったに等しいんですよね。
それまでの平和を成り立たせていた常識(例えば太平洋を艦隊は越えられない、大戦後に定められた国境は守られるべき)が破られた時、それまでの平和はそれまで通りには存在しえない。
認めたくないけど、でもそうだと認識しなければこの先の平和を守ることもできないし、変わりつつある世界情勢に対処するために、日本は柔軟さを身に着ける必要はあると思います。

という事を考えるにつけ、スイスは平和じゃないか、徴兵制も銃の所持ももう廃止にしていいじゃないかと思うのだけど、スイス人はそれを選ばなかったんですよねえ。
今の日本と比べたらスイスの方が格段に安全だと思うんですけどねえ。
国境線はどう見ても安泰でしょ。スイスを囲んでる国はどこもマトモだし。
テロの備えは必要だけど、それでももうちょっと緩めてもいいんじゃないですかね。

でもその辺はやっぱりスイス人の沁みついた危機意識の高さなんだろうな。
ヨーロッパのド真ん中の内陸で、周囲の大国に翻弄され続け、傭兵を出し続けざるを得なかった歴史のせい。
日本とはホント真逆なんですよね。
日本は周囲は海、しかも片側は太平洋。
余程のことがない限り外国から攻められることはなかったし、資源も農地も限りはあるけど、国民がそこそこ食べて生きていける分は国内でまかなえた歴史があった。
こんなにも違うんだから、国民性も違ってて当然なんですよね。
国の守り方が違うのも当然。

いろいろなことを比較してみても、スイスと日本を単純に並べて見習おうと言うのは、やはり無理があると思います。
日本の場合は中国と朝鮮半島が民主化されればもっと簡単になると思うんだけど……。
ニュースなんかではヤバい話しか聞こえてこないし、どうなるのか先が見えないのがイヤな感じですね。
あまりキナ臭い話は書きたくないけど、いろいろと起こりそうで落ち着きません。
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by teri-kan | 2015-08-21 14:43 | その他 | Comments(2)
Commented by at 2015-08-22 00:07 x
初めまして、読んでてこれはコメントせねばと思いこの度書き込ませていただきます。お気に入りにも入れてます。

自分は今盛り上がってる安保改案による自衛隊参加範囲の拡大しすぎな集団的自衛権には反対なのですが、しかし集団的自衛権自体は他国とのお付き合いの過程で義理立てして参加する義務がある、のでしょうかね。
とはいえ後方支援・兵站活動はー、やっぱりその場しのぎの欺瞞・口実にも聞こえます。自国軍の兵站すら禄に補給できなかったのに。そのデンで言うと現時点で行ってる補給艦の給油活動だって集団的自衛権に該当しそうなもんですが、違うんだとか。
あと日本史をちょい読んでると、日本が所有する「武力を持つ兵隊・軍隊」って国内間の内戦状況には対処できても国外から一歩出た他国の戦争(初戦は白村江の戦いでしたっけ)にはとても対処しきれないような気がしてならないんですよね。
20世紀からこっち「近代化された軍隊の活動地は他国(への侵略だか自衛活動だか)」とかの常識が定まってはいても、それまで平時の状況で過ごしてきた兵士が他国へ出動されたらいくら専門とは言え想像できないような混乱に陥る、ましてそこが戦地では猶更。というわけでやっぱり不安が消えませんね。
それまでは「あんなチンケな国にテロ起こしたら沽券に関わるよ」で見逃して貰えたのですが、それも終了しつつあるのは判りつつ、しかしねえ……。

なんか重苦しい話してしまいました。
ホントは古事記とかのお話もしたいのですが、それでは。
Commented by teri-kan at 2015-08-23 02:48
創様

初めまして。
コメントありがとうございます。
お気に入りに入れていただいてるということで、重ねてありがとうございます。嬉しいです。

安保法案については難しすぎて、どうぞ詳しい方達で良い議論を重ねて現時点でベストなものをお願いします、としか言いようがないというのが正直なところです。
白状すると何を信用したらいいのかわからなくて、まあ野党のヒステリックな主張は端から信用してませんが、曖昧な政府の言い方も信用ならないし、メディアは更に信用ならない。
安全保障に関することなので何もかもオープンにするのはダメだけど、オープンにされないと不安という、ジレンマみたいなものを感じますね。
安保改正は必要だと思うけど、不安は大きいです。

確かに歴史を見てみると、海外での戦争で良かったためしが日本はないですね。
勝った日露戦争だって戦死者は膨大ですし、基本的にやはり資源の少ない島国としての力しかない国なんだと思います。
でも、だからこそ仲間が必要。
戦争にならないための集団的自衛権だと信じたいです。

そうなんですよ。できることなら古事記とかの話題で楽しく書いてるのが私も性に合ってるんですが、なかなかそれだけってわけにいかないのが昨今の日本なんです。
とはいえ基本はのほほんとした感想ブログですので、またお気が向いた時にでも気楽な話をしにきていただけたらと思います。
コメントどうもありがとうございました。
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