「昔話はなぜ、お爺さんとお婆さんが主役なのか」

大塚ひかり著、草思社。

面白そうだと思って購読したのですが、思っていた以上に高齢者福祉のお話というか、昔話を深く知るというよりも、とにかく高齢者福祉、高齢者福祉の本です。
昔話や古典文学の解説は確かにたくさんあるのですが、現在の日本の高齢化社会を考えずにはいられない内容で、そういったものを求める方には大変オススメの良い本だと思いますが、昔話についてちょっと知ってみたいかもという程度の人には重いかもしれません。

高齢者福祉のみならず児童福祉にも関わる内容で、昔話の主役とは、ようするに社会的弱者ということなんですね。
社会的弱者とは何かというと、生産活動に携われない人達ということで、要するに「働かざる者食うべからず」、働けない者に生きる資格はないという、社会でギリギリのところにいる人達のこと。
姥捨て山、捨て子、酷い行動をとる老人、そういった昔話がゴロゴロあることの理由が、働けない者の生きる居場所がない過酷な現実の反映だったということです。

体の弱った老人は社会で完全にいらないモノ扱いされる。
現代の価値観だと「なんて酷いんだ(怒)!」ということになりますが、貧しい社会は古今東西大なり小なりそんなものではあるでしょう。
現代の日本でさえ年金支給年齢はどんどん上げられて、老人は死ぬまで働かなければいけなくなるかもしれない。
働ければまだましで、働けなかったらどうすればいいのか。
面倒みてくれる子供がいればいいけど、子供も共倒れという話は普通にある。
生産活動ができない人を養うというのは、個人・国問わず財政に余裕があってこその話なんですよね。

読みながらしみじみ経済が順調であることが何より大事だなあと思わされたのですが、介護にお金がかかるのは当然として、高齢者はもちろん障碍者といった社会的弱者が世の中で活動しようと思うなら、例えば電気使用量は必然的に高くならざるをえないわけです。
エスカレーター、エレベーター、クーラー、夜道の明るさ、なんだか細かいこと言ってるけど、弱者と言われる人達がなるべく不自由なく安全に生きていこうと思ったら、大量の安定的な電力はどうしても必要。
しかも安い電力です。
電気料金が高くなったから国内工場を閉めて海外移転させるなんて話を聞くと、失業者とその老親の介護はどうするんだ、税収も減るじゃないかということになるし、高齢者を大切にと思うなら、経済力を低下させるわけにはいかんのですよね。
電力も安定的に安くとなると、原発の再稼働の問題も考えざるをえなくなって、なんかもう読んでてホントしんどいんですよ。
難しいですねえ。

というように、昔話を知りたかったのに現代の問題を突きつけられるところがしんどくて、可愛らしい装丁に反して結構ハードな中身が「ちょっと想像していたのと違っていたかも」といった感じの本でした
川崎の老人施設の事故や虐待とか、これに書かれてることと大して変わらない事件も頻発してるし、昔話で全然すまないんですよね。
だから本当にしんどい。

我ながら甘かったなあと思います。
主役をはるパワーあふれた元気な老人を求めてこの本を読んだら愕然とすることウケアイ。
老人問題は昔も今も綺麗ごとじゃ全然ないですね。
社会のあり方と直結してるから考えなきゃいけないことが多すぎる。

あ、そういえば、認知症は現代に特有の問題かと思っていたら、昔から認知症の老人がいたという話は印象的でした。
これはちょっと書いておきたいかも。
突然豹変する鬼婆の話とか、奇行の老人の話とか、そういった昔話の老人は認知症の人がモデルになってるんだそうです。
言われてみればなるほどーです。
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by teri-kan | 2015-09-30 14:51 | | Comments(0)
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