「大空のドロテ」

瀬名秀明著、双葉文庫。
上下2巻。

モーリス・ルブランの「綱渡りのドロテ」のドロテを冠した物語。
「日本SF作家クラブ50周年記念作品」として発表されたもので、文庫化されるのを待って昨秋購入しました。

思いの他読むのに時間がかかって、忙しい時期だったとはいえ二か月以上も費やしました。
なかなかページが進まなかったですねえ。
「これはどういう読者を想定して書いたものなのか?」という疑問も大きかったかなあ。
要素が詰め込まれすぎた話だったですね。


では、以下はネタバレありの感想。








読むのがのろのろだった原因の一つに、飛行機の描写が多すぎというのがありました。
飛行機好きな人、特に第一次世界大戦時の戦闘機が好きな人、航空力学に詳しければなお善し。そういう人にとっては楽しい話だと思います。
でも全く興味のない人間には辛い。飛行機の部位の名称すらわからないから曖昧な想像しかできない。
読み飛ばしたいが、しかし飛行機はこの物語の主役と言っていいくらいの存在。
頑張って読みましたけど、理解度が低くなるのはどうしようもなかったですね。

でも本書は飛行機の知識以上にアルセーヌ・ルパンをどれだけ知っているかの方が重要で、ここをクリアしていないと話になりません。
「綱渡りのドロテ」は当然、「虎の牙」、「813」、「金三角」、「奇岩城」、宝冠盗難事件も必要だから「ルパンの冒険」、もひとつおまけに短編集から「ルパンの結婚」。
あ、そうだ、「ハートの7」も。
それくらいは読んでないと意味わからんだろうという内容で、既にもうそこから間口が狭いのです。
ベッタベタなルパン好きで、しかも飛行機好きでないと楽しめないという、かなり読者を選ぶ本なのですよ。

更に、それでいながら少年少女の冒険モノ好きで、なおかつ第一次世界大戦終結時の世界情勢の把握をしている人。
おまけのおまけに当時の欧州の推理作家に詳しい人。
最後とある人物の名前が出てきた時には、「え?これはこういう話だったのか!」とビックリしたんだけど、本当にいろいろ詰め込まれてましたね。

おそらく一番書きたかったのは少年の冒険なんだろうな。
小さな町から外の世界に羽ばたく少年、文字通り大空に羽ばたく少年。
少年がその後どうなったのか明らかにしてないところはいいですね。
少年の冒険とはそのようなものでいいのでしょう。
「天空の城ラピュタ」のパズーだって、冒険の物語はあそこで終わりで、どんな大人になったのかは描かれません。
本書は現実世界が舞台である上に実在の人物も登場してるから、リアルな時の流れを意識しすぎて少年のその後を考えてしまうけれど、そんなものは必要ないという理解でいいのだと思います。

ルパンの解釈については、「ほほー、そうきたかー」といった感じでしょうか。
アフリカのルパンの帝国については、もともとそれだけで長編小説が出来そうな内容ですから、自分なりに話を広げてみたいと思う人が出てきても不思議じゃないのですが、にしても豪勢で壮大なストーリーに仕立てていました。
思いっきりネタバレになるんだけど、あの女性が出てくるとか、「え!?」でしたよ。
「あの時のルパンの愛と絶望を返せ(笑)」と言いたくなるくらい、なんなんだこれは!?という展開を見せてくれました。

ドン・ルイス・ペレンナの件にしても、なんだか「虎の牙」を読み返さないといけない気分になっちゃって、「大空のドロテ」と齟齬がないかどうか、確認してみたいと思ってしまいました。
なかなか面白い解釈でしたね。
作者的には「虎の牙」のドン・ルイス・ペレンナにいろいろ思うことがあるんだろうな。
私はルパンの哲学は「人生は冒険」「人生は愛」「愛は冒険」「冒険は愛」だと思ってるので、「虎の牙」でフロランスとルパンがああなるのは納得なんだけど、愛より帝国に重きを置きたいファンがいるというのは理解できます。
そういう人には本書のドン・ルイス・ペレンナの解釈は歓迎できるのかもしれません。

まあ個人的にも、二人が並んで敵と戦う姿が想像するだけでウットリだったので、それでこの説もOKでいいやって感じです。
もう一人偽者もいて、なんで似た容貌のカッコいい人がこんなにワラワラいるんだろうという疑問も出ないでもないけど、カッコいいんだからまあいいかと、その辺は軽く受け止めています。

で、疑問なんだけど、結局ルパンは途中どこで何をしていたんですかね?
何か説明があったっけ?
しっかり読んだという自信がないから、見落としてる感じがして落ち着かないです。
読み返したらルパンかどうかあやふやだったところがクリアになって、かなり物語を理解できるようになると思うんだけど、そんな気力ないし、誰かに教えてもらえるならそれを鵜呑みにしたい気分です。
マズルーとチェスタトンはどうやってあそこから逃げ出すことができたのかも知りたいし、一緒にいたはずのナントカ伯爵、結局助かったんですかねえ?

そして疑問と言えば、一番の謎がこれ。
このお話に少年少女の冒険は必要だったのか?という根本的なところ。
少年少女の冒険がテーマとくれば対象読者は普通少年少女だし、事実この本の表紙絵は若年層向けの絵柄になっているのですが、読む限り内容はどう考えても少年少女向けじゃないんですよね。
老作家の性愛事情なんぞ子供にはどうでもいいし、ルパンの恋愛遍歴の解釈も子供向けにはなってないし、そもそもルパンの長編を5~6冊頭に入れて読めなんて、主人公と同年代の子供にはちょっとハードルが高い。
だから大人向けであることは確かなんだけど、ではなんで少年の冒険と感情をあそこまで丁寧に描いたのかというと、多分大人になってから振り返った少年がテーマだから、ということになるんでしょうね。
壮年、中年、あるいは老年になって振り返った少年ってことなのかなと。
少年時代の自分を懐かしむ話であり、少年を大人としてどう見守っていくかということに思いを馳せる話。
大人が少年にエールを送る話と言ってもいいのかも。
大人が少年時代の心を思い返しつつね。

多分、「日本SF作家クラブ50周年記念作品」というのと無関係ではないように思います。
50年前のクラブ誕生から今までの歩みの振り返りを前提として書かれてるとすれば、こういうテーマも納得できるし、ある意味詰め込みすぎの複雑さも、その辺の事情からきてるのかなと思います。
日本SF作家クラブについては全くの無知なので、迂闊なことは言えないけれど。



まあとにかく、現実とお話と、本の中の現実と、いろんなものが入り交じって、虚構との境界が曖昧になっていく感覚が楽しい話でありました。
飛行機が好きだったらもっと楽しめたと思います。
少年が抱く夢の象徴として描かれているだけでなく、少年を未来へ促すための象徴として乗り物としても最先端技術としても重要な扱いをされていたから。

ルパン好きで飛行機好きで推理小説・冒険小説大好きな人、そんな人にはオススメの1冊です。
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by teri-kan | 2016-01-29 15:05 | アルセーヌ・ルパン | Comments(0)
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