「マスケティアーズ」と宗教戦争

第9話で王妃を襲撃した人達は、土地を奪われたカトリックのアイルランド人兵士でした。
誰に奪われたかというとイングランドですね。
当時イングランドは反カトリック政策を推し進めており、支配下にあったアイルランドでもカトリックを弾圧していました。

ドラマに出てきた「ヒュー・オニール」は、アイルランド人領主連合を率いてイングランドに抵抗した人だそうですが、さすがに日本ではマイナーです。
でもイギリスでは有名なのでしょう。名前の登場には当時の時代背景を説明させる意図もあったのではと思います。
アイルランド、イングランド、フランスにおける新教VS旧教の関係が名前一つでわかるんでしょうからね。
その辺はやはり宗教戦争の本場ならでは。
日本人には察するのは難しいです。

というわけで、「三銃士」の原作は読んでいませんが、時代背景抜きにこのお話は語れないところがあるので、ドラマに出てきた事柄について自分なりに整理してみました。
旧教(カトリック)と新教(プロテスタント、フランスではユグノー)がドラマのストーリーとどう関わっているか、という話です。








「マスケティアーズ」の時代、ヨーロッパは新教徒VS旧教徒の嵐があちこちで吹き荒れましたが、フランスも例外ではなく、ドラマで愛すべきバカ王をやってるルイ13世の父親アンリ4世は、長い内戦のなか新教徒になったり旧教徒になったり、その時々の情勢に振り回され、最終的には狂信的なカトリック信者によって暗殺されました。

36年続いた宗教対立によるその内戦はユグノー戦争と呼ばれますが、ルイ13世は戦争終結4年後に生まれていますので、ユグノー戦争はドラマの時代より30年くらい前に終わったものと理解していいかと思います。
なので9話に出てきた女子修道院長は内戦を経験している人ですね。
具体的にどういう体験をしたかはわかりませんが、修道院が無傷でいられた時代ではありませんから、武器の扱いに慣れていること、新教徒を殺すことに躊躇がないことなどを考えると、院長もそれなりの体験をし、その後も何かあれば今回のように戦ってきたのだと思います。

アンリ4世は有名なナントの勅令で新教徒の権利をカトリックと同等にすることを認めた名君ですが、そのおかげで内戦は終結したものの、フランスという国の中に自治を認められた新教徒の国があるといった格好になり、次のルイ13世の政治を非常に難しいものにしてしまいました。
新教徒に反乱を度々起こされますし、王とリシュリューの政策が新教徒を締め付ける方向に向かうのは仕方なかったでしょう。

新教VS旧教は単なる宗教対立ではなく、支配階層にとっては権力争いで、実は新教徒の貴族はフランスにたくさん存在していました。
というか、アンリ4世自身がもともと新教徒でした。
王位継承権を持つブルボン家が新教徒っておかしくないか?と思われそうですが、政敵がカトリックだからこっちはプロテスタントになって対抗するという事は普通に行われていました。
宗教の争いと政治の争いはもろにセットなのです。
前述したユグノー戦争も途中からはグチャグチャの王位争いでした。

10話で枢機卿が「世継ぎがなければまた内戦になる」と口にしていますが、それはこのことを指しています。
実はアンリ4世が即位できたのはライバル二人が暗殺されたからなんですね。当時は王位をめぐって文字通り血で血を洗う抗争が行われました。
王妃暗殺計画はフィクションとしても少々無理がありますが、王位争いはもうごめんと枢機卿が思う気持ちは、だから歴史を知っていれば「確かに」と理解できるものではあります。

ただ、ドラマは新教徒締め付けがそこそこ効いている頃なのかもしれません。
5話に出てきたモーヴォアザン家は代々新教徒だったのに当代でカトリックに改宗したとのことでした。
具体的に何があったかはわかりませんが(ドラマの記憶がちょっと曖昧)、傾いた家勢を盛り返すために改宗が必要だったのだと思われます。
裏にリシュリューの新教徒締め付けと懐柔があった可能性は高いかなと。
5話の犯罪計画の裏にはしっかりリシュリューがいたし。
パリの新教徒は穏健派だったとのことですが、王の御膝元で冷遇あり懐柔あり妥協ありの工作が行われていたのかもしれないなあと思わされるモーヴォワザン家の顛末でありました。

フランス国内の新教徒の権利剥奪は、「三銃士」原作にも出てくるラ・ロシェル包囲戦の国王勝利によってほぼ完了します。
新教徒は信仰自体は許されますが、王に抵抗する力は失いました。その後王国は王権を更に強化し、絶対王政に向けて右肩上がり。
10話で王妃は枢機卿の罪を問いませんでしたが、フランスを右肩上がりにしたのは宰相のリシュリュー枢機卿。
ドラマとはいえ彼を公の犯罪者にはさすがにできませんでしたね。
枢機卿はこれからも活躍する大宰相です。



新教徒の反乱はルイ13世とリシュリューにとって国内最大の課題の一つでしたが、外交ではドイツの新教VS旧教から始まった三十年戦争にどう対応するかというのが重要課題でした。
ドラマの年代がよくわからないのですが、9、10話で登場するメレンドルフ伯爵はハンブルクの人でしたから、三十年戦争絡みでの登場だったのかなと思います。

メレンドルフ伯令嬢がプロイセンとスウェーデンの名を挙げたのが結構重要で、特にスウェーデンが出てくるのは教皇庁から派遣された神父が7話で口にしてから二度目です。
実はフランスは三十年戦争で新教国のスウェーデンと組み旧教国のスペインと戦争を始めるという、宗教的信条とは真逆なことをやるんですね。
その辺の真意は枢機卿が7話でちょっと語っていましたが、とにかくハプスブルクがヨーロッパで強大になりすぎないようにするのが目的。
ブルボンVSハプスブルクのヨーロッパの覇権をかけた戦いが、宗教戦争にかこつけた形で行われることになります。

もしかしたら今後ドラマで王妃の実家と戦うフランス、という場面が出てくるのかもしれません。
戦争になればフランス国内で王妃の立場は悪くなります。
ということはアラミスの心も辛いことになる。
そうなればドラマとしては面白そうです。
4話で出てきた王の妹のサヴォワ公妃が思い出されますね。
フランスは公妃の身の安全のために銃士隊を捨て石にしましたが、ドラマは王妃と実家の関係をどう描くのか。
その辺は楽しみにしたいところです。



この時代のヨーロッパは旧教の堕落と新教の台頭、新大陸から流入してくる富による経済発展・人口増加、それによる格差拡大、凶作・景気低迷による治安悪化・政情不安、そういった諸々により社会全体に余裕がなく、大変不安定な世界でした。
魔女狩りが横行したのもそういった社会情勢が背景にあり、ちょっと気に入らないことがあれば相手を魔女として告発し、命と財産を奪うということが平気で行われていました。
その辺りはきちんと7話で描かれましたね。
植民地経営がボロ儲けできるというのも3話で出てきました。
格差については5話。
貧民窟から抜け出そうとして罪を犯したポルトスの昔馴染みの話です。

「マスケティアーズ」はそういうところ、外してない。
事件や銃撃戦は派手で大胆だけど、社会背景は案外真面目。
ここを適当にやってしまうとイケイケアクションがバカバカしいものになるでしょう。
そこは上手いこと作ってるなあという印象です。
虚実の入り乱れ感が絶妙。
エンターテイメント作品としてこういうのは理想の一つではないかと思います。



といった世界史講座でしたー。
間違えてないかドキドキ。
大雑把な理解で書いてますので、違っている点があればご指摘下さい。

今は真剣に再放送がないかなあというところです。
7話まで録画するとか保存するとか、そんな頭なかったんですよねえ。
記憶も一部怪しいし、いろいろ見返したいところが今になって出てきて、結構真面目に困っています。

DVDが出たら買いたいなあ。
もう一度じっくりしっかり見てみたい。



(追記)
後から確認できたことですが、第1話が1630年から始まってるので、ラ・ロシェル包囲戦は既に終わっていますね(1628年)。
1630年はマリー・ド・メディシスのクーデター失敗が実際に起こっており、スペインと戦争を始めるのは1635年です。




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by teri-kan | 2016-06-10 00:00 | 海外ドラマ | Comments(0)
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