「問題は英国ではない、EUなのだ」

副題は、21世紀の新・国家論。
エマニュエル・トッド著、文春新書。

経済や景気からじゃないイギリスのEU離脱を解説してる文章って少なくて、新聞でも歴史学の先生が書いてたのってちょっとしかなかったような気がします。
マスコミの論調は「イギリスの選択は愚かだ」が主流だし、そんな中でこの本は結構貴重なのではないかと思います。







イギリスで国民投票が行われた時にここでも書いた通り、イギリスのEU離脱は個人的には支持してて、まあ積極的に支持してるというより「そうなるしかないでしょ」といったレベルの支持ですが、そういった私の庶民感覚でのEU離脱支持じゃなくて、偉い人のEU離脱の正しさの分析が知りたいなあと思ってたので、この本はありがたかったですね。
さすがイギリスは世界で最初に市民革命をやった国だと見直したりもしてたので、その辺の感覚が歴史の流れでみてどうなのか確認したかったというのもあって、自分にとってちょうどよい本でした。

フランスのイスラム系移民の擁護者だからこそ、彼の言葉には説得力があるというのはそうでしょう。
移民を大事にする余り自国民の安全をないがしろにするのはアンチ・ヒューマニズムだと言い切ってるのは素晴らしい。
ヨーロッパでそんなことを言ったら極右扱いされるんじゃないの?
現在は少しは風向き変わってるのかもしれないけど、「排外主義のレイシストで低学歴のバカ」扱いされたEU離脱に投票したイギリス人にとっては、EUの移民政策をアンチ・ヒューマニズムと言ってくれるのは、ありがたいことではないかと思います。

とにかく大変面白い内容なので、出来ればいろんな方に読んでもらいたいです。
EUがなぜ上手くいっていないのか、ヨーロッパで起こっていることはどういうことなのか、アメリカについてもロシアについても中国についても、わかりやすく説明してくれてます。
本人が自分のことを科学者といってるように、分析の元になってるデータが純然たる数字なので、恣意的なものが挟まる余地がないのがいいです。
他の人だと経済における日本へのアドバイスなんかでも、その人の利益に合致するからこのアドバイスなんだろうなという思惑を抜きにして聞けなかったりするけど、トッドの場合は統計が元ですからね、そういう意味では信用できます。

いろいろ刺激的なことが書いてある本だけど、個人的に面白かったのはイギリスやフランスにとっての自由とはどういうものなのかという考察かなあ。
自由自由と謳ってる割に、なんであっちの人は時に苦しそうなんだろうと日本人からしたら思ってしまうことがあるけど、その理由についても書いてくれてます。
自由以外に選べない不自由さ、というのは、もうね、なるほど~でしたね。
そしてその考え方に至るトッドの経歴が、これまた「ああ、なるほど~」で、以前「シャルリとは何か」の感想でも書いたけど、トッドと日本の親和性がどこから来てるのか、その理由もわかって面白かったです。

んー、いやー、この人は、多分フランス人、というか、ヨーロッパ人の中でもかなりユニークな人なんじゃないかなあ。
まあ特殊すぎてフランスではボコボコに叩かれたようですが、
でもこういうユニークな知性は大事にすべきかと。
自由が第一のフランスならばなおのこと。
とはいえフランス人は、「強制された自由という不自由さの中に自分達は生きてる」とか言われたら、やっぱり「そんなこと言ってはいけない!」って言うのかなー。



とまあ、そういった感じで、面白い国家論が楽しめる本ですが、最後にアメリカについて。
トッドはトランプの出現を必然だったと書いてるので、それについて思うことを。

トランプがアメリカで台頭したのは当然ということで、それは私もそう思うんですが、ただ、アメリカ史の必然としてトランプ的なものが出てくるのはあるとしても、それがあのトランプだったというのは、アメリカにとって不幸なことかもしれないと思いました。
あれはあまりに下品すぎます。

でももしかしたらそういった「下品」が出てくることもアメリカの必然だったかもしれなくて、そうなるともう「アメリカとは何か」みたいなことになるんですね。
なんといってもアメリカの土台は先住民の虐殺ですから。
甚だ下品な国の作り方をして出来てるんですよね、アメリカって。
トランプ的な排他主義、下品、醜悪さ、それが国のトップ寸前まで来てしまうことを許す状況、山と積まれた弱者の屍の上に立って「アメリカンドリームいえ~い」ってやってるアメリカをトランプから感じられたりして、アメリカの業の深さを思い知らされます。

トランプ的な人は今のアメリカに必要だけど、トランプは必要なかった。
アメリカのジレンマってそんなところじゃないかなあ。
大統領選、ボロボロですもんねえ。
奇しくもノーベル文学賞がボブ・ディランということで、アメリカが注目されてる、というか心配されてることがわかりましたが、一体どうなることやら。
ヒラリーもアレだし、ホントどうなることやらですね。




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by teri-kan | 2016-10-14 15:19 | | Comments(0)
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