「マノン・レスコー」

アベ・プレヴォー作、新潮文庫。
有名なフランスの恋愛古典小説です。



「マスケティアーズ」から出発したフランス文学の旅は、なぜかマスケからどんどん離れて「マノン・レスコー」へ。
持ってる本から選んでるのでしょうがないのです。
マスケとつながってるのは、もはや「愛」だけ。
フランスはやはり「愛あればこそ」。

物語の年代は本文中に書かれてないけど、刊行されたのが1731年なので、その頃のお話と考えてよいと思います。
「マスケティアーズ」からちょうど100年後、ルイ14世の孫のルイ15世の時代。
ルイ15世も戦争にあけくれた王様でしたが、本作が出た頃はちょうど平和な時期で、かなり繁栄していたとのこと。
実際物語に戦争の匂いはしないし、そういったものに引き裂かれる理不尽さといったものもありません。
政治の匂いもしない。
ようするにホントに恋愛しか出てこなくて、愛に突っ走る様のみとことん描かれてる話。
そしてそんなことが許される人、そんなことが出来る人となると、主人公はもうこれしかなくて、まだ十代の男女なんですね。
マノンは物語終了時点でまだ二十歳そこそこなんじゃないかなあ。







マノン。
昔読んだ時は「なんだこの女?」と思った記憶があります。
どうにも理解しがたい女性でした。
今なら「ああ、こういう子いるよね」って思えるし、外見的な美しさだけじゃない性格の憎めなさもわかる。
ただ、ホントに貞操観念がない。
持って生まれた資質でしょうけど、子供の頃から美しすぎた弊害もあるでしょうね。
哀れとしか思えない女性かな。
このタイプは不幸になるしかないような気がする。

で、青年グリュウの方ですが、昔はこっちの方こそ哀れだと思ってたし、今回も途中までは「哀れな青年だなあ」って感じだったのだけど、途中からはそう単純な話でもなくて、わざわざこう書くのもなんだけど、やっぱり愛ってすごいね。
それしか言えない。
その燃焼の様は素晴らしい。
とんでもなく愚かなんだけどね。

マノンのことさえなければ顔よし頭脳よし家柄よしの文句なしの青年なんですよねえ。
最後の最後まで助けてくれるお友達にも恵まれて、他にも彼を気に入る男性は年上同年代問わず結構いて、「人好きのする好青年なんだなあ」って思える青年なんですよね。

マノン以外に関してはホントにまともで、マノンと出会って以後の振る舞いにしても、マノンが関係してない時の正常さと、マノンが離れる恐怖に襲われる時の尋常ならざる精神状態と、その落差がなんとも言えない。
そのアンバランスさは面白かった。
相反するものなんだけど、彼の中できちんと同居してて、でも不安定。
その揺れ方がいかにも若者で良い。
丁寧な思考描写で、危うさが手にとるようにわかりました。

実は作者のアベ・プレヴォーがグリュウに負けないくらいの人生を送ってて、この人、一応聖職者なんですよね。
グリュウの溺れてる恋愛はキリスト教の教えとの対比で描かれてたりもして、ここはこの時代のこの国ならではかなあと思います。
とことん若いんですよね、グリュウ。
主張も屁理屈も若い。
でも社会にまみれてないからこその美しさは確かにある。
愚かで、ある種醜くもあって、でも美しい。
今に残っているのも納得の良い作品だと思います。



ところで。
売春等で特にふしだらだったり罪深かったりした女性は、アメリカに流されるということがこの頃は行われていたようで、本作でも何人かの女性がフランス領だったルイジアナのニューオーリンズに船で連れて行かれるんだけど、行った先で何やらされるかというと、現地に入植してる男性と結婚するということ。

イヤな時代ですねー。

マスケでも奴隷売買してた犯罪者がアメリカに送られたという話が出てきますが、うん、まあ、流刑地なんですね、アメリカって。
「マノン・レスコー」はマスケより100年後だから、事情はまた違ってるかもしれないけど。

ニューオーリンズは1718年に設立されたので、このお話に出てくる町の様子は設立約10年後くらいってところでしょうか。
本の中では「ニュー・オルレアン」という名前でした。
フランス語だと「ラ・ヌーベル・オルレアン」。
ヌーベル・オルレアンはルイ15世の摂政オルレアン公フィリップ2世(ルイ14世の甥)にちなんでつけられ、ルイジアナはルイ14世の名にちなんでつけられたのだそうです。
ルイジアナはもともと「ラ・ルイジアーヌ」で、意味は「Louis」+「ana」で「ルイに関するもの」(Wikiより)。

リシュリュー枢機卿は植民地経営(カナダ)を会社に委ねていたけど、ルイ14世の時代に植民地は王領になったとのことで、そういうのもあってこの名前なのかな。
いろいろ調べてみると面白いです。
アメリカ大陸で起こってることは、この時代は悲惨極まりないですけどね。
リシュリューがドラマで植民地経営のために悪いこと平気でやってたことが思い出されたりもする、建国前のアメリカです。




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by teri-kan | 2016-11-18 11:06 | | Comments(0)
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