「カンディード」

ヴォルテール著、光文社古典新訳文庫。
1759年の小説です。

どこかで聞いた題名だと思ったら、バーンスタインの曲でした。
バーンスタインのミュージカル「キャンディード」の原作なのだそうです。
佐渡裕が司会をしていた時期の「題名のない音楽会」のテーマ音楽ですと言えば、「ああー、あの勇ましい曲」とわかっていただけるかと。
あれは序曲ですが、景気のいいワクワク感あふれる楽曲です。
ちなみにミュージカル「キャンディード」を見たことはありません。

マスケから始まったフランス文学マイブームは一応まだ続いてて、でもなんでここでヴォルテールなんだ?って感じで、自分でも変な方向へ行ってるなーと思うんですが、これを選んだ第一の理由は、単純に背幅が薄かったからでした(笑)。
手軽に読めそうだなーと。
あと外せないのは、やはり王朝時代のお話だということ。
ここはこだわってます。
でも17~18世紀が舞台のフランス文学って限られてるんですよね。
しかも「カンディード」は舞台がフランスではない(笑)。
ヴォルテールがフランス人ってだけです。
でもヴォルテールだからまあいいかと。
シャルリ・エブド襲撃事件以降、ヴォルテールの名言「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」が改めて見直されたりしてるし、敬遠せずに読んでみりゃいいじゃないかと、このたび購読してみたのでした。

で、うん、面白かったけど、すごい話でしたね。
カンディードの冒険、すさまじかった。
というわけで、ここから先はお話の感想。






とにかく、この世に存在する災厄の全てを体験するお話といいますか、残酷だったり陰惨だったりするのにいっそコメディといいますか、全編皮肉だらけだけどスタイリッシュかというとちょっと違ってて、著者の怒りが満ち満ちてるお話と言えばいいのかな。
その怒りは鬱陶しくなく重くもなく、カンディードのフットワークの軽さ同様にカラリとしてて陰険じゃない。ある種爽やか。
出てくる災厄はどれも酷いものだけど。
「なんなんだよこの地獄世界」と言いたくなるほど奇想天外で、でも一つ一つの災厄の事例はそこら辺に転がってるフツーの出来事。
いや、リスボン大地震はさすがにフツーじゃないか。
エルドラドの極楽具合もフツーじゃない(笑)。
でもやっぱりフツーなんだよね。
奇想天外な普通。
この辺の感覚は面白かったですね。

リスボン大地震は1755年の出来事で、これが欧州キリスト教世界に与えた衝撃はとてつもないものだったのですが、原因を神学的に説明しようとしたって、まあ無理ですよねえ。
地震国日本は「地震はある、あるものはある」ですが、向こうはそういうわけにはいきません。
なぜこのようなことが起こったのだ、なぜこの世はこんな世界なのだ、この世を成り立たせているものは何なのだ、ということを、当時の欧州知識人はいろいろ考えたようです。

「カンディード」はそんな中で生まれた作品で、この本から窺えるヴォルテールの思想は、うん、私は好きだなと思いました。
現実的で、人間の生理的感情的に無理がなかったです。
ただ、この人個人はユニークだなあというか、なんとなく普段からよく怒ってた人なのかなあと勝手に想像。
そしてそれを発散せずにはいられない人だろうなと。
この本の中に出てくる悪徳、犯罪、不正義、ありとあらゆる悪い事を、こうまでつらつらつらつら書き連ねられるというのはすごいですよね。
その社会の黒い荒波を泳いでいく主人公カンディードもすごいんだけど。
いや、あれは泳ぐというより、浮かんで流されてると言ったらいいくらいかもしれない(笑)。
殺人だって流されるままにやっちゃってるんだし。
執着がないからほんとに流れてるだけに見えるんですよね。
あ、一応愛には執着してるか。
でもそれがなければそれこそ生きてる価値はないよなあ。
まあカンディードがロクな目に合ってないのはその愛のせいなんですけどね。

最後、たどりついた境地が素晴らしいです。
現代人には理解しやすい境地ですが、当時の上流階級の人間には「なんだそりゃ」だったかもしれません。
不幸とは何か、幸福とは何か、当時の人達の思索の末の、答えの一つといった感じかな。
うん、どれだけ不幸かを競ってもしょうがないですもんね。
この小説の内容はある種不幸自慢なのですが、そんな比較したってしょうがないし、比較自体が不幸のもとですよね。
最後のカンディードのセリフはいいなあと思います。



ところで、この「カンディード」を初めとするヴォルテールの自称「哲学小説」は、「マノン・レスコー」に対抗して書かれたものなんだそうです。

……うーん、まあ、そうなのか、としか言いようがないですね(笑)。
これはこれで独特の味があって面白いけど、小説の出来としては比較にならないかなあ。
面白いんですけどね。
でもやっぱりちょっと変わってます。




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by teri-kan | 2016-12-23 01:46 | | Comments(0)
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