アトスと伯爵

銃士にとってお父さんだったトレヴィル隊長。
でもアラミス、ポルトス、ダルタニアンにとっての隊長と、アトスにとっての隊長はちょっと違いました。






とにかく驚いたのは、陸軍卿の職を受けるかどうか悩むアラミスへのアトスの助言。
こんな考え方をしていたのかと、それをここまで実感込めて爽やかに言うかと、新鮮な感動を覚えました。

アトスと実の父親の関係はどういうものだったのか、そんなことまで想像できるんですね。
隊長や陸軍卿といった立場以前に一人の男、肩書や立場で息子にとっての父は規制されないという考え方は、彼自身が長年かけてたどり着いた答えだったとも考えられるのです。
あえて言うなら、爵位を捨てたくて仕方なかったけど、それが父を捨てることとは直結しないという境地に、アトスは長いことかけてたどりついたってことなのかもしれないなと。

今更ながらなのですが、よくよく考えたら先祖代々受け継いできたものを捨てるって並大抵のことじゃないです。
伯爵としての生き方をきちんと教育された跡継ぎにとっては尚更。
下手したら自分の血も含め、父や祖父、ご先祖の事績の全否定にもつながる。
簡単に「捨てる」だの「捨てた」だの口にしてたけど、もしかしたら捨てるに捨てられない葛藤でアトスはずっと苦しんでたんじゃないかなあ。

振り返ってみれば、飲んだくれアトスはシーズン1の最初から難しいキャラクターでした。
ミレディのことが尾を引いてるのはいいとして、それが爵位を捨てることとどう関係してるのか皆目見当がつかない。
しかも捨て方がみっともなさすぎる。
シーズン2の5話でなんとかまとまりましたが、あれにしても捨てたというより逃げた末の結果で、アトスが積極的に問題と向き合って解決したわけじゃない。
領地・爵位の問題はミレディの問題を越えてるだろ、何やってんだこの人、って感じだったのです。

捨てたい、でも根本的なところで捨てられない。
捨てることと向き合えなかったから逃げたと考えれば、あの頃のアトスのわけわからん行動も理解できます。
思う通りに生きたいという心と、自由を渇望する自分を後ろめたく思う気持ちと、彼の中には長いこと両方があって、その二つとまともに向き合うことができないから逃げてたというのが、実際のところじゃないかという気がしますねえ。

これが例えば「苦しむ民を救わなきゃ」とか「王制は間違ってる、だから伯爵をやめる」といった、シルヴィのような主義主張からきてるのならば、話は簡単だったと思います。
「自分は父と思想が違ってた」で割り切れるので、爵位から逃げるのではなく捨てるということが最初から出来てたと思う。
でもアトスの「伯爵は嫌だ」という感情はそういった政治信条とは違って、んー、なんていうかなあ、ただもう自分に合わなかった、ってことのような気がします。

そもそも身分制に疑問を抱いていたのなら王都で銃士になる選択ってありえないし。
だから「権力が嫌い」というより「権力なんてどーでもいい」ってのが正しい気がする。
だから権力者自体も否定しない。
同様に、全否定したいほど伯爵家を憎んでいたとも思えない。
事件前までは弟のことは普通に愛していたようだし、兄弟関係の正常さから想像できる伯爵家は、特に仲が良かったわけではなくとも、修復不能なほど険悪だったようでもない。
そして言ってはなんだが、あの事件だけでいきなり「伯爵の責任を放棄する!」になったとも思えない。
あれはただのきっかけで、その芽はずっと前からあった、でもそれは確たる理由があってのことではなく、ホントにただ合わなかった、アトスの本質や魂にもともと合っていなかった、それだけのような気がします。
三人兄弟の末っ子なんて立場だったら、それこそ勝手に銃士になったり諸国漫遊したり、思うように生きたのでしょうが、残念ながら長男で、おまけに優秀だったのもあって父親から重い期待をかけられ、しっかりと伯爵的精神を実は合わない魂に叩き込まれた、そんな感じだったのではないかと思います。

優秀ゆえに伯爵業も普通にこなしていたのだろうけど、……うん、まあ、ミレディと出会ったのが運の尽き。
心の檻のカギをガッツリ開けられちゃいましたね。
開けられてしまってはもう元には戻れなくて、しかもそのミレディに裏切られた形になって、結果出来上がったのが酒浸りのぐだぐだアトス。
ミレディとあのまま結婚生活が続いていたら、精神の解放を感じつつ伯爵業も普通にやれただろうと思うので、ミレディを失ったことはホントにアトスには致命傷だったのだと思います。

王もそんなところありましたよね。
驚くべきことに最後までミレディのことを想ってたらしいんだけど、ミレディがそばにいると公務の束縛の中にありながら精神の自由を得られるみたいなんですねえ。
このタイプはおそらく男にとって最高の女なんだと思いますが、うん、まあ、ミレディは業が深すぎた。
ある種の男には良い薬のような女性ですが劇薬でしたね。
麻薬のようなものとも言えるかも。

……ハッ、だからアトスはヤク抜きに詳しい!……って違う。
ホントにもう、ヤクに詳しい理由がほんま知りたいわ。
アトスは領地でヤバイことしてたんじゃないだろうね。
だから逃げたかったとかいう話だったら泣く。

とまあ、そういうわけで、「父親=伯爵そのもの」だったアトスにとって、父を立場ではなく一人の男として見ればいいという考え方は、悩める彼を随分楽にしたのではないかと思います。
トレヴィル隊長の指導力や包容力の中に父性を見ることができた時、伯爵でしかなかった父から伯爵という立場を取り去ることができたのかなと、そうなって初めて自分自身が自由に振る舞うことを認めることもできたのかもしれないと、アラミスへのあの助言からは想像できるのでありました。
アラミスにはあのアトスの言葉、救いになったと思います。



アトスは他の三人と違って、銃士になった時には既にいい大人で、人生の価値観もしっかり持ってたんですよね。
隊長の右腕として隊長とも割と対等で、だから三人のように隊長の元で大人になったというより、やはり隊長はアトスにとって伯爵業から逃げた先の、人生について考えることを止め続けるための避難先という感じが強かったように思います。
ハードな避難先だけど、命張る分余計なことを考えずにすむし、居心地の良い居場所だったのではないかな。

居心地の良さの理由は、もちろん隊長。
生まれで贔屓しない公平さとか、徹底した実力主義とか、それでいてファミリーな感じとか、家族を失って爵位を嫌ったアトスには心地よいものだったと思います。

隊長が亡くなった時に人生を進めたいと思える女性に出会えていてホントに良かったです。
隊長の追悼の場で酒を飲まないアトスは、だから正しいアトス。
避難先が無くなってしまったら、いよいよ本気で前に進まなきゃいけません。
シルヴィとのことは真面目に考えていたと思うけど、これで本気になりましたよね。

でもこれからどこに行くのかなあ。
シルヴィの言ってた「休暇」と「大事な任務」って、浅くも読めるし深くも読める。
何の仕事をするのかわからないけど、アトスって横柄だし命令するのが板についてるし、やっぱり貴族だよねって思うことが時々あって、結局何が向いてるのかわからないんですよねえ。
銃士は完璧にこなしてたけど、あの人横柄なくせに繊細な人なので、銃士や兵士もそれなりにしんどかったかもしれない。
うーん、ややこしい人だな(苦笑)。
ホント厄介な人というか、まあこれまではずっと自分探しをしてたようなものだから仕方ないか。
振り返ってみればホントに自分探しでしたよ、アトス。
ドラマでずっと心の旅をやって、これからやっと肉体が旅に出るって感じ。
なんかもう……職業は旅人? 中田ヒデみたいだな。
ホント、これからアトスは何をして食べていくのかなあ。
あ、当分は退職金があるから働かなくてもいいのか。



とにかく、やっと歩み始めることができたということで、アトスには「お疲れ様でした!」な気持ちです。
長の年月を鬱々と過ごすのはしんどかったでしょう。
肝臓もかなり傷んでると思うので、しばらく休ませてあげましょう。
生まれてくる子のためにも長生きしなければ。
あまりファンには歓迎されないかもしれないけど、健康的なアトスは彼のために歓迎します。
お体お大事に~。



次は王。



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by teri-kan | 2017-03-31 08:47 | 海外ドラマ | Comments(0)
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