ポルトスと国家

「マスケティアーズ」のポルトスは黒人の血をひいてて、幼少期はもちろん、銃士になってからも偏見に苦しんだ人でした。
だから正義を尊び不正義を憎むけど、かといって社会自体を嫌っているかというとそう単純な話ではない。
大変な苦労人なのでこの人は複雑です。
普段はそういうの飲み込んでるけど。






犯罪の横行するスラムで少年時代を過ごしたポルトスは、こんなところで一生を終えるのはイヤだとそこを飛び出していくのですが、行った先がなんと軍隊。
腕っぷしに自信があったからだろうけど、たとえば大道芸人の一座に加えてもらうとか(笑)そういう選択はなかったんだなあ。
軍隊なんて、それこそ下っ端の黒人は理不尽な目にたくさん合ったと思うんですけどね。

でもスラムの混沌の中にいるよりは規則と秩序ガチガチの軍の方がまだ良かったんだな。
逆に秩序のもたらす効率性とか安定性に惹かれたところ、あったんじゃないかと思いますね。
不平不満を言ってるだけじゃダメだというのは、軍に入ってこそ身に染みたでしょう。
社会がどういう風に出来ているかということも、スラムの外でこそ理解できたと思います。

ポルトスが難しいのは、この社会は自分に冷たい社会だけど、そんな社会でここまでのしあがった自分に自負を抱いてる、ということです。
社会に自分を認めさせる、その思いが幼少時代からの彼のモチベーション。
自分と社会との距離を測るものが自分の実力しかない彼は、何より実力を正当に評価されることを望んでおり、そこを認められてこそ社会の不正義に打ち勝ったと確信できる、そんな風に考えていたよう。
シーズン2にあったように、お情けで銃士になれたというのであれば、彼の生き方やプライドの全否定になるわけですね。
社会に自分の実力を認めさせるのは、マイナスから人生をスタートさせた彼にとって生命線みたいなものなのです。

で、ポルトスが更に難しいのは、そんな不正義がまかり通る社会だけど、その社会こそが今の自分を作ったというのもまた事実だということ。
少なくとも自分の実力を発揮して試せる社会であり、結果的に彼を受け入れてくれた社会でもある。
冷たいが温かく、不正義にまみれてるけど正義もある。
ポルトスを成り立たせているものは非常に複雑で繊細なのですね。
そして自分がそうだからこそこの世の複雑さと繊細さも理解できてる。
ドラスティックな変革をポルトスが望まないのは当然かなと思います。

シルヴィの扇動的な活動にちょこちょこ苦言を呈してるけど、ポルトスに言わせれば「そんなことで世の中が変わるなら話はもっと簡単だ」ってところでしょう。
むしろそれで社会が不安定化したら、真っ先に血祭りにあげられるのは救いたいはずの最底辺にいる人達だ、と言いたいくらいかもしれません。
最底辺から今の地位まで昇ってきた人なのでよくわかってる。
弱者の敵は社会不安、混沌、無秩序。
そんな風に思ってるところ、通して見るとありますね。
だからポルトスは治安維持や秩序維持を最も大事にしてる。

そして秩序を守るための例外はない、そんな風に思ってる節もあります。
厳格さは仲間の銃士にも向けられて、時々えらく融通がきかない人になったりするんですね。
平気でダルタニアンの従兄弟を見殺しにしようとしたりとか。
でもこの厳格さはポルトスのこれまでを考えたら納得出来ちゃうので、見ていてちょっと心が苦しい。
アトスもポルトスと似てて、やっぱりアトスが厳格なのも彼の半生を振り返ると理解できる。
育ちが正反対のアトスとポルトスが規則と秩序に忠実なところが面白いですが、伯爵家の跡取り育ちのアトスはともかく、ポルトスはちょっとしんどいものを感じますね。

でもそういうところ、トレヴィル隊長には信頼されてるのです。
S3E9でポルトスをそばに置いたの、だからかなあと思います。
最後王太子を隊長から預かった時も、隊長が死んでしまいかねないことを理解しながら、それでも四の五の言わずに王太子を連れて逃げた。
あれは隊長の意に完全に適っていましたね。

アラミスやダルタニアンだと、ああいうところで「置いていけない」「さっさと行け」ってウダウダしちゃいそうだけど、ポルトスはそうはならない。
内心思うことはあっても、それを口に出す訓練は隊長から受けてない。
だから隊長の死を知っても、自分の行動には確信を持ててるはずで、後悔みたいなものは案外ないような気がする。
もちろん悲しいし、他の後悔はしたかもしれないけど、あの場面においては隊長との同意の上だと考えて、自分を納得させることが出来たんじゃないかなあ。
他の三人ではなくポルトスがあの役目を担ったことは意味が深いと思います。

隊長から教わった兵士としてのその生き方が、彼をフランスに欠かすことのできない人物に育て上げたというのはあって、自分の生きる場所は銃士隊、あるいは軍だという自負を持つことができたのも、それあってこそなんだと、シーズン3ではわかります。
シーズン2でサマラに、「フランスにいるべきじゃない、あなたがいるところじゃない」と言われて、「フランスが自分の国」ってポルトスは答えてたけど、あの時点ではまだ本人も「そうありたい」と願うだけの状態だったと思います。
でもシーズン3最終回では、本人も自信を持って「フランスには俺が必要だ」と言い切ってる。
この確信こそがポルトスの最も大事なもので、ここにたどり着くまでこの人はどんだけ苦労してきたんだろと思うんですが、確かにここがポルトスの一つの到達地点であり、通過地点でもある。
前線の任務は大変だけど頑張ってほしいですね。



とにかく自尊心とか矜持とかいったものが強い人なので、名誉のために死を選ぶくらい平気でやっちゃいそうなんだけど、できれば他の誰かのために生きることの幸福もこれからは味わってほしいなあ。
家族もできて、帰る場所もできた。
彼には幸福になる権利がある。

たまには休暇をあげて下さい陸軍卿。
後方勤務もいいのではないかと思います。



ここまできたら次はこの方でしょう。
隊長。




[PR]
by teri-kan | 2017-04-24 12:01 | 海外ドラマ | Comments(0)
名前
URL
画像認証
削除用パスワード
<< 隊長と息子達 スポーツの足を引っ張る行為 >>