「ノートル・ダムの居酒屋」

ダルタニャン物語の第7巻。
アレクサンドル・デュマ著、鈴木力衛翻訳。
講談社文庫。

若きルイ14世のご親政が始まるということは、国自体も若々しくなるということ。
ブラジュロンヌ子爵ラウルと彼のお友達のエピソードも俄然増えて、雰囲気が華やかに、そして少々軽薄になりつつあります。
軽薄というのは作品がというのではなく、若者だから。
若者は若者というだけで危ういです。
今まで読みながら映画「仮面の男」を思い浮かべても、「おとーさんがアレ」というトンデモ設定だったため、「映画は完全な作り話で原作とは違うんだ」と考えてたのですが、ここにきて不安が大きくなってきました。

映画みたいになったらイヤだなー。
原作のルイ14世は映画よりマトモだけど、別のところでややこしそうな人がいるし。

ふと思い出したんだけど、そういえば「仮面の男」を公開時に見た時、「年とった三銃士のお話を思い付くなんてすごいなあ」と、確か感心したんですよね。
壮年・老年の彼らの話が原作にあるということを知らなくて、「うまいこと考えたなあ」って感動すらしてた(笑)。
デュマの鉄仮面の話もよく知らなくて、ていうか、鉄仮面は鉄仮面で、三銃士のお話とは別個のものだと思ってたから、「おおー、鉄仮面と三銃士の話が合わさるのかー、面白い映画だー」って、それこそ大感動してた(笑)。
思い返すと笑えます。



……といった、映画の成り行きを思うと先がかなり心配なラウルと、相変わらず精力的なダルタニアンがメインの第7巻「ノートル・ダムの居酒屋」。
この居酒屋をめぐる騒動が大笑い。
ダルタニアンはやはり大活躍なのでした。






今回もなんだかんだで「カネカネカネ」なんですよね。
本文にしっかり出てるんだけど、もはや格言扱いされていた「ダルタニアンの貧乏」。
言うなれば、「アラミスの女たらし、ダルタニアンの貧乏」。
「力持ちがポルトス」なら「貧乏はダルタニアン」。
「聖人アトス」「貧乏ダルタニアン」。
銃士隊副隊長のお財布事情って厳しいのね。

前巻で手に入れた大金をどうするんだろうと思ってたら、今風に言うならビルのオーナー?
家賃収入でお金を増やすことにしたようです。
それについて陽気にラウルに語るダルタニアンが良い。
ダルタニアンの買った家屋は広場の処刑ショーの観覧特等席のようなところで、その場合の金勘定もしっかりしてるところがゲスくて良い。

そんな命より(?)大事な金の生る家がとんでもないことになっちゃって、家(金)を守るために必死こいて戦うダルタニアンがこれまた良い。
怒髪天ついちゃって、ホントに必死なのよ(笑)。
この成り行きがチョー面白くて、こっちもハラハラワクワク。
ダルの家になにしてくれるんだ!と思いつつも大笑い。

でもってここのダルタニアンはカッコよくて素敵。
だてに万年副隊長やってない。ホント素敵。カッコいいオッサン。
人の命に係わる場面なので笑ってばかりいられないけど、そのハラハラ感とワクワク感のブレンド具合が楽しかった!
本人にしてみれば「ふざけんな!」だったろうけど。

それもこれも時代が変わったことの、完全なるとばっちり。
マザランが死去し、晴れてルイ14世のご親政の始まり始まり~!……と景気よくいかないのが当時のフランスなのですね。
王は手元不如意なのです。
ベルサイユで湯水のように金を使うアイドルさながらの太陽王はここにはまだいません。
財政をめぐる権力争いがバッチバチです。
フーケとコルベールがバッチバチです。

フーケは華麗な人たらし。
コルベールは陰険な真面目人。
彼らの思惑うごめく政治の荒波を泳いで渡るダルタニアン、これも良い。
王と信頼関係を築きつつあるダルタニアンの出世物語が、多分これから繰り広げられるのかな。
ようやっと隊長に昇格ですよ~。
あー、めでたい!
ここまで長かったですねえ。

ポルトスとアラミスとの再会エピソードも良かったですね。
アラミス、相変わらずいろいろコソコソやってる(笑)。
ダルタニアンとアラミスの腹の探り合いはドキドキもんでした。
この二人はどちらも性格がちょっと捻じれてて、会話がやけに緊張感を帯びちゃうんですよね。
でも現役銃士のダルタニアンが今も元気バリバリなのに対して、お坊さんアラミスってば痛風と結石持ち(涙)。
もうアラミスが馬に乗って駆け、剣を振るう場面はないのかなあ。
アラミスの暗躍は面白いけど、銃士の面影がなくなってるのがちょっと寂しいかも。

後半は若者の恋愛劇がすごいことになってました。
父に似て恋したら一直線の子バッキンガムが面白くて、うまくいかない恋愛に身も世もない風なのがなんともお気の毒。
で、デュマの筆がこれまた振るってるんだ。
愛する王女を残して先に船で進まなきゃいけなくなった彼の嘆く様子の描写が、よりによって、「まるで、金庫から引き離される守銭奴」。
デュマのセンスってわけわからん(笑)。
これまでもずっと思ってたけど、一度デュマにはおカネへの見解を聞いてみたいです。

とにかく、王弟オルレアン公に嫁ぐイングランド王女に恋する男がたくさんで、まあ彼女はこれから史実でもいろいろあるようなんだけど、そんなお姫様には目もくれず初恋を大事にしてる我らがラウル。
アトスが全然彼の恋愛と結婚にいい顔してないのが面白い。
前の巻では身分のことかなと思ったけど、どうやら結婚そのものにも慎重みたい。
自分が痛い目に合ってますからね。
若気の至りで突っ走るというのにはいい顔しなさそう。
それ以外では理解のある父親なんですけどねー。
アトスもなかなか悩ましいところですね。



そういえばこの巻のタイトル、最初はノートル・ダム大聖堂の地区の居酒屋ってことかと想像してたんだけど、居酒屋そのものの名前でした。
この居酒屋が入ってる家屋の描写が面白くて、中庭を抜けると反対側の通りに出るとか、いくつかの通りに抜けられるとか、悪者の集結・逃亡に大層都合がよい作りになってるんですね。
それってアルセーヌ・ルパンも使った手口で、「パリって昔からそうなのか」と、ちょっと楽しくなりました。
悪党が考えることも変わらないんだなあとか。
パリは面白いですねえ。

次は第8巻「華麗なる饗宴」。
居酒屋とは真反対の雰囲気のタイトル。
楽しみです!



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by teri-kan | 2017-06-12 10:56 | | Comments(0)
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