「剣よ、さらば」 その1

ダルタニャン物語の第11巻。
アレクサンドル・デュマ著、鈴木力衛翻訳。
講談社文庫。

最終巻です。
前巻を受けての鉄仮面事件の顛末と、その後の騒動がメインで描かれています。
ダルタニアンら四人もそれぞれの運命を迎え、長かった彼らの物語がとうとう終了しました。

感想は最終巻はもちろんのこと、「ダルタニャン物語」全体に及びました。
なので少々長いです。
その1と2に分かれる予定です。






最初は鉄仮面問題。

まさかフーケがあんな行動に出るとは思わなくて、巻の最初から大どんでん返しの怒涛の展開でした。
10巻を読んだ時点ではアラミスの計画は完璧だと思ったし、王がバスチーユから出られるなんて思いもしませんでした。
アラミス……フーケを見誤ったなあ。
こういう失敗をしてしまうのが、アラミスの足りないところなんでしょうねえ。

いやまあ、フーケには私も驚いたんですけどね。
「ダルタニャン物語」のフーケって一貫して魅力的な良い人で、これまで抱いていたイメージがガラガラと崩れまくっています。
美意識が高いとか、作家や芸術家を保護したとか、評価できる部分は多いのだけど、公金を好き勝手していたというのは、やはり印象が悪いのです。
地位を利用して蓄財に励むのはマザラン筆頭に多くの人がやってたと思うけど、フーケはやりすぎたと思うし、彼に対しては今まで良いイメージはホントに持てませんでした。

なのに王への忠誠心をあそこまで見せちゃうんだもんなあ。
いくら作りもののお話とはいえ、実在のフーケの印象も変わらざるをえません。
ダルタニアンとのやりとりも貴族としての矜持をきちんと持っていて、立派としか言いようがない。
困ったことに、私はすっかりフーケのファンですよ……。

そんなわけで、フーケのせいでアラミスの作戦は大失敗、フィリップはバスチーユ時代よりもっと悪条件の囚人となってしまいました。
あまりに可哀想すぎる運命だ。
あれでまともな精神でいろというのが無理な話だ……。

なんかもうねえ、彼に流れる血が悪いのだ、顔が一緒なのが悪いのだって事ではあるんだけど、そもそも謀反を計画したのはアラミスなのに、アラミスは逃げおおせてフィリップは仮面オンで生涯牢獄暮らしというのが、どうにも割り切れない。
フィリップは一応自分で選んだ道だったけど、あんな状況に落とされて、話を持ち掛けたアラミスを恨まずにいられるだろうか。
フィリップは悲惨すぎる様子を最後に物語から消えてしまうのだけど、これは後を引くなあ。
脱走後のアラミスは自分とポルトスの身を守ることに精一杯で、フィリップの心配なんて全然してないし、こっちはもやもやしてしょうがない。
フィリップ……気の毒に。

どうしても映画「仮面の男」が出てきてしまうんだけど、あれが入れ替え成功の話になってるのは、原作を読んだ時に感じる「後を引く感じ」をスッキリさせたいというのもあったかもしれないと思いました。
やっぱり映画は後腐れがないんですよ。
我が儘放題のルイが罰を受け、虐げられてきたフィリップが日の当たる場所に出るのだから。
あれを知ってる分、原作のフィリップは精神的にキツかったなー。

ちなみにドラマ「マスケティアーズ」も原作の「なんでこんなことに……」といったところを受けて作られてるような気がしました。
まあ、アラミスのことなんですけどね。
マスケは原作アラミスのフォローのために作られてるんじゃないかと思えて、読みながら「マスケありがと」といった気分になったくらい(笑)。

原作アラミスはマザランに対抗するためにフロンド派として立ったし、マザランに育てられたが故にルイは問題があるのだとフィリップに説明してたくらいでした。
ようするにマザランが大嫌いだったのですが、マスケのアラミスはまんまマザランポジションに収まって、嫌いだったマザランの政治はマスケでは行われないんですよね。

原作では謀反人としてフランスから離れざるをえなかったけど、マスケでは陸軍卿としてパリの中枢でバリバリ政治をするとか、原作では恋人は野心家ばかりで、打算や策謀に絡まない恋愛ってやったことあるのか?って感じなのに、マスケでは王妃へ純愛(?)を捧げ、ルイ14世のためなら命だって惜しくない生き方をしてる。
ことごとくマスケのアラミスは原作の逆を張ってるんですね。
マスケのおかげで原作アラミスって結構救われたんじゃないかと、割と真面目に思っています。

もちろん、原作とドラマが共通してるところもあります。
やらかすところ。
これは残念ながらどちらのアラミスも同じ。
行動原理が四人の中でちょっと異質なのもそう。
でも原作アラミスはそれでも異質すぎたかなあ。
「鉄仮面」の感想でも書いたけど、ヤツの野心は恐ろしいほどでした。

フィリップ……(涙)。
アラミスの話に乗らなければとどうしても思ってしまうけど、王と同等の権利を持つ王子として、存在そのものをないことにされてしまうのは、自分に流れる血が許せなかったのだと思います。
もうこれはそそのかした方が悪いというか、アラミス、ホントに罪なことしたなあ。
しかもいざとなれば自分はイエズス会の管区長として王命からもフリーになれる。
自分には思いっきり保険をかけてるんだよねえ。
アラミス、ホントずるいよねえ……。

そういえば痛風や結石はどうなったんだろう。
ヴァンヌからパリのフーケのところまで馬車で走った時は、あからさまにヨロヨロで、「私は肉体労働はもうアカンのです……」みたいな感じだったけど、それ以降は「痛い」の一言も口にしてないし、最後は思いっきり元銃士の面目躍如でバンバン敵を倒してたし、この人ほんまよくわからん。

もしかして痛風・結石は周囲の目を欺くためのウソとか?
裏でコソコソしやすいように表向き病弱ってことにしてたとか。
まさかねって思うけど、アラミスならありえるんだなあ、これが。
いやー、この人なんなんだろうね、本当に(笑)。



というわけで、感想は次回に続く。




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by teri-kan | 2017-07-12 11:05 | | Comments(4)
Commented by kikuzo at 2017-07-13 11:15 x
こんにちは。感想、楽しく読ませて頂きました。
ダルタニアン物語、通して読んだのが20年以上前なので内容などかなりうろ覚えなんですが、終盤のアラミスの強烈さは良く覚えていました。あれはあれで好きなんですが、マスケで要所は残しつつ、善良なかわい子ちゃん(海外の人にそう言われていた…)にしてもらえて良かった、と思います。terikanさんの感想読んで、再度読み返したくなりました!昔はたるくて読み飛ばしていた若者の恋愛あたりも今なら読める気がします。
三銃士と云えば明日から宝塚で三銃士題材にした演目が始まるんですよ。原作からかなりアレンジされているみたいですが、これも楽しそうです。
Commented by teri-kan at 2017-07-13 15:15
kikuzo様、こんにちは!

終盤のアラミスはすごかったですね。
恐ろしいとかわけわからんとか書きましたけど、面白い人だなあと思いながら読んでました。

>マスケで要所は残しつつ、善良なかわい子ちゃん(海外の人にそう言われていた…)

海外の人、ナイス表現です!
思えばマスケでは私はやたらアラミスを心配してましたけど、原作のアラミスは放っておいても全然大丈夫なヤツでした(笑)。
肌は白いのにお腹真っ黒。
マスケはホントによい子のアラミスでしたねよえ……。

>宝塚で三銃士題材にした演目が始まるんですよ

ホームページを見てきたらバレエ大好きの太陽王がいました。
太陽の格好して。
ホントに楽しそう。
いつまでも古びない三銃士モノ!ですね。
Commented by あんどれあ at 2017-07-14 00:18 x
痛風・結石は「清貧な聖職者」を装う芝居ではないか、と私も思いましたよ!
昔、全巻読み終わった後は、私も「黒すぎるアラミス」がショックで、四銃士の中で一番気持ちが離れてしまいました。今回のドラマのアラミスに、癒されましたよー。
原作アラミス、美々しいのに頭脳派で、しかも武道もイケて、ワルい、というのは、ある種めちゃくちゃ魅力的ではありますね。

ドラマはけっこう原作のキャラのエッセンスを残してると思うのですが、一番最初に原作じゃありえない!ってびっくりしたのがアラミスと王妃の関係でした。原作アラミスはよほどメリットが無いと、まず王妃とこんなリスキーな関係にならないと思うし、なっても、とことん隠すと思ったので。そうなったらそうなったで、王太子を最大限に利用しそうで怖いですが。(散々な言いようだ)

その次にドラマでありえない!と思ったのがアトスの爵位放棄で、これも原作とは正反対ですよね。(私は原作アトスファンなので見た時かなりショックでした…)行きつく先は同じなんですけどね。わざと二人とも正反対のキャラにしたのかなあ。どんな発想でこういう解釈にしたか訊いてみたいです。

逆にドラマ見て原作のキャラを見直したのが裏表のないポルトスで、原作ポルトスとムースクトン(と二人がかかわるご馳走の数々)には読書中だいぶ癒されました。
Commented by teri-kan at 2017-07-14 11:09
あんどれあ様、こんにちは。

>痛風・結石は「清貧な聖職者」を装う芝居ではないか

やっぱりその疑惑はありますよね!
アラミスは読者にとっても油断ならないです。
でも仰る通り魅力的で、さぞかしマスケ脚本家は楽しくドラマ用のキャラを作ったのではないかと思います。
料理し甲斐のある人物ですね、アラミスは。

>最初に原作じゃありえない!ってびっくりした

こうして原作を読むと、原作既読の方のドラマの感じ方に「なるほどなあ」と思わされます。
そうですね。原作アラミスなら父の立場を利用してありとあらゆる事をやりそうです(苦笑)。

今、ドラマと原作のキャラの違いや共通点についてあれこれ書いてるところなのですが、ドラマが先か原作が先かで受け止め方って違いますし、いろんな意見も知りたいなあと思ってたところでした。
アトスの爵位放棄は原作アトスファンの方にはショックだったのですね。なるほど……。
原作を読んだ今ではわかります。
脚本家は思い切ったことをしましたね。
本質は変わってないと感じたけど、チャレンジだったんですねえ。

>原作ポルトスとムースクトン(と二人がかかわるご馳走の数々)

彼らと御馳走の話は私も大好きです!
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