「ダルタニャン物語」と「マスケティアーズ」

同じだけど違う、違うけど同じな、原作とドラマの愛すべき四人について。
彼らは永久に不滅です!
(原作とドラマ両方のネタバレありです)






第一部終了時点の巻末あとがきに、次のような記述がありました。

「六尺ゆたかな大男で、腕っぷしがめっぽう強く、無類の決闘好きで、精力絶倫、一生涯いささかも疲れを知らず、つぎつぎに女をつくり、気の強い反面、情にもろく、美食家で、大食漢で、とほうもない虚栄心の持ち主で、多額の原稿料をかせいでば湯水のごとく浪費し、パリの王さまと呼ばれるほど豪奢な生活を送りながら、財布の中身は往々にしてからっぽ」

「原稿料」だの「パリの王さま」だのを除けば、ほとんど「ポルトスのことを言ってるのかな?」といった文章ですが、これは作者デュマのことです。
作者本人も意識的に自分をポルトスに投影したと見てよいだろうと思われるほど、そのまんまの人物像。
マスケのポルトスが黒人系になってて、デュマ本人がそうだからそれを取り入れたのだという意見をどこかで見ましたが、もとからポルトスはデュマに近く描かれており、マスケポルトスの黒人系設定も、そもそもの趣旨に沿っていたということに、どうやらなるようです。

原作のポルトスはあまり物事を深く考えない人で、そのせいもあって時々親友達にいいように使われたりもするんだけど、とにかくやたら素直で、策謀家なアラミスやダルタニアンと共にいる時などは、連れがアレな分とことん気持ちの良い人物に見えました。

マスケは黒人系の設定にしたためポルトスは不正義の犠牲者みたいな一面を持っていて、原作の「魂から能天気なまでに素直」といった、もしかしたら彼一番の美点を犠牲にしているようなところがあります。
その分忍耐強さと、原作ポルトスにはない思慮深さでもって、何が大事かを見極める目を作り上げたといった感じ。
どちらも大らかで優しいポルトスですが、原作ポルトスはさほど苦労を知らず、マスケのポルトスはやたら苦労したという、成長過程での差が正反対のキャラクターになってますね。

アトスはこれまた貴族としての誇りを持ち続けた原作と、爵位を捨てたマスケと、全く違う人生を歩むわけですが、もしラウルを失ったのがもっと前で、もっとアトスが若い頃だったら、案外ドラマルートのアトスもありえたんじゃないかという、そんな共通点はあると思いました。
弟トマスが亡くなった設定は、マスケのアトスに原作アトスの人間性を反映させるために必要だったんでしょうね。
アトスには年下の身内を失う体験が不可欠というか、失う、あるいは失うことを恐れる対象としての血縁者が、彼の物語と人間性を作るのには必須ってことなのかなと思います。

妻の裏切りと身内の死がいっぺんにきたドラマはしんどすぎましたけどね。
でもおかげでアトスのどこか超越したような人間性って、原作もドラマも変わらなかったし、私は原作を読みながら老いたアトスでさえマスケのトム・バークの顔でいけるくらいでした。
原作を読んだら宗教や王権に触れずにアトスを語ることはできないような気がするけど、ドラマはそれ抜きでアトスらしさを上手く表現できてたんじゃないかと思います。

ダルタニアンは性格も生育環境も原作とそこまで違わないようなので、そのままのイメージでマスケも人物造形ができたんじゃないでしょうか。
ただ、マスケは四人が主人公。
ダルタニアンが際立って頭のまわる超人的なバイタリティの持ち主、という原作の色はかなり薄まりました。
その分マスケのダルタニアンは地に足ついてる印象。
むしろ最も常識人だったりする。
おかげで銃士隊長になって以降の年配の原作ダルタニアンでも、これまたルーク・パスカリーノ君の年取ったであろう容貌で脳内イメージはいけました。

原作の容姿は絶対マスケとは違うよね!というのがアラミスで、とにかく色白仕様なのですよ。
痩せた白い司教猊下ってイメージなので、マスケアラミスのガタイの良いお色気あふれる修道士はかなり違うような気が。
性格はそれこそ全く違う。
でもアラミスはアラミス。
彼は最も自由度が高いです。
もともとのキャラが社会規範や社会制度から逸脱してるから、どのようにでもできるんですね。

前にマスケのアラミスは原作アラミスのフォローをしてると書きましたが、アラミス関連のフォローで最大のものは、もしかしたらダルタニアンとの関係性かなと思います。
原作は腹の探り合いばかりしてた二人ですが、マスケでは策謀とは程遠い、のほほんとした間柄。
仲良くなってよかったなあと思いました。
まさか原作の二人がああいう関係だったとは思わなかったので、改めてマスケの二人に癒されたかも。

あと、原作アラミスって血の気が多すぎたせいで聖職者になりそこねて、聖職者になった後も血の気の多さが変わらなかった人なのですが、マスケはその彼の特性を生かした人生を彼に与えてあげたって感じがします。
「戦うことが生きること」と自覚したマスケアラミスは、だから原作と違って破綻しない人生を送れそう。
原作アラミスは自分の中に矛盾したものを抱えた人だったですよねえ。

フォローの最たるものはダルタニアンがコンスタンスとの恋を成就させることですが、こういったところ、マスケは上手く作ったと思います。
原作で悲しい思いをしたところを、うまいこと救ってくれてる。
でもボナシューは「いくらなんでもマスケひでーっ」と思いました。
原作のボナシューのその後には驚いたけど、マスケであんな目に合うほどボナシューってひどかったっけ?
それを言うならロシュフォールこそ本人文句言いたいかもしれないけど、ヤツはもともと敵役なので、多少変態になろうが、まあいいかな。
彼も原作には驚かされました。
決して悪い人じゃなかったんですね。

ミレディとアトスの場合は……あの二人をなんとかしてくっつけたいという要求というか、そういった需要というものは、もともとどれだけあったのでしょうか。
ミレディについては謎だ。
マスケミレディは原作よりサイコパス度が薄まってるけど、原作を読む限り復縁なんて絶対ありえないですよね。

もう一個わからなかったのはグリモーかなあ。
原作のグリモーはあんなにも良い人で、あんなにも有能で、あんなにもご主人大事な人なのに、なぜにマスケではあんなのの名前になっているのか。

わからん。これだけは本当にわからん。
誰か教えてえらい人。
あれの名にグリモーをつけた理由、ホントのホントに教えて下さい!

ああ、いくら語っても語り足りない~。





[PR]
by teri-kan | 2017-07-19 10:38 | | Comments(2)
Commented by あんどれあ at 2017-07-20 23:50 x
ポルトスは、私もデュマそのものじゃん!と思いました。
ドラマ版ポルトスは、奴隷の息子から将軍までに出世したお父さんのデュマ将軍の姿そのものではないかと思います。「ナポレオンに背いた黒い将軍」という伝記本でのデュマ将軍、本当にかっこいいんですよー。これまでお笑い担当だったポルトス像を一新してよかったと思います。

アトスは私の中では「完璧な貴族」像だったので、爵位放棄のシーズン2はがっかりだったのですが、シーズン3の最後まで見たら、ドラマ版アトスに納得が行きました。仲間想いだけど、自分の道を行く人なんですよね。

>もしラウルを失ったのがもっと前で、もっとアトスが若い頃だったら、
ありかと思います!原作アトスは、どんなことがあっても貴族のプリンシプルは揺るがない人だったけど、ラウルを失って、それが崩壊してしまい、絶望して死んでゆくのだと思うので。
ドラマ版の最後は、ラウルを得て再生していく原作アトスに被ったんですが、貴族制という自分の生まれに絶望した後、再生していく話でもありますね。ラウルを失った後、こんな風にまた希望が持てる可能性があった、ということでちょっと救われるかも。

ドラマ版ミレディとアトスは、役者の相性がすごくよかったので、制作側が盛り上がっちゃったんじゃないのかなあ。「お互いまだ好きだった」というのは、面白い捻りだったと思います。が、ミレディは弟の殺人以外にも人を殺しちゃってるので、「好き」だけでは超えられない壁というか業がありますよね…。
ドラマ版ミレディは人間らしい肉付けをしようとして、まとまりきらなかった感があります。

長くなり失礼しました。四銃士のことになると、話が尽きません!
Commented by teri-kan at 2017-07-21 11:16
あんどれあ様、こんにちは!

>「ナポレオンに背いた黒い将軍」という伝記本でのデュマ将軍、本当にかっこいいんですよー。

おお、そうなのですか。
本当にマスケポルトスみたいですね。
お笑い担当……まあ、原作もそんなところはありますけど、それだけじゃない上に、そこが結構真面目な部分で重要だったりするので、単なるお笑いで済ませてほしくないですよね。

>原作アトスは、どんなことがあっても貴族のプリンシプルは揺るがない人だったけど、ラウルを失って、それが崩壊してしまい、絶望して死んでゆく

ラウルを失ったことは、ただ単に息子を失っただけではなく、彼を支えていた人生観そのものが失われたとみるべきなんでしょうね。
それまでのアトスが貴族であることの調和が完全にとれていた人だったので(私は原作アトスでそこが一番印象的でした)、そのアトスの肝心要の部分に容赦なく切り込んでいったマスケ製作陣に、今は結構尊敬の念を抱いています(笑)。

>ドラマ版の最後は、ラウルを得て再生していく原作アトスに被ったんですが、貴族制という自分の生まれに絶望した後、再生していく話でもありますね。

なるほど。マスケアトスは二重の意味でアトスの再生がなされてるんですね。
ドラマを見ただけでも「アトス、救われてよかったね」と思ったけど、原作を読むとめちゃくちゃ深いですね。

>ドラマ版ミレディとアトスは、役者の相性がすごくよかったので、制作側が盛り上がっちゃったんじゃないのかなあ

シーズン1はいいとして、シーズン2が思わぬ方向にいきました。
面白い二人でしたが、さすがにミレディが悪者すぎるので、根本的に難しかったかな。
途中経過には随分楽しませてもらいましたが。

>四銃士のことになると、話が尽きません!

そうなのですよ~。いくらでも話せるのです。
恐ろしや~。
ここはこれからも四銃士三昧ですよ(苦笑)。
話してる間にNHKがシーズン3を始めることになればいいなと、そんなことまで思っています。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード
<< 「ダルタニャン物語」の出版事情 八度目のウィンブルドン優勝! >>