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ジェームズ・ポッター論

ある意味最も偏った描写をされている人物。読者に与えられた「動く生身のジェームズ」の情報がスネイプ視点のものしかないため非常に印象が悪い。傲慢(というよりカッコつけ)なだけの人物でない事は他の記述で明らかだが、にしてもなぜニュートラルな目線で見た「動くジェームズの記憶」を物語上で見せなかったのか、かなり不満が残る。

人格者、又は善良だと思われる人間(ルーピン、マクゴナガル、ハグリッド等)が彼を惜しんでいるのだから、彼らの信頼を得るに足る人物であったという前提は絶対だと思う。それがあるからこそ「昔はイヤなガキだったんだなあ」とうんざりしながらも広い心で見ることが出来るのだ。でなければ描かれていないジェームズの成長とリリーとの結婚を想像することはできないし、そこを押さえていなければ物語そのものが破綻してしまうだろう。
対スネイプに関して言えば、二人は「お互いやり合っていた」(ルーピン談)とのことだし、スネイプの記憶の一部分だけを見て彼らの関係が「一方的ないじめ」と判断するのは性急と思う。当時いくつも呪文を作り出したスネイプの才能からしてやられっぱなしのはずはなく、むしろ作った呪文(もちろん闇の魔術系の呪文)を積極的にジェームズに試していた事も十分考えられるのだ。
ただ、ああいう見せびらかすようないじめの形をとったのはジェームズ側のみで、スネイプは人目のつかない場所で攻撃していたかもしれない。となると、その辺はシリウスなどに言わせれば「正々堂々としかけていたのは俺達であいつは陰険」といったところか。想像にすぎないがそう外れてはいないと思う。






父親の人間性に疑問を持ったハリーにシリウスが強調したのは「君の父さんは何より闇の魔術を憎んでいた」ということであった。「正義感にあふれていた」とか「立派な人間だった」といったように性格の真っ当さを強調したのではなく、スネイプは闇の魔術に傾倒しておりそれを憎むジェームズにはスネイプを攻撃する正当な理由があったという理屈である。(理由があればいじめていいのか、という問題はここで論ずることではないので置いておく。)

闇の魔術と当時の状況を振り返ってみると「魔法界は11年間祝い事と無縁であった」という1巻1章の台詞がポイントになる。暗い11年の終焉とジェームズの死は同日で、彼の享年は21歳ということを考えると、ジェームズは十代の多感な学生時代を闇の魔術に支配された世界で生きていたということになるのだが、これは彼の性格を考える上で非常に重要だ。
死喰い人ルシウスは当時スリザリンの監督生であったが、身内に死喰い人がいる生徒、又は死喰い人を目指した生徒はスリザリン寮内に数多くおり、後のハリーの時代以上に学内で横暴な振る舞いを行っていたことだろう(例:リリーの友人が被った被害など)。ホグワーツ内は基本的に安全としても、そんな時代に闇の魔術にはっきりと抵抗の意思を示すのは勇気がいることで、それでもジェームズは真っ向から彼らに対抗していたはずだ。シリウスの言葉はそれを感じさせるに十分だし、何より彼がハリーに強調したかったのはそういった勇気に他ならない。
ジェームズの行為は恐怖に怯える他の生徒(特にマグル出身者)の目に頼もしく映ったろうし、スネイプの言葉通り学内の人気は非常に高かったはずだ。それが彼の性格をより傲慢にしてしまったところはあるかもしれず、ハリーの父親ならではの「英雄気取り」を発揮してスネイプらスリザリン生にしょっちゅう嫌がらせをしていたことだろう。
しかしそれゆえ彼の評価は見る人それぞれの立場によって異なる可能性が大きく、例えば「四人でなければ一人を攻撃することもできなかった」というスネイプの言葉も、友人がおらずいつも一人でいた自分と違いジェームズは何をするにも仲良し四人組でつるんでいたという、ただその状況を大げさに言っただけかもしれないのだ。ジェームズを嫌っていたスネイプだけでなく様々な人物とのエピソードを物語に入れたらもっとすっきりしたのにと、ジェームズの名誉のためにも残念で仕方ない。

甘やかされて育った男の子ではあるだろう。しかし世間で差別される人狼とも親友になれる公平さを持つ人物である。若さにありがちな「陽気な残酷さ」「ちょっと勘違いしている部分」を直せば、リリーの愛を勝ち得たということは十分起こりえたはずだ。
もう少し彼の物語を書いて欲しかったと、やはり繰り返し思ってしまうばかりである。
Commented by at 2013-08-28 08:37 x
ジェームズ最愛の私にとって非常にありがたい解釈、感謝します。私も全く同感で、原作を読んでいればまだマシな方ですが、映画だけではほんとうに彼の性格は偏ったとられかたをしてしまうはずです。もう少し彼の存在を大切にしてほしかったです…。
Commented by teri-kan at 2013-08-28 16:00
颯様、こんにちは。
コメントどうもありがとうございます。

作品中のジェームズの扱いって考えものですよね。
確かに欠点もありますが、ジェームズが正義と勇気の人でなければ魔法界は作品に描かれているような状況にはなってないはずなので、描かれている魔法界がこうである限り、ジェームズの正義は絶対に保証されているはずなんですよね。

だから作者はジェームズのフォローを特にしなかったのかなと思ったりもします。
故人だし、下手に誉めるようなことすると英雄視されすぎて、かえって実像から離れてしまいかねないとかの理由で。
でも読者にはスネイプの記憶のジェームズが強烈すぎて、他の良いところは遥か彼方へ飛んで行ってしまいました。そういう風に受け取ってる人、結構いらっしゃるんじゃないかと思います。

やっぱり描写のバランスに問題ありますよねえ。
ハリー目線の物語だからしょうがないんだけど、ジェームズのファンにとっては歯痒いだろうなあと推察します。
Commented by 通りすがり at 2014-10-30 10:47 x
1度でも暇つぶしで攻撃を仕掛けた事実がある以上、学生時代に関しては闇魔術を使っていたや純潔主義、スリザリン生だからなどは攻撃するための建前にすぎないと思います。
Commented by teri-kan at 2014-10-30 16:36
通りすがり様

コメントどうもありがとうございます。

当時のホグワーツ内の純潔主義思想の汚染具合の程度は、読者によっては軽かったり重かったりしているのだと思いますが、私は重いと判断したので、暇つぶしで攻撃をしたことがあったとはいえ、スリザリンとの確執を抜きにして二人の学生時代の関係を語ることはできないだろうと考えました。
リリーと仲のよいスネイプを攻撃する口実もあったにしろ、スネイプが強烈な純潔主義者だったのは確かなので、その辺はどちらにもとれるといった感じなのではないかと思います。
ジェームズの純潔主義嫌いは徹底してますので、そこは外すべきではないと個人的には考えていますが。

お互いやりあっていたというルーピンの言葉は信用できると思うので、そうであるならスネイプによるジェームズへの攻撃の内容が明らかにされるべきだし、それがない限り二人の関係性はどうとでも解釈できるというものでしかないと思います。
ジェームズが死人に口なし状態なので彼擁護の立場になることが多いですが、基本的には二人の関係は曖昧なままだと考えています。
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by teri-kan | 2008-10-31 13:59 | ハリーポッター原作 | Comments(4)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


by teri-kan
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