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「謎解きはディナーのあとで」

毎日重い気分は深くなるばかりですが、日常に戻れる人間から着々と日常に戻っていかなければ日本全体が前へ進みません。
「何もしてあげられない」と落ち込んで普段通りのことさえしないのは最も悪いことだと思うので、そろそろ春物のお買い物をして消費活動に貢献するとか、遊びに出かけて経済活性化に貢献するとか、なんとか気持ちを入れ替えて、心は東北に寄せつつ体は元気に!という感じで頑張りたいと思います。

というわけで今回からここも平常運転。
まずはミステリーのベストセラー本、「謎解きはディナーのあとで」。
作者は東川篤哉で、印象的な装丁は中村祐介。小学館。

実はいつこれをここに書こうかとずるずる引き延ばしていた矢先に震災が起こり、ほとんどお蔵入り状態になりかけてました。軽快なミステリーとか、全然そんな気分じゃなかったし、こういった旬のモノは売れてる時に取り上げなきゃカッコ悪いし、すっかり自分の中で今更感が漂っていたのです。

でも今もまだベストセラーのランキングに名前があるんですよねえ。
売れてるんですねえ。

いろいろ宣伝されてたようだし、かくいう私も新聞広告を見て「読んでみようかな」と思ったクチなんですが、広告に惹かれて買ったという方、きっと多いのではないかと思います。
実際読んでみたら、まあ面白かったけど、そこまで言うほどのものかなあ?という感じの内容ではありました。かなり期待を煽られたからかもしれません。どれだけのものを求めるか、読者の好みや趣向でも評価が分かれるかもしれません。

ていうか、これはまだプロローグでしょう。本番ははっきりいってこれから。
続編がどうやらあるらしいけど(どんな内容の続編なのかは知らないけど)、シリーズ化していくならもうちょっと登場人物の関係性の深化がほしいかな。その上で今の軽くて明るい雰囲気を損なわなければもっと楽しくなりそうな感じがします。

主人公のお嬢刑事はちゃんと頑張ってるので好感持てるし、執事は……執事って人気あるんですねえ。この本が売れてる最大の理由はやっぱり「執事」だよね。
個人的には風祭警部のアホぼんぶりがお気に入り。イラッとくるけど嫌いじゃない。
キャラに合ったいい名前ですよね、風祭さん。なんかクルクルと楽しそう。この警部が「風祭」の名じゃなかったらここまで好意的には見られなかったかもしれないと思うくらいです。
宝生(お嬢様)に影山(執事)に風祭(先輩警部)。
それぞれいいネーミングですね。

ミステリーだからネタバレ御法度だけど、気になった点を一つ。
この作品の第一話の被害者の若い女性は、ワンルームマンションの部屋の奥でブーツを履いたまま殺されてるんです。で、「室内でなぜブーツを履いていたのか」が問題になるのだけど、その理由がですね、「あー、私もそれやったことあるわー」というもので、同じ庶民女子としての親近感をものすごく被害者に対して感じたのでした。
やっぱりいますよね、そういう状況になった時にそういう行動に出る人って。
客観的に見たらすごく変な格好だけど、背に腹は変えられないんですよ。

そういった日常感覚が織り込まれてる感じはいいなと思います。
この本って「殺人って全てに大袈裟な理由があるわけではないんだなあ」って感じで、恥ずかしいとか面倒くさいとか、そんな些細な人間の心理や行動のバッドタイミングの妙を楽しむものなんだと思います。




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by teri-kan | 2011-03-29 12:16 | | Comments(0)

「失われた近代を求めてⅠ 言文一致体の誕生」

橋本治の近代文学論。というか日本文学論。文学史論。小説家論。といったようなもの。
朝日新聞出版社。

第Ⅰ巻とあるように、これはまだ続きます。そういう意味での中途半端さは確かにあるのですが大変面白い。
語る対象があちこち飛ぶのがいかにも橋本風で、言文一致体を説明するのに「古事記」と「日本書紀」、それから慈円の「愚管抄」、二葉亭四迷の「浮雲」「平凡」、そしてなぜか田山花袋の「蒲団」と、扱う作品も広範囲にわたります。

取り上げられた作品の内容と背景を語ってもらうと、なぜこれらを取り上げたのか意図が理解できるのですが、ようするに日本文学は、輸入した書き言葉と会話としての日本語とのぶつかりあいの産物で、日本語を文章化する際にそれぞれの作家に起こった葛藤について理解する事が不可欠なんですね。古代に導入された漢文、明治の西洋文学、話し言葉として何千年も日本人に語られ続けてきた日本語、それらが作り上げてきた日本文学の流れについての考察は、ホント、並みじゃなく面白かったです。



本作で最も大きく取り上げられている作家は二葉亭四迷で、それはこの本のタイトルからして当然なんですが、それでも一番面白く、というか笑いながら読んだのは田山花袋の「蒲団」についての考察。
橋本治の「蒲団」解説はこれだけでも人にこの本を薦めたいくらい素晴らしいんですが、花袋の内実を解く筆はともかく、「蒲団」の主人公に対するツッコミは、絶対ニヤニヤしながら書いただろうと思わずにはいられない程とにかく可笑しい。

実は私は「蒲団」は読んだことなくて、「若い女が使ってた布団に入って女の残り香を嗅ぐヘンタイ中年男の話」という認識しかなかったんだけど、その認識は今回少し変わりました。残り香を嗅ぐ行為自体は、まあよく考えたら普通にある行為で、むしろ「蒲団」のヘンタイ加減は、主人公の頭の中のあり様にあるんですね。それと、そのヘンタイ主人公と花袋との距離の近さに。
「蒲団」と共に解説してくれた花袋の「少女病」の主人公も、もうどうしようもなさすぎて頭がクラクラしそうで、ちょっとねえ、ホントに笑えるくらいどうしようもなかったなあ。

まあ、その笑いの奥に隠された花袋の真実を語るのが橋本治の目的ではあるのだけど、「蒲団」の主人公があまりに強烈すぎて、そしてその強烈さを語る橋本治の筆が面白すぎて、「蒲団」の主人公のヘンタイさの方が結局印象に残っているという、なんともいえない読後感です。


「蒲団」にしろ「浮雲」にしろ「愚管抄」にしろ、文学史の年表の中でしか触れたことのない作品がなぜ文学史上燦然と輝いているのか、日本文学史の捉え方の難しさの理由とか、橋本風解釈を本作はとても丁寧にうねうねと説明してくれます。
二葉亭四迷、はっきりいって名前しか知らなかった作家だけど、面白い人ですね。
「二葉亭四迷」「浮雲」「言文一致体」は三単語セットで習ったけど、ホントに単語以上の知識はなかったし、今回は本当に勉強になりました。

ここで疑問が一つ。
日本は作家の自殺者が多い印象があるのですが、外国人作家の自殺者ってどうなんですかね。やはり多いのか、それとも少ないのか。
外国人作家と比較して日本人作家の自殺者の割合が多いというなら、本作で指摘されている「蒲団」から始まる日本文学の不幸は、本当に不幸なものなのかもしれません。
なんかね、作家は自分の全人格をかけて作家活動に身を捧げないといけないっぽいんですよ。心の中のもの全部さらけ出して。
確かにこれはちょっとしんどいかもしれないな。

まあこの辺は第2巻に期待です。
早く出してもらいたいものだと思います。




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by teri-kan | 2010-05-27 09:35 | | Comments(0)

「グインサーガ」その2

作者死去の後に発売された何冊かの新刊を、先日まとめて読みました。

まあ、なんといいますか、せめてタイス編をさっさとすませていたら少しは話が進んだだろうにと、やっぱり思ってしまいましたね。
はっきりいってこれからが本番じゃないですか。なんかもうつくづく残念です。

あとがきに別の誰かが続きを書くとか書かないとか書いてありましたけど、事情が許すなら是非書くべきだと思います。熱心なファンの中には「別の人が書いたグインサーガなんてグインサーガじゃない」って人もいるようですが、この作品をこれからの人にも読んでもらいたいと思うなら絶対に続きは必要でしょう。

外伝も合わせたら150巻にもなるという「全然終わってない話」を、新たに読みたいと思う人間がどれだけいるのか、結局はそういう話なんですよ。
少なくとも私なら読みたいとは思わない。きちんと完結してる話、又は完結に向かっている話の方を優先して読むし、実際そういう人がほとんどじゃないかと思います。

個人的には「グインサーガ」がここで終わっても構わないといえば構いません。作者がいないのはもうしょうがないことだし、まあ今まで楽しませてもらったし、読み返して理解を深めるという楽しみ方だって既に読んでいる読者にはある。
でもそれじゃ「同時期に生きた人間のための本」でしかないですよね。

そういうのって作家の心情的にはどうなんでしょう。作家の内面を想像するのは難しいですが、普通は自分が死んだ後も世代を越えて読み継がれていくことを願うものなんじゃないかなあ。
で、私は「グインサーガ」がそうなるためには、やっぱり続きが必要だと思うのです。違う作家だろうと物語が完結すれば、栗本薫自身が書いた部分も生きる。

ま、いろいろ難しそうではあるけれど。
特にグインの記憶喪失については問題がありすぎるし。



にしても、今回読んだヤガが舞台のあれこれはなかなか面白かった。
スカールはいいですね。さしもの作者もスカールの心情はサクサク書くしかないらしい。同じ思考の中をぐるぐる回る人物が多い中、スカールの明快さはとても快適です。

作中で出てきたサイロンの怪異って具体的にどんなだったっけと、外伝1を箱からひっぱり出して今読んでるところなんですが、昔の印刷は文字が小さいですねー。今と全然違う。
ていうか作者が晩年にこれを書いたなら、きっと1冊では終わってないですね。もしかしたら4冊ぐらいになってたかも。
「七人の魔道師」や「ノスフェラス編」の圧倒的な分量とスピード感と力強さは、若さゆえのエネルギーのたまものだったんだなあと、今回改めて思って、ちょっとしんみりしてしまいました。
病床にありながら強靭な人だと感心していましたが、もともと持ってるパワーが大きな人だったんですよね。
いろいろな意味でもったいなかったなあと残念に思います。




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by teri-kan | 2010-05-19 12:05 | | Comments(6)

「TALK 橋本治対談集」

橋本治が自身の6作品について、それぞれ6人と対談したものを収めた本。ランダムハウス講談社。
6作品と6人の内訳は以下の通りです。

「短編小説」高橋源一郎
「ひらがな美術史」浅田彰
「小林秀雄の恵み」茂木健一郎
「窯変源氏物語」三田村雅子
「双調平家物語」田中貴子
「最後のあーでもなくてこうでもなく」天野祐吉

どれも面白いのですが、特に面白かったのは茂木健一郎との対談。
これは「小林秀雄の恵み」自体が刺激的で面白かったせいもあるのだけど、この先の橋本治に期待を持たずにはいられなくなる内容で、非常に興味深かったです。



「小林秀雄の恵み」は2007年発売で、主に小林秀雄と本居宣長について書かれているんですが、完全に理解しきれていない自分が言うのもナンだけど、すごいんですよ。
小林秀雄は本居宣長をどう見たか、を論じるため本居宣長本人を橋本治は論じるんだけど、そこで解き明かされるのは古代から続く日本の、日本たらしめている精神性で、これがやたら面白くて、そして橋本治が本居宣長をとても好きっぽいのが読んでて楽しかった。私も本居宣長のファンになりそうなくらいでした。

ですが肝心の小林秀雄についてあんまり理解できたとは言えなくて、で、そんな自分にこの「対談集」の橋本×茂木対談はうってつけだったのでした。小林秀雄という人についてちょっとはわかるようになったのです。
まあ、ほんのちょっとではありますが。
しかもここからもっと詳しく知りたいとも思わなかったけど。

でもこれから本居宣長について書きたいと橋本治が言っていたことには大いに期待します。
これは本当に楽しそう。



他の対談も面白かったですよ。高橋源一郎と天野祐吉のは橋本治の小説家・評論家としての考え方がわかるし、他のは日本と日本の文化についてたくさん語られている。
白河法皇が自分を光源氏になぞらえてたという話は面白かったですね。和歌の詠めない待賢門院のために源氏物語絵巻を作らせた説とか、和歌を詠まなくて他人とのコミュニケーションのなかった待賢門院はさぞ暇だったろうとか、とても楽しかったです。



とかなんとか書いていたら、タイムリーな記事発見。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100225-00000550-san-soci

この「対談本」の中にも、小林秀雄は書いたものより話したものの方が面白い、なんて話が出てくるけど、このテープもきっと面白いんでしょうね。




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by teri-kan | 2010-02-26 00:51 | | Comments(0)

「天平の三姉妹 聖武皇女の矜持と悲劇」

遠山美都男著。中公新書。

歴史的にあまりにもマイナーすぎるからでしょうか。
感想を探しても、ネット上にほとんどありません。
専門に勉強している人しか興味がない題材といえばそうなのかもしれないけど、でも面白いんですよー。三姉妹の一人・孝謙天皇はマンガにもなってるし(確か里中満智子が描いていたような……)この紹介文↓を読んだだけでそそられる人、絶対いると思います。

「天皇として権力を振るった阿倍内親王。大逆罪に処された井上内親王。息子たちの謀反に連坐し、流罪にされた不破内親王。凄惨な宮廷闘争の背景にあったのは何か?」

ね、面白そうでしょ?



ここに描かれているのは君主の権力闘争です。将軍職を争うとか関白職を争うとか、そんな国家の№2を競うんじゃなくて、権威と権力両方を持っている本当の支配者の地位をめぐる争い。
昔の天皇の力は強大なんですね。その分おびただしい血が陰謀と共に流れていく。
例えば桓武天皇は多くの業績を残した天皇ですが、それこそ彼の周囲は陰謀だらけ。怨霊に気をつかってばかりで、さぞかし大変だったろうと想像します。

読んでて面白いと思ったのは、天皇になるための資格というか、確固たる理由みたいなものを、皆それぞれの天皇が必死になって求めているところ。代々がそうやって理由づけをしていって、それに乗っかって実績を作って、その実績がまた確かな権威になるという、天皇の正統性を確立していこうとする様は興味深かったです。
そこのところの試行錯誤の中で当然無理や軋みも生まれて、この本にとりあげられた三姉妹は、まさにその軋みに翻弄された人生を送った人達なのでしょう。

やっぱり発端は草壁皇子の早世なんでしょうかねえ。
ただ一人の幼い孫を皇位につけたかった持統天皇の祖母愛が、天皇の資格云々のゴタゴタの始まりといっていいのかも。



聖武天皇はねえ、偉大か変人かどちらかというか、あんな後にも先にもない大仏を造ってるあたり、絶対フツーの人じゃなかったと思うんだけど、この作品を読んでると結構立派な人っぽい感じがしますね。
孝謙天皇(阿倍内親王)も、どうしても道鏡との恋愛のイメージが強い人なんだけど、本作ではすごく真面目な理想主義の人って感じ。

取り上げられることの少ない井上内親王と不破内親王について詳しく知ることができたのはよかったです。特に不破内親王。本作の解釈通りの人だったかどうかはともかく、大変な人生で、読んでて溜息しか出てきません。



結構面白かったです。
この時代の話は今度ドラマも放映されるけど(石原さとみが阿倍内親王)、どういった解釈のもとに物語が作られているのか、とても楽しみ。
絶対ドラマに向いてると思うんですよねーこの時代。
これからもいろいろと作ってもらいたいな。




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by teri-kan | 2010-02-10 10:57 | | Comments(0)

「白川静 漢字の世界観」

松岡正剛著。平凡社新書。

先日読んだ「日本辺境論」は、辺境人を説明するためにいろんな方の言葉や業績が文章中に紹介されているのですが、その中の一人が白川静。知ってる人は知っている、漢字の大先生です。

私が初めてこの方を知ったのはとても遅くて、なんとお亡くなりになった時。大きな知性が失われた、といった新聞の記事ででした。
へえ、どんな人だったんだろうと思いつつそのままにしていたら、昨年そんな初心者にもうってつけの本が出て、それが本作「白川静 漢字の世界観」だったのでした。
内容は、漢字の成り立ち、その呪術的な意味、それを使う人々の世界観……先生がどういった経緯でそれらを解き明かし、仕事を積まれていったか、そういった諸々が書かれています。

とにかく読んでて感動することしきりで、特に漢字一つ一つの由来と意味については、もう頭の中の雲がぱーっと晴れていくかのようで、久しぶりに脳が知的に刺激されたとしか言いようがありませんでした。
こんな世界があったのかと、面白くて面白くてしょうがなかったですねえ。

すぐに当の先生の著書「漢字」も購入したのですが、毎日の生活でバタバタしているうちになぜだか行方不明に(涙)。買い直すのもためらわれるので結局そのままになっているのですが、「日本辺境論」に登場してきたせいで、またむくむくと読みたい病が起こっています。



とにかく面白い。
漢字の世界ってすごいのです。
読んだ事のない方には絶対オススメです。




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by teri-kan | 2009-12-21 10:50 | | Comments(0)

「日本辺境論」

著者は内田樹。新潮新書。

初めてこのタイトルを見た時「わ、売れそうな本」と思って、著者名を見て「これ絶対売れるだろ」と思って、で、実際売れてるらしいのですね。
買おうかどうか迷ったけど、自虐にも礼賛にも偏ってなさそうな感じがしたので一応購読したのですが、とりあえずその勘は当たっていました。



辺境人は辺境人でいいじゃないか、欠点も多いけどこうでしか生きられないんだから、という趣旨の内容は、多分多くの日本人の肩から力を落とさせてくれると思うのだけど、一方でちょっと暗い気持ちにもなりました。

辺境に対する真ん中とはもちろん中国のことなのですが、以前中国を特集したTV番組を見ていて、中国人の大国意識をまざまざと見せ付けられたことがあるんですよね。
で、その時思ったのです。中国人が日本人の戦争をいつまでも許さないのは、日本が酷いことをしたせいもあるけど、そもそも小さな辺境国が自分達を攻めたという、そのこと自体が気に入らないのだなと。だからどれだけ謝っても許されることは決してないんだろうなあと。

「日本辺境論」を読んでいて暗澹とした気分になったのは、中国に対して思ったそれが韓国にも当てはまるとわかったことで、かつての日本がアホだったとはいえ、辺境国とはかくも立場の弱い国なのかと、実はかなりガッカリきたのでした。
本作は日本人が辺境人特有の思考から逃れられないことを繰り返し説明するのですが、日本がそうであるなら中国や韓国の「自分達は日本より優位の国である」という意識も未来永劫変わることはないということで、真に対等になれるなんて、この先絶対にないってことなんですよねえ。



まあそれはともかく、そんな日本の過去の戦争についても、なぜ当時の軍部は暴走したのかという説明を本作はしてくれるのですが、その内容を正しく理解できるのはおそらく日本人だけでしょう。

空気。その曖昧にして確固たるもの。

いやあ、読んでてこれまたガックリくるくらい日本人ってホントに日本人だなあとしみじみしてしまうのですが、「お国のために」と戦争に駆り出された方々、空襲に合われた方々に一体どう顔向けすればいいのか、「空気のせいで死んだんだよ」なんてとても言えません。

そんな「辺境人」であるがための負の部分はもちろん、逆に良いところも本作には書かれているのですが、特に日本人の「知りたがり屋」「勉強したがり屋」な面についての説明は興味深かったですね。日本人にとってどれだけ「学ぶ」ことが大事か、ちょっと難解な説明ではありますが丁寧に書かれてあって、「日本語」の特殊性のくだりと合わせてとても面白く読ませてもらいました。



辺境人の作り上げた、辺境人を辺境人足らしめる最大のもの「日本語」を大事にして、これからも辺境人らしく向上心を持って頑張ろう!
……というような結論でいいのかな。

辺境という「世界の果てのどん詰まり国家」のアレコレは、当の本人達にとっても摩訶不思議だったりするのですが、それがわかりやすく解説されてて面白かったです。


内田氏の著作、他にも読んでみようかな。
実は「橋本治と内田樹」しか読んだことないんですが、ちょっとそんな気になった「日本辺境論」でありました。




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by teri-kan | 2009-12-15 10:48 | | Comments(0)

「源氏供養」

橋本治の「源氏物語」評論、というかエッセイ。

私は社会人になってもいろんな先生の評論集を買って読んでたくらい「源氏物語」が好きだったのですが、なんで安くはない本を買ってまであんなに「源氏物語」について知りたかったのかなあと振り返って思うに、物語の底に流れる「何か」が知りたくて、紫式部が結局何を書きたかったのかが知りたくて、それでいろんな評論を読み続けてたのですね。
そしてその「何か」を教えてくれたのが「源氏供養」で、これ以降私の源氏評論あさりはパタリと止んだのでした。


「源氏物語」の何を知りたかったのかというと、結局ヒロイン紫の上はどういう人物で、この作品でどういう役割を与えられているのかということだったのですが、これがなかなか難しかった。

源氏に最も愛された女性として羨まれると同時に、最も不幸な女性として気の毒にも思われている紫の上。
彼女の不幸はいろいろあるのですが、最大の不幸はなんといっても生涯出家を許されなかったことで、当時の出家はイコール俗世を捨てる、即ち女を捨てるということだから、それが許されなくて不幸と言うなら、やはり彼女の不幸は女である事そのものということになる。

それはわかるのです。わかって、なおかつ「では女である事はどういう風に不幸なのか?」という事になると、掴めそうで掴めない。具体例は物語中にたくさん出てきて、その一つ一つにこちらもうなずくけれど、じゃあその背景にあるのは何かとなると、感覚ではわかるんだけど言語化できない。
紫の上は不幸で、しかし源氏とはある意味理想的な夫婦関係を築けてもいた。では不幸でもあり幸福でもあった紫の上とはどういう人かとなると、これもなかなかまとまらない。

橋本治はそれらを大変わかりやすく説明してくれて、しかも一言で言い表してもくれました。

「紫の上は走る少女だった」

もう目からウロコです。





続き
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by teri-kan | 2009-12-11 10:27 | | Comments(2)

「院政の日本人 双調平家物語ノートⅡ」

橋本治の「権力の日本人」の第二弾(講談社)。
前作が武士の登場した時代から遡って奈良時代までを扱ったのに対して、本作は古代から大化の改新、そして院政期以降について書かれています。

相変わらず大変な分量です。そして大変にわかりにくい。
院政期から鎌倉幕府開幕まで、わかりにくい時代をわかりにくさそのままに、わかりにくく説明してくれている。言ってみればこんな感じでしょうか。

わかりにくい時代をわかりやすく説明しようなんて気、この人にはさらさらないんだろうな。院政期の朝廷がグダグダなら、そのグダグダ加減そのままにグダグダと語ってくれるものだから、とにかくこっちも何やら複雑だがとにかくグダグダしてたのだけはわかった、という気分になれる。
頼朝はちんたら動いていて、平家もちんたらしている。細かな成り行きがいろいろあるとしても、とりあえずあの時代は実はちんたらしていたんだということを、読んでいてもう骨身に沁みて感じられる。
なんといいますか、橋本治のあっちへ行きこっちへ行きの書きっぷりが、あの時代の空気感をそのままに伝えてくれているかの如くなのです。

それでいながら反面非常にわかりやすい。これまで不勉強なせいもあるけれど、本作のおかげであの時代の流れを私はやっと理解することができました。
源平の時代の出来事はそれなりに知ってはいたのですが、一つ一つのエピソードが独立してしまって、関連性や時代の流れの中での位置づけとなると、実はよくわからないといったものが多かったのですね。
その点がかなりクリアになって個人的にはとても充実。いいもの読ませてもらったなーという気持ちです。

院政の内実もやっと理解できました。
元々平安時代自体は好きなのだけど、院政期はどうも好きになれなくて、男色にまみれていたことをどう理解していいのかわからなかったし、待賢門院を初めて知った時なんて(高校生の時だったかな)かなりショックを受けたものですよ。あれは乱れているのにも程がありすぎる。
そんなこんなで、これまで私にとってあの時代は、立ち入る気にもなれないほど欲にまみれたグチャグチャの、わけわからん時代だったのですが、橋本治はその辺さすがで、男同士のつながり方があれしかなかった時代というものを、私なんかにもわかるように懇切丁寧に説明してくれました。文書的におおっぴらに出来ない愛を行動原理にして皆がてんでばらばらに動いていたのだから、そりゃわかりにくいはずですよ。全体像を掴もうなんて至難の業。

日本人、変な社会を作ってしまったものですねえ。



本作を読んでいて、なぜ私が日本史の中でも古代から摂関政治全盛期までが好きなのかつくづくわかったんですが、結局本のオビに書いてある通りなんですね。それ以降は歴史の表舞台に女は立てないんです。まさしく男の時代になってしまうんですよ。
娘を后にして天皇を傀儡とする制度が良いとはいわないけど、その政治システムに女は不可欠で、だからこそ平安時代は女性が賑やかでした。「枕草子」も「源氏物語」も出来たし。
女の天皇を輩出した時代は言わずもがな。やっぱり私としては女が自分で行動している時代の方が好きだなあ。

でも男は男で大変だったんだということが本作でよーくわかったんで、これを機会に中断している「双調平家物語」をまた読み始めようかと思います。
実は三分の一ほど残ってるんですよね。そこからが正真正銘「平家」の物語だというのに。

一方で最初から読み直したい気分にもなっていて困る。
実は本作での中大兄皇子の評価にカンドーしちゃって、今無性に彼に会いたいんですわ(笑)。

いやあ、天智天皇、というか中大兄皇子、すごいですよ。
「院政の日本人」というタイトルで、院政期から源平時代の人物をあんなにあれこれ書いてくれたのに、一番印象に残ったのは中大兄皇子という、なんともいえないこの状況。



うーん、まあでも先にやっぱり残り三分の一かな。
後白河法皇の変さ加減を味わわなきゃね、うん。
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by teri-kan | 2009-09-03 15:02 | | Comments(0)

系図マニア

私はかなりの系図好きで、各国王家や名家の系図を自前でいくつか作っています。
縦に長いのより横に広がる系図が好きで、特に婚姻関係の繋がりを見るのが楽しい。昔は外国も日本も結婚は政治ですから、家同士の関係は即政治状況の説明なんですね。そういう系図を自分なりに作ると当時の社会や(ヨーロッパの場合だと)国際情勢が理解しやすくなってとても楽しいのです。

系図好きになったきっかけは源氏物語で、大量に出てくる登場人物を整理するために始めたのが最初なのですが、源氏の登場人物は「なんで皆こうやってきちんと線で繋がっていくんだ?」って感心するくらい何らかの血縁関係で結ばれていて、狭い社会の中で皆誰かと夫婦だったり兄妹だったり親子だったりするのです。これでもかってくらい徹底されて皆親戚なのですよ。
「まあ道長だって娘を四人も入内させたしなあ」とか思いつつ、そのうち源氏物語の世界だけでは物足りなくなって、とうとう実際の平安王朝の家系に手を出すことになるのですが、これがまあ物語なんか比較にならないほど複雑怪奇で、はまりこんだら抜けられない(苦笑)紙が足らない(笑)きりがない(笑)。
檀林皇后ってカッコいい名称だなあとか、桓武天皇のお母さんは渡来系の人なのかあとか、井上廃后って何よ、皇后が廃されるなんてことがあったの?とか、楽しく調べつつ、書いた本人しかわからないような入り組んだ系図が何枚も出来上がって、でも「うん、上手くまとめた」と悦に入っていたウン年前……。


地味に楽しんでたあの頃を、橋本治の「権力の日本人」は思い出させてくれます。
あれに載ってる複雑な系図はまさに私が作っていたのと同じもので、そして二作目の「院政の日本人」でとうとうその説明がきたのでした。著者がどのようにしてあの系図を作るに至ったのかという成り行きというかいきさつの説明が。

橋本治が天皇家の系図を書いていくにあたって、どんどん遡って継体天皇や応神天皇まで行き着いてしまったという話には、僭越ながらその気持ちがわかるような気になったものでした。誰が何をしたかは置いておいて「この人の父はこの人で母はこの人」ってことばかり調べてたというのもすごくよくわかる。

でも自分のような凡人と違って、彼は自分が作った系図から様々なことが読み取れるんですね。読んでる資料の量が違いますし、目的をもって系図を作ってるから当然なのでしょうが、にしてもこの辺の作業、本人すごく楽しかったんじゃなかろうかと想像します。

読んでてこれだけ楽しいのだから、書いてて(というより考えていて)さぞかし楽しかったでしょうねえ。




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by teri-kan | 2009-08-12 11:59 | | Comments(2)