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バラード2番とペルルミュテール

以前、ショパンのバラードの2番について、長々と感想文を書いたことがあります。
バラード4曲の中で一番人気がないけど大好きだ!という気持ちと共に。

で、その後バラードの解説とかCDの聴き比べとか、ショパンについて詳しく書かれたサイトさんをいろいろ回ってみたのですが、おかげさまで随分勉強になりまして、例の第一主題がピアニストの演奏によってかなり聴こえ方が変わるらしいということがわかってきました。
演奏によっては単調な第一主題が更に面白くないものになってるとか。

で、ふと思ったのです。
私が初めて聴いたバラード2番は、もしかしたらピアニストがものすごい上手な人だったのではないかと。だから私はこんなにもこの2番が好きになったのではないか。
10歳頃から大人になるまで、バラード2番は父のそのレコードしか聴いたことがなかったのですが、よほどその演奏が良かったのではないかと思うに至ったのです。
で、父の古いレコード棚を漁ってみたんですね。私は一体誰のバラード2番をずっと聴いていたのか?ということで。
で、判明しました。
私が子供時代にずっと聴いていたのはヴラド・ペルルミュテのピアノ。
「ショパン・リサイタル」と銘打ったショパン名曲集でした。

このレコード、1962年度ACCディスク大賞を受賞している名盤らしいです。
そしてペルルミュテ、普通ペルルミュテールと表記されますが、名ピアニストだったそうです。
そうです、というのは、もう既に亡くなっているからなのですが、ざっとネットで調べてみても素晴らしいピアニストだったらしい。
ですが私は当時そんなこと何も知らずに聴いていたんですよね。
大人になって自分でCDを買うようになるまで演奏者の名前なんて気にしたことなかったし、そもそもペルルミュテの名前に触れることが実生活では皆無でした。

で、肝心の彼のバラード2番なのですが、実は現在音を確認することができません。
なのでどこかにこのレコードについて解説してるところはないかと探したのですが、わずかながらではありますがネット上にいくつかありました。
一応一件ご紹介。
個人様のブログなので勝手に貼るのは気がひけるのですが、気になる方がいらっしゃったらご覧になってみて下さい。
http://chsclub.exblog.jp/6465715/
クラシックの名盤をたくさん紹介されてるブログさんです。

こちらの方によると、ペルルミュテのバラード2番は大変素晴らしいらしい。
んでもって、私の記憶を手繰ってみても、「この曲の詩的感情を見事に引き出しています」という評価は正しいように思える。
だって退屈と言われている第一主題だって全然退屈じゃなかったもんね。子供ながらに「いいなあー」ってホレボレしてたもん。
ゆったりほのぼのしていたら、急転直下の嵐が来てビックリしたけど。
そうそう、クライマックス部分がカッコよすぎて、1人で悶絶してたなー。

このレコードの曲目は以下の通りです。
幻想曲 作品49、タランテラ 作品43、スケルツォ第2番 作品31、舟歌 作品60、子守歌 作品57、練習曲「革命」作品10-12、バラード第2番 作品38。

なかなかいい選曲だと思うのですが、今から考えればバラード2番が入ってるってかなり変わってるような気がします。
そもそもこのレコードに収録されていたせいで、バラードの中で最も評判が良いのは2番なんだとずっと思い込んでいましたからね。1番や4番の評価の高さばかり耳にしても、2番は知る人ぞ知る名曲なのだと信じて疑ってなかったですから。
まさか最も評価が低い上にかなり不人気だったなんて、全然思いもしなかったですよ。
なんでペルルミュテはバラードの中でも2番を収録したんだろう。
2番が好きだったのかな?

父はこの盤の他にペルルミュテのショパン前奏曲集、ワルツ集も持っていて、私のショパン好きの原点はこれらのレコードになります。
10代の頃はショパンはこれだけしか聴いてなかったから、身に沁みついてるショパンはペルルミュテのショパンと言っていいかもしれません。
あまり意識したことなかったけど、多分私のショパンの基準になってるのだろうと思います。

ペルルミュテの「ショパン・リサイタル」、CD化されてたら欲しいなと思ったのですが、残念ながら出てないようです。
バラード以外も聴き直してみたいんですけどね。
タランテラとか曲自体久しく聴いてないし、いろいろ思い出されて懐かしいです。
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by teri-kan | 2014-01-31 10:56 | 音楽 | Comments(2)

「足尾から来た女」

二週に渡って放送されたNHKのドラマです。
足尾銅山の鉱毒事件に絡ませた、明治時代の、とある女性の物語。

前編は銅山がもたらした影響や当時の政治状況など、主人公を翻弄する明治の様々な歪みを主に描き、後編では主人公が苦しみの中でも一つ一つ気付きを得て、前を向いて進もうと決意するまでを描いていました。

「足尾」という地名がもたらすイメージは日本人にとって強烈で、そのせいかこのドラマを公害と戦う社会派ドラマとして位置づけようとするような、そんな雰囲気もあったと思うのですが(特に前編)、それはドラマの本筋ではなく、メインのテーマは弱者の気付きですね。
弱者だからこそ無知のままではいられない。
このドラマの言いたかったことはそこら辺ではないかと思います。

このドラマの主人公は当時の社会でも弱者中の弱者です。
まず、女性である。(ドラマでも語られるが女にはまだ選挙権すらない。)
字が読めない。(男である兄は学校へ進ませてもらえたが、本人は通えなかった。)
漂流者である。(鉱毒により故郷、実家、家族等、帰る場所を失った。)

主人公は共感する能力が高い女性でしたね。
彼女が啄木に感動して字を勉強したいと思い始めるようになったいきさつは非常に自然で、福田英子が「字が読めれば社会のことがわかる」と社会運動家らしく啓蒙しようとしてもイマイチ乗り気でなかったのと良い対比でした。
普通そんなもんだと思いますしね。
ご立派な理想や目標を掲げて何かをやろうなんて、市井の人間にはそうそうできることじゃありません。

でも肝心なのはそんな弱者の一人一人の意識の持ち方。
田中正造のセリフは終始そのことを言っていたような気がします。
家一軒から村が出来、国が出来る。
これは現在の為政者も忘れてはならない基本だと思いますが、家を持つ一人一人がその意識を持つことこそ大事というのは絶対にそうだと思います。

明治時代の歪みがかなり描写されていて、全体的に面白いドラマでした。
明治政府を擁護する気はありませんが、当時の必死さはわかりました。
日露戦争にもちゃんと言及して、足尾銅山の銅が大陸で鉄砲の弾として使われたということ、それが名もなき兵士の命を救ったということは、歴史の事実として確かにあることではあるんでしょう。
もちろんそのせいで命は助かっても精神を病んでしまったという兵士の存在があることも。

啄木がクズな男だったのも良かった。
石川啄木と石川一と、理想と現実に引き裂かれるナイーブな青年といった文人像は、明治という時代を反映していたものでもあるんだなあと、歪みを描いてるこのドラマだと思えます。

軍事大国という外国がなければ、日本もこれほどの矛盾を抱えなくてもすんだのか?と思ったりしますね。
明治時代は税が重くて、悲惨な戦争に駆り出されて、工場でボロボロになるまで働かされて、維新までの価値観をひっくり返されて、それでも国が国であるために、日本人として食っていくために必死にならざるをえなかった。
国家同士の付き合いが完全な弱肉強食で、江戸の末期から否応なくその世界に組み込まれて、その中で戦わなければならないから国内も必然的に弱肉強食になるのだけど、しんどいですよね、これは。
しかもあまりにそれをエスカレートさせたら、やって来るのはテロリズムの嵐。
明治時代は政治家の暗殺、本当に多かった。

無理に無理を重ねてた時代だったんだなあと思います。
昭和は更にそうだし、今もある意味そうですね。
なんとかバランスのとれた社会にならないものかと思いますが、世界は逆行してるみたいだし、日本だけがどうこうという問題じゃないのが難しいところです。



尾野真千子は良かった。
やはり上手いですね。無知だけど頭は悪くなく、芯は強いけど若い女性らしい可愛らしさもあるといった人物を説得力もって演じていました。
柄本明がすっかり明治のおじいさんがはまり役になってて感心しました。
明治のおじいさんっつーか、田中正造や以前の乃木大将といった明治の偉人なんですが、ホントこの人は雰囲気がありますね。
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by teri-kan | 2014-01-29 11:20 | ドラマ | Comments(0)

ピアノソナタ 第32番 ハ短調 作品111 / ベートーヴェン

1822年に発表されたベートーヴェンの最後のピアノソナタ。
「ベートーヴェンの後期三大ピアノソナタ」のうち最も有名で最も評価の高い作品です。

2楽章で構成されていて、第1楽章はとてもベートーヴェンらしい曲です。
いうなれば彼の人生、生きてきた軌跡のような曲。
第2楽章はうってかわって優しく穏やか、そして厳か。
変奏曲風でめくるめく音の世界です。
途中ジャズっぽいところもあって、初めて聴いた時は驚いたものです。
しかしそういったのを通り過ぎると、またじわじわとくる静かな世界です。

すぐ前の31番が地上にあって喜びにふるえる曲ならば、32番の最後に行き着くところは天上です。
高音のトリルは天の音です。この曲は確かにそこに私達を立たせてくれます。
しかも同時に浄化があります。
身がそそがれるとでも言いましょうか、自分的にはこの第2楽章は浄化の音楽です。身も心も浄化され、遂には天にゆく。
美しすぎる曲で、だから天としか言いようがないのだけど、本当に最後のピアノソナタにふさわしすぎる作品だと思います。
32番は全体的に人生そのものを謳っていると思うのですが、迎える最期がこれならば生きるのも悪くないと思えます。

まだこの曲は課題ですね。
もっと年をとって、それこそ人生の晩年になって聴いたなら、ベートーヴェンの精神にもう少しでも近づけるような気がする。
近付かなくても今の状況で楽しく聴けばいいのですが、深さに到達してない感が我ながらありありとわかるので、やはり課題の曲です。

手持ちのCDの中ではシフの32番が好きです。
非常に素晴らしい。
でもこれについてはもっといろんなピアニストのものを聴きたいですね。




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by teri-kan | 2014-01-27 11:19 | 音楽 | Comments(0)

大河ドラマ「軍師官兵衛」

第三話まで放送されましたが、面白いです。
初回は少々首を傾げたくなるところもありましたが、全体的にはなかなか良いドラマなのではないでしょうか。
話の進み具合がいいです。停滞感がないのが良い。
三話で初恋の女性と祖父が物語から退場し、子供時代のテリトリーから飛び出す。
これからが本番だし、本番までの前段階部分としてこれまでは上出来だったと思います。

野蛮な戦国時代が描かれていて良いです。
舞台が西日本なのもうれしい。
戦国時代といっても西は西で畿内や東とは違うし、播磨の状況は初めて知ることも多くて楽しいです。

岡田准一がいいですね。見ていて安心できます。
ジャニーズの中で最も良い俳優の一人なのではないでしょうか。
顔も万人が認める男前だし、彼なら大河の顔として一年間十分耐えられそうです。

初回で母親が早々に亡くなるのを見て、そういえば大河ドラマで最終回まで生きた母親は「八重の桜」が初めてだったんじゃないかと気付きました。
あ、「篤姫」があるか。
でも基本的に早世する母親が多いですよね大河って。
今回や「平清盛」のように初回であっさり死んでしまうパターンも結構ある。
まあ昔ですから母親に限らず早く亡くなる人が多いのだけど、「官兵衛」の母親があっという間に亡くなったのを観ていたら、自然と去年の八重の幸運さを考えてしまいます。
母親が天寿を全うしてくれるというのはホントありがたいことですよ。

全体的に好印象の「軍師官兵衛」ですが、唯一好みでないのがテーマ音楽。
一年間飽きの来ない音かもしれないとは思うけど、メロディ的に好みじゃないのが残念。
そのくせ頭の中をぐるぐる回るから困ってしまうのだけど、ちょっとベタすぎるかな。下手すりゃダサいと感じてしまいかねないほどベタだと思います。
官兵衛自身をテーマにしてあの音楽なのか、それとも戦国時代の表現なのか、その辺が気になるところですね。
ドラマが進めば意図も見えるかな。

配役は気にいってます。
鶴ちゃんはやっぱり変な殿の役が似合う。
恭兵さんは出てるだけで嬉しい。
吹越満の将軍様は楽しみですね。
いろいろ面白そう。
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by teri-kan | 2014-01-24 10:22 | 大河ドラマ | Comments(0)

ピアノソナタ 第31番 変イ長調 作品110 / ベートーヴェン

1822年に発表されたベートーヴェンのピアノソナタ。
「ベートーヴェンの後期三大ピアノソナタ」と呼ばれている3曲のうちの真ん中にあたります。

大好きな曲です。
特に第3楽章。
「嘆きの歌」からフーガ、そこから最後まで、素晴らしすぎて涙があふれそうになってきます。

この曲を聴いていると体の奥から喜びがわいてくるのですよ。
あたたかな喜びが。
そしてこの喜びの正体はなんだろうと考えてみると、どうやら体に血がめぐっている喜びなのです。
自分がここに存在していることへの喜びなんですよ。

こうまで存在を肯定されたら人間として幸せです。
こんな音楽作れるなんてベートーヴェンは大丈夫だったのか?と逆に心配してしまうほど。
ここまで人間を、しかも200年近くも後の世の人間までも幸せにできるということは、考えられないほどの苦しみを味わったからとしか思えないのですね。
伝記を読むだけでも彼の音楽家としての過酷な生涯はわかるのですが、こういう絶対的に人間を肯定している曲を聴くと、その苦しみの一端に触れられるような気がします。

人類を幸福にするために神に選ばれ試練を与えられる人って本当にいるんですね……。

ちなみに手持ちのCDの中ではシフがお気に入り。オススメです。
ポリーニもドラマチックでした。
先月聴きにいったツィメルマンにも、これは是非CD録音してもらいたいものです。




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by teri-kan | 2014-01-22 10:08 | 音楽 | Comments(0)

「怪盗ルパン伝 アバンチュリエ」2巻

「ユダヤのランプ」です。
ハーロック・ショームズ再び。
いや、正確には三度目か。

ショームズが出てくる原作にイマイチ思い入れがない私ですが、「アバンチュリエ」のは面白いと思います。ショームズとウィルソン君がいいキャラクターになってるから、彼らメインで見ても楽しめる。

マンガの表現はいいですね。
原作を結構忘れてるんで忠実な再現なのかどうなのかわからないけど、川からあがったショームズがサイズの合わない服を着ているところ、その格好で夫婦の決定的な場面にいたたまれない表情で固まっているところなんて、面白い絵だなあと思いました。

そう、これってご婦人の名誉を守るお話だったですよね。
結局守れなかったけど。
波風たたせず事態を収めようとしたから却ってややこしいことになったって感じで、でもルパンは人殺しはしないからなー。
あの下種な男をさっさと殺しちゃえば話は簡単だったけど、それだと夫人や彼女が苦しすぎますからね。
絶対殺さないというルパンだからこそ女性も依頼しやすかったはずだし、その辺ルパンのイメージは既にしっかり確立していたんだなと思います。

次はとうとう「奇厳城」。
またもやルパンは登場しません。彼が大々的に姿を現すのは後半の後半になってから。
だからショームズ同様ボートルレ君のキャラが重要になってきます。

ここら辺がルパン作品の難しいところですね。
「813」以後だとルパンが最初から登場して、悪人の敵と痛快に戦うのだけど、「奇厳城」までは敵が警察や善良な(?)宝の持ち主だったりするから、ルパンは思いっきり日陰の人なんだ。

個人的には日陰のルパンより出ずっぱりのルパンが見たいから「奇厳城」はさっさと進めて「はよ813を!」ってな気分だけど、でもこの雰囲気だと「奇厳城」の後は短編とかをやるのかなあ。
実は「アバンチュリエ」は思いっきりソニアを絡ませてるんですよね。なんと今回の「ユダヤのランプ」にも出ている。ちょっとだけだけど。
ていうか、最初誰だかわからなかった(笑)。巻末の解説を読んで「なるほどー」って感じで、ここまでしっかり作りこまれていたとは正直思いもしてなかった(笑)。

しかしソニアが健在のまま「奇厳城」に入るとなると大きな問題が。
それはもちろんレイモンドが登場するからですが、となるとソニアの悲劇は「奇厳城」冒頭で起こるということなのかどうなのか、そこら辺がヒジョーに気になる。
そうなるとソニアが出てくる短編の事件は「アバンチュリエ」では描かれないということなのかな。それとも後から、「昔こんなことがありました」的に描かれるのかどうなのか。

なんだかいろいろと気になる今後の「アバンチュリエ」ですが、単行本が次に出るのは夏とのこと。
なんだか先の話だなあー。
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by teri-kan | 2014-01-20 10:52 | 漫画 | Comments(0)

「いつまでもショパン」

中山七里著。
「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」に続くシリーズ第3弾。
このたび文庫化されたので購読しました。

物語の舞台はショパン・コンクールのド真ん中。
世界中から出場者が集まり、アフガニスタン情勢まで絡まり、ワールドワイドな世界が繰り広げられます。
主人公もポーランド人の青年で、置かれている状況がこれまでの二作とは全く違う若手ピアニストです。
「ドビュッシー」が心身を傷つけられ音楽をすること自体が危うくなった女の子を語り、「ラフマニノフ」が金銭の問題等で音楽を続けることの困難さを語っている物語なら、今回の「ショパン」はそれらに関しては十分恵まれている環境にあるものの、旧い価値観と自身の音楽との狭間で苦悩するお話と言えます。
ショパンの生国で、代々続く音楽家の家系に生まれた者ならではの苦悩ですね。
読みながら自然と「ヤン頑張れ」と言ってしまいたくなるような、そんな男の子の話です。

前の二作と比較すると更に音楽小説になっています。
ミステリーの冠は外してもいいんじゃないかというくらいに。
しかしそれがいい。
ショパン以外でやられると個人的にはついていけないですが、ショパンならこれくらい深く描写してくれた方が満足度は高いです。

とはいえ私は中途半端なショパン好きなので、曲と作品番号が一致してないものが多く、バラードやスケルツォはなんとかついていけるものの、マズルカやワルツは番号だけ言われてもさっぱりわからん。そもそもマズルカはCDかけてても完璧BGM状態だったし(苦笑)。
バラードもわかると言っても特徴的なところが思い出せるといった程度で、エチュードは、まあ1番目の曲は間違えようがないですが、CDを最初からダーッと通して聴いてるだけじゃ番号なんてあやふやなんですよね。
副題がついていれば覚えられるけど、有名どころ以外は基本的に「CDのあの辺りにかかっていた曲」といった程度の記憶なので、本作できっちり描写されていた作品については、今度しっかり全曲CDで確認したい気持ちです。

「英雄ポロネーズ」のように最初から最後まで覚えていれば、読みながら頭できちんと再生されるんですけどねえ。
そうして再生された音楽は、本の描写とあいまって、ものすごい感動を呼び起こしてくれるんですけどねえ。

ミステリーとしては少し説明不足でした。
犯人が復讐心を抱くのは理解できるとしても、爆弾や薬剤の知識やそれを行使する時に見せる残虐さがどこから来るのか、復讐心を抱く以前は真っ当な人だったと思われるのに、なぜよりによって手段が無差別テロなのか、なぜそれを手段に選んだのか、今のままじゃちょっと理解できないです。

本作は殺人ミステリーなんてかわいらしいもんじゃなく、犯人によって命を落とした人間の数は膨大です。ショパンの音楽は美しいですが、話はとても血なまぐさい。
そりゃショパンの根底には祖国を襲った悲劇、ポーランド人の流された血があるのはわかるんだけど、その悲劇を追体験しなければならないってのは辛かった。
読後に表紙を見たら泣けてしょうがないですよ。

人間社会に暴力はつきもので、ショパンから180年の時を経ても血と肉の臭いがしてる世の中だけど、180年前と比べて一つ良いことがあるとするなら、私達は既にショパンの音楽を持っているということか。
主人公の父親のセリフはクズ中のクズだが、残念ながら一理あるんですよね。
でも岬のピアノのように奇跡が起こることだって時にはある。
それを信じられなければ音楽家は音楽家としていられないんじゃないかな。
作中での主人公の苦しみの根源もそこら辺にあったと思います。
これからいいピアニストになっていってもらいたいですね。
やはり「ヤン頑張れ」です。




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by teri-kan | 2014-01-16 11:13 | | Comments(0)

ピアノソナタ 第30番 ホ長調 作品109 / ベートーヴェン

1820年に作曲されたベートーヴェンのピアノソナタ。
「ベートーヴェンの後期三大ピアノソナタ」と呼ばれている3曲のうちの一つです。

1820年というとベートーヴェンが50歳頃、完全に耳が聞こえなくなってからほぼ10年頃、死が彼を迎えに訪れる6年ほど前ということになります。
ちなみに有名な第九が初演されるのは1824年。
いわゆる晩年と呼ばれる時期に当たります。

とても綺麗な曲です。情感的で優しく、かなり軽やか。
その上時間的に短めで、かなりとっつき易い曲ではないかと思います。

やたら綺麗な第1楽章、激しい第2楽章はあっという間に終わって、このソナタのメインは第3楽章なのですが、この第3楽章が素晴らしい。
穏やか、かつ厳か。なんというか、品が良い。
変奏曲形式で、めくるめく旅につれていかれる感じです。
このつれていかれる感じがいい。
漂うにまかせて無になっていたら、ベートーヴェンが勝手に素晴らしいところに連れて行ってくれるという印象です。

素敵ですよ。
後期三大ソナタを3曲セットとして捉えるならば、その一番初めという点でもとてもふさわしいと思います。

ツィメルマンのリサイタルのおかげでかなり長くベートーヴェン後期ソナタブームが私の中で続いていて、車の中でも聴いてるくらいなんですが、肝心のツィメルマンのCDが出ていないのが残念。
いつか出してくれないものですかねえ。

ちなみに手持ちのCDはポリーニ、シフ、ケンプの3枚。
ポリーニの30番は綺麗ですね。キラキラしてる。
でもシフやケンプと比べたらメカニカルな印象。
シフは優しい。
ケンプは味がある。
ケンプのこの味は結構好きです。
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by teri-kan | 2014-01-14 10:35 | 音楽 | Comments(0)

ツィメルマンのピアノリサイタル

昨年暮れにクリスチャン・ツィメルマンのピアノリサイタルに行ってきました。
曲目はベートーヴェンの後期ピアノソナタ3作品。
30番、31番、そして32番です。

場所は三原市芸術文化センター。
正直なんでこんな田舎にツィメルマンのような大物が?と思いましたが、このレベルの演奏家がこんな近くに来ることは二度とないだろうということで、素直に喜び、はりきって出かけました。

で、感想。
ツィメルマンはやはり素晴らしかった……。

30番は綺麗でしたね。
期待通りというか、期待がそもそも高いので、その通りだったので満足。
で、31番が素晴らしかった。
ツィメルマンの31番の評判の良さは知ってたんですが、3楽章のフーガに入るところは本当に素晴らしくて、まるで教会の中にいるかのようでした。
ステンドグラスにぼうっと光が差してくるような、そこからふわっと空気が生まれてくるような、そんな厳かな音。
もともとベートーヴェンの31番は大好きなのですが、ツィメルマンのは良かったー。

32番も良かったですね。
2楽章のトリルは天の音でした。
途中のジャズっぽいところがかなり速くて驚きました。
音も速かったけど手が、手が……すごかったー。
前の方の席だったので右手がよく見えたんだけど、是非真上からも見てみたいと思いました。

基本的には大満足のリサイタルでしたが、咳をする人が多かったのは残念でした。
当初の予定通り12月初旬に行われていたら風邪っぴきの人は少なかっただろうになあと思いましたが、ツィメルマンの腰の方が大事ですからね、仕方ありません。

無事に行われたことが何よりです。
三原のような田舎に来てくれてありがとうです。
できればいつかまた来てもらいたいけど、そんな幸運そうもないでしょう。
ていうか、やっぱり謎です。
なんでこんな田舎に来てくれたんだろうか。
謎すぎです。
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by teri-kan | 2014-01-10 14:15 | 音楽 | Comments(0)

「フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか」

浦久俊彦著、新潮新書。

前回、音楽(歌謡界)の明るくない行く先について書きましたが、ある意味本書はそれと関連していると言えます。
音楽を聴くということを快楽を得るための手段と考えるなら、その契機となったリストをめぐる19世紀に起こった現象を知ることは結構重要かもしれません。
というか、音楽と人間との関わり方は歴史的にみても流れ流れて変容していくものなんだなあという感じ。

リストはこれまでの認識では元祖アイドル、今風のスーパースターの先駆けといったものでしたが、そうなるに至った経緯、時代背景、文化背景など、19世紀という時代のうねり抜きでは私達の知るリストはありえなかったということを、本書はとてもわかりやすく書いてくれてます。
人間が縦(身分や階層)も横(国や地域)もかき回された時に生み出されるエネルギーが社会を変え、文化を変え、リストのようなピアニストを生み出す。
これはリスト本であり、リストの生きた時代の文化論、社会論でもある本です。

実は今までリスト本人に興味を持ったことってなかったんですよね。
アイドルだったくせに宗教的だったりとか、とらえどころがなくて。
で、本書を読んでわかったのは、とらえどころがないのもこれなら納得というか、とにかく包容力ありすぎで器が大きすぎで、幅も広すぎで、とにかくやたら大きな人なんですよ。常人じゃないデカさというか、ホンマもんの天才なんですよ。
で、天才が天才であり続けるための強靭なバイタリティも持ち合わせてるんですよ。
よく天才は早死にするとか、何か優れたものを天から与えられた人間は成すべきことを成し遂げるとバイタリティのようなものも失われてさっさと天に召されるとか、悲惨な晩年を迎えるとか、そんな印象が勝手にあるけど、この人は天才のまま、音楽家として最前線で、しかも全く独善的でなく長く生きるんですよ。
もうあまりに活動的過ぎて、そして立派ないい人すぎて目がくらむほどなんですが、これでは確かにリストを扱うのは難しいだろうなあと納得できるんですよね。
リスト本人の「天才」に対する認識も興味深いし、日本でリスト本がほとんど出てないというのもわかりますよ。
リストが体現しているものは膨大です。

いろいろと面白いことが書いてありましたが、ドイツ音楽史の流れ「バッハ、ベートーヴェン、ワーグナー」のベートーヴェンとワーグナーをつないだのがリストだというのは勉強になりました。
ベートーヴェンの楽譜を忠実に再現して、初めて現在に生きる人間にベートーヴェンを聴かせたのがリストだということも。
「後期の作品は耳が聴こえない老人のたわごと」と言われていたという晩年のベートーヴェン評がいくつか紹介されているんだけど、天才は天才にしかわからないというか、楽譜のままでいたベートーヴェンの後期のソナタをリストが現実の音にして皆に聴かせたという話には感動するものがあります。

「ハンマークラヴィア」か……。
CDは持ってるけどとっつきにくくてまともに聴いたことがなかったんですよね……。
今度聴いてみようかな。
リストももっとたくさん聴いてみたくなりました。




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by teri-kan | 2014-01-08 10:59 | | Comments(0)