ドロレス・ケッセルバッハ その4
2009年 06月 14日
その2とその3、少しそぎ落としました。
ちょっとは読みやすくなったと思います。
ドロレスの夫殺しは、あのアリバイ工作にふさわしく計画的なものだったのか、それとも成り行きだったのか。
あの場での殺害、ということに限れば、やはりルパンの言う通り成り行きだったと思います。
なぜなら、本来なら彼女はもっと待つべきだったと思うからです。
モロッコ革の袋を手に入れたからといって、この件についてドロレスが知っていることはあまりに少なく、残りの情報はスタインウェッグから聞き出せばいいといっても、ケッセルバッハが殺されたとなると彼の口は当然堅くなるでしょう。
まだ明らかにしなければならない事は山のようにあり、いつか殺すにしても、それはケッセルバッハを働かせるだけ働かせた後からやるべきであって、少なくともあそこで殺すべきじゃない。
そういったこと、ドロレスも考えたと思うんですよね。
でも殺してしまった。
理由はスタインウェッグの最後の手紙にあった通りなのでしょう。
彼女は結婚当時からいつか夫を殺そうと思っていた(これについては「その5」でも考察)。常時チャンスを伺い、夫の周囲を嗅ぎ回り、だから夫とスタインウェッグの極秘の会話も知ることができた。新たに大公妃となる野望も芽生え、いよいよ夫は抹殺しなければならない存在となる。でも一方で彼女は損得勘定のできる頭のいい女で、夫は当分生かしておくべきだという計算もしていたはず。
それらを踏まえてあの夜の彼女を推測するなら、次のような感じでしょうか。
最初は殺すつもりはなかった。でも身動きできない夫を見て、以前からの望みが頭をもたげ、衝動的に殺してしまった。そして名高い犯罪者の名刺を見つけて、特に何の感慨も持たずに「これはちょうどいい」という理由だけでそれを遺体に刺した。
又は、
最初は殺すつもりはなかった。でも身動きできない夫を見て、以前からの望みが頭をもたげてしまった。それでも彼女はまだ計算したかもしれない。でも名高い犯罪者の名刺を見つけてしまっては、最後の理性もふっとんでしまった。他人に罪を被せられる誘惑に殺意を抑えることは出来なかった。
まあどちらでもいいんだけど、最初は前者のパターンだろうと思っていたものが、「続813」を読みこむうちに、今では後者のパターンもありえるかもという気持ちになっています。個人的にその部分ではまだ悩んでいて、どちらにも決めきれません。
どっちにしても確かなことは、結婚してこのかた、殺す機会があれば絶対に逃すまいと思っていた彼女に、そのチャンスが完璧にお膳立てされた状態でもたらされ、彼女はそれを存分に生かしたということ。
でもタイミングは最悪だった。敵に回した人物も最悪だった。結果的にそれが彼女の自滅の始まりとなり、更なる狂気へと走らせてしまう要因となってしまう。
最初の殺人が間違っていたから、その後強迫観念にかられたような、自衛のための殺人に走る羽目になってしまうのですよ。
おぞましいの極みですね。呪われてるなと思います。
その名の通り、苦しむべき運命を与えられた女性なのかもしれません。
(まだまだ続くよドロレスは)