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「SWAN」モスクワ編 その12

「SWAN MAGAZINE 25」を読んだのですが……。
帯にちょっと騙されちゃいました。
もしかしてリリアナ自身にも奇跡が!?なんて、期待してしまったよなあ。
そんなうまい話があるわけないよね……。








今号は、まるで某大河ドラマで主要人物が亡くなる回のようでした。
リリアナは彼女の一生をたどるお話を自分自身で表現し、最後まで見事に踊りきって、そしてバレエダンサーとして逝ってしまいました。

「天使だ、シルフィードだ」と幼い頃からもてはやされてきた彼女の、真実の内面が投影された「アグリーダック」は、やっぱり彼女の美しさは本物だったのでしたと、リリアナ自身が証明したようなものでしたね。
皆はリリアナが危惧していた通り、目に見える部分の綺麗さを褒め称えていただけかもしれないけど、その綺麗さはちゃんとリリアナ自身によって裏打ちされていたもので、皆が彼女から受けていた感動は本物だったというわけです。
それは東京公演で既に証明されていたことだったけど、今回はもっとアヒルの子が深化して、以前のと比べて各段に存在感やリアリティといったものが大きくなっていました。

ちゃんと生きていましたよ。
早世してしまうことを運命づけられて、生きる意味がなんなのかわからず過ごしてきた女の子がここまできたのだから凄いです。
今回ここで無理して踊らなければ、リリアナの命はもう少し長らえることができたはずだけど、彼女にとって生きる意味はそんなことじゃないし、その心を誰よりも理解していたのは、きっとセルゲイエフ先生なんでしょうね。

先生の役回りは、実は非常に辛い。
リリアナに無理させられないことは十分承知していたはずなのに、彼女の気持ちがものすごくわかってしまって、その思いをどこまで汲んであげればいいのか、ものすごく葛藤したと思います。
Vol.24では落ち着いた様子で「受け入れれば楽になる」とか言ってるけど、楽になるまでの苦しみはハンパなかっただろうなあ。「アグリーダック」を共に踊る者として中途半端はできないし、自分が揺らいでいたらリリアナの努力が無駄になりかねないもん。
そうやって苦しんだ末の答えが多分「婚約」で、先生はそれでリリアナの覚悟を分かちあい、何か起こった時には全て自分が責任をとる気でいたのだと推測します。
そうやってリリアナの命も人生も抱えてあげて、余計な不安はなるべく感じないようにしてあげて、でもその結末はやっぱりああで……。
覚悟はしてたし、何より最高の踊りが出来たのだから悔いはないとしても、それでも「ずっと私と一緒に踊るんだよ」と言い聞かせるように言い続けていた先生の心を思うと、失ったものはとてつもなく大きいですね。

今号の最初の方で言っていた「同じ魂を持って生まれた」というのは、今となってはものすごくよくわかります。
虚弱な特異体質な子として、周囲から壊れ物を扱うかの如くに扱われたリリアナと、母を捨てて亡命したダンサーの子として、事情を知っている人間からは腫れ物に触るかのように扱われていたであろう先生。
多分二人とも精神的にはものすごく孤独の中に生きてきた子供だったのだと思います。
バレエの才能に恵まれて、踊ることは生きることそのものだったけど、リリアナは思う存分踊りたくても常に体の限界との戦いだし、先生は先生で、踊れば踊るほど自分に流れる父親の血を意識せずにはいられなかったでしょう。「彼(ラブロフスキー)のようには踊りたくない」と叫んでいた子供時代の夢が本編に出てたけど、本当にね、先生もリリアナも、何も苦労してない天才っぽく見えるけど、ただ単に踊って幸せっていうのとちょっと違うところにいたよね。しかも踊ってしまえば天才なもんだから、そんな孤独は誰にも理解されなくてさ。

……うーん。前にも書いたけど、先生これからも踊り続けることできるのかな。
強い人だし、覚悟してたから取り乱すことはないだろうけど、踊れるかどうかは今のところ微妙だな。
だってもうこれはラブロフスキー言うところの「同じ呼吸をするパートナー」だもの。先生のパートナーは父親のような大恋愛の相手とは違うけど、語らなくてもお互いをわかりあえる同士だったのに。

リリアナを失った先生がどうなるのか……ちょっと想像がつきませんね。
表には出さないだろうけど内面を考えると恐ろしいです。



続く
Commented by swan大好き at 2011-10-23 08:21 x
こんにちは、更新楽しみにしていました。

とうとう・・・リリアナが逝ってしまいました・・・
今号は何度も何度も読み返してしまいました。
幸せなままで死んでしまう、ある意味幸福だったのかもしれませんが
アグリーダックで彼女の人生の振り返りをみて
切なくて切なくて。
愛はいろんな形があって、先生とリリアナはほとばしる愛情、激情、ではないけれど
支えあい、理解し合って慈しみあっていたんだなあと。
先生の愛も本物だったのだと、理解できてよかったです。
「真澄のことが本当は一番に好きだけどリリアナの面倒を見なくてはいけない」ような関係では嫌だなあと思っていたので。
リリアナも先生の愛を確信できて逝ったのでしょうか?

真澄はやっとルシィのことが表にでましたね。
どう、ケリをつけるのか続きが待ちきれません。

Commented by teri-kan at 2011-10-24 01:18
swan大好き様
こんばんは、コメントありがとうございます。

やっぱり逝ってしまいましたね……。
連載終了時から30年間、漠然と「レオンと真澄は立派なパートナーになってて、リリアナはとりあえず元気に生きてたらいいな」と思っていたものだから、覚悟していたとはいえ私も悲しいばかりです。

>「真澄のことが本当は一番に好きだけどリリアナの面倒を見なくてはいけない」ような関係では嫌だなあと思っていたので

私もそれは嫌だと思ってました。
そうではない繊細な関係を、とても説得力ある描き方をしてくれた作者の力量には脱帽ですね。理解するために何度も読んだし、読み直しに耐える内容なんですよ、これがまた。
今号は悲しかったけれど、ものすごく充実してましたね。

>リリアナも先生の愛を確信できて逝ったのでしょうか?

先生の最後の言葉が耳に届いてたらいいなあと思いますね。
タイミング的にはなんか微妙そうだけど(涙)。
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by teri-kan | 2011-10-20 10:55 | 漫画(SWAN) | Comments(2)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


by teri-kan
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