「虚空の旅人」

上橋菜穂子著、新潮文庫。

守り人シリーズの第四弾。
王家の在り方と自身の在り方に悩むチャグムのお話。
舞台は数多くの島々を領有する海洋国家サンガルです。

以下はそれなりのネタバレありの感想です。









何が良かったって、ラッシャローですね。
船上で生活する、国を持たない漁民たち。
彼らの生活ぶりや海上で生きる姿が素晴らしくイキイキしていて、なんて素敵なんだろうと思いました。
ああいう文化はホント大事にすべきだと、本の中の人達のことだけど感じましたね。

この作品の中で描かれているのは、国家の思惑で簡単に残酷な運命を与えられてしまう、そういった一人一人の庶民。
そしてそのことを目の当たりにして苦しむチャグム。
かつて何の組織にも何のコミュニティにも守られず、王に殺されかかった立場を経験した皇子だからこそ抱く苦悩に、チャグムは真正面からぶつかってしまいます。
苦しかったろうと思いますね。
実際苦しくて、ああいう立場なのにとんでもないことをやってしまうわけだけど。
シュガが彼の良い理解者になってくれてて本当に良かったです。

サンガル王国の王女様がですねえ、あれくらいでないと国を安定的に維持できないのは理解できるんですけど、剛毅で賢明で非情で、なんだか凄かったですね。
元は漁民で商売人な海賊の末裔なんで、男と女がほぼ対等のような社会システムなんだろうし、諜報・工作活動にむしろ女の方が向いてたりするというのもあって、積極的にああいう役を担ってるのはわかるんだけど、人の命が軽すぎてちょっと引きますね。女の人がそれをやってるってことに辛さを感じる。
じゃあ男だったら冷酷でも許せるのかと言われると、それはまた違うんだけどさ。

サンガルは海に囲まれてる地域だからか、随分あちらの世界との接点が多いらしく、普通にあちらの海の中に入ってしまうことが度々で、その近さに驚きました。
魂奪われちゃう子、結構それなりに出てるようだし。
の割にはサンガル王家は呪術に縁がなく、呪いやそういった類のものには全くの素人。
あちらの世界と近いせいもあって、迷信深そうな感じではあるけど、近さゆえの割り切り感もありますね。
海が相手の生活をしているからか、死がとても身近で、だからこその合理的な社会って感じ。
王女様の効率や合理性をベースにした非情さもそういう意味では結構納得かな。

ヨゴ皇家はもともと呪術嫌いだったというのは面白い情報で、でもヨゴ人は呪術を持ってた、ヤクーも持ってた、でもサンガル人は持たない、そういう各国事情は面白かったですね。
今後も絡んできそうなモロ悪人も出てきたし、世界観がパーッと広がった印象です。

本作はシリーズ化に舵を切ったターニングポイントとなる作品だそうですが、それにはチャグムの存在が大きかったですね。
タイトル通り、旅人になっちゃったんですよねえ。
精神的な旅人ってことだけど。
もう想像するだけで困難が待ち構えている旅なんだけど、チャグムがこれからどう頑張るか、応援する気マンマンで読んでいきたいと思います。
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by teri-kan | 2015-02-06 16:14 | 本(上橋菜穂子) | Comments(0)
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