「神の守り人」

上橋菜穂子著、新潮文庫。

守り人シリーズの第五弾。
恐るべき神の力に支配された過去を持つロタ王国が舞台のお話です。

以下は暗くて重い感想になります。








本作品は来訪編と帰還編の2巻に分かれていて、読む前は「何が訪れて何が帰るんだろう?」と楽しみにしていたのですが、実は世にもとんでもないモノだったということで、なんかもうねえ、つくづく辛いお話でしたねえ。

ロタの国情は非常に身につまされるというか、いかにも有り得る状況で、社会システムが綻ぶ時ってこんなもんなんだなあと、そのどうにもならなさが辛かったです。
民族の断絶(ロタとタル)、地域の断絶(北部と南部)、世代の断絶(スファルとシハナ他)、ありとあらゆる断絶が重なり合って、で、そういう時に限ってああいう神が現れる。
というか、そういう時だからこそ現れるんだろうなあ。

「守り人」シリーズは、チャグムにしろバルサにしろサンガルの女の子二人にしろ、理不尽な運命を背負わされてしまう子供がたくさん出てくる物語なんですが、本作品に出てくる少女アスラの運命は、これまでの登場人物以上に酷くて、胸が塞がれてしまいそうでした。
ここまで道具としてしか扱われない子っていないというか、彼女を道具にした張本人が母親だったというのが、もう救われなさすぎるんですが、アスラ本人の心を思いやってやれたのがまだまだ子供な兄とバルサだけだったというのが、読んでて気分が悪かったですね。
タンダでさえ最初は諦めてたくらいだから、深刻すぎる状況だったのは確かなんだけど、でも救おうとする人間が一人でもいなければ救われる者も救われないわけで、その辺のギリギリの攻防が、なんかもう最初から最後までずっと辛かったですねえ。

ただまあ、ロタの民の置かれた状況が過酷だというのは理解できる。
あの神の力を得たいと思うほど追いつめられていたというのはあるんだろう。
大量殺人は絶対反対だけど、切羽詰まった時にあの力があれば救われる場面は確かにある。
現在なら、例えば自分がヤジディー教徒の女性でイスラム国に囚われたとするなら、十中八九あの神を呼ぶでしょう、呼ぶ力があるならば。
聖人ぶるつもりはありません。あれはある状況に置かれた人々にとっては、喉から手が出るほど欲しい力です。
でもそれを子供に強いるのは、やっぱり道に反してるよね。
シハナやその協力者たちの振る舞いは、原理主義者が過激派になる過程を見ているかのようで辛かった。
なんか辛い辛いばっかり書いてるけど、ホント辛かったなあ。

でも、あんな怖い神が存在していてさえ、あちらの異世界は魅力的です。
スケールが想像以上に大きいようですね。
雪解け水が100年持つというのだから、その雪山の大きさたるや、こちらのスケールでは計りしれないほどなんだと思います。
時間の感覚ももしかしたら違うのかな?
こちらの100年はあちらの1年とか10年とか、そのくらいの違いがあるのかもしれない。

どちらにしろ水が豊かな世界なのは確実で、チャグムの卵の雲にしろ山国カンバルの地下水脈にしろ、こちらの世界が水量豊かに繁栄していられるのって、あちらの世界があってこそなんですよね。
どうやら思っているよりはるかに二つの世界(二つですむのがどうかわからないけど)は密接に関わっていて、お互いをそれぞれ成り立たせ合っているものなんだと思います。
で、そういう自然のコントロール下にある国の方が、多分美しく見えるんだな。
カンバルの美しさはまさしくそれ。
一方、だからロタはキツイ。
ロタの国情は、人間の欲と頑迷さが自然より上位にきてしまって、だからこその荒れる一歩手前状態なのが読んでて非常に辛い。
思えばサンガルも人間の都合が先にきてたけど、あそこは周りが海ですからね。
「板子一枚下は地獄」の世界で生きてる人達だから、ありのままの自然との付き合いから逃れられない分、なんていうんだろう、欲な人達だけど、健全さが感じられた。
でもロタはねえ、穀倉地域が牧畜地域を馬鹿にしたり、茶色い羊の方が牧畜に理に適ってるのに迷信の方が大事だったり、人間のどうしようもなさが前面に出てましたからねえ。
人間は自然より上位にいるって感じの傲慢さがうっすら見えて、だからこその人間同士の争いがエスカレートしていって、なんだかもうって感じでしたね。
あれでは王は大変でしょう。

ロタの国王は前王も熱がたびたび出ていたとのことだけど、絶対心労ですよね。
2代続けてストレス死の可能性、案外高いのではないかと勝手に予想。
それくらいロタの状況は、誰にとっても危ういものです。
この先も心配だ……。



とにかく辛い、辛い、辛いお話でした。
バルサはいつも怪我だらけだけど、特に今回は「よく五体満足で生き残ってるなあ」っていうくらいの満身創痍ぶり。
そしてアスラ。
頑張って起きておくれ。
このままでは可哀想すぎてどうにもならん。
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by teri-kan | 2015-02-09 11:48 | 本(上橋菜穂子) | Comments(2)
Commented by シルヴィ@作家志望 at 2017-01-24 11:19 x
はじめまして。上橋菜穂子ファンのシルヴィです。
もともと小説アレルギーだったのですが、なんの期待もなくほんの出来心で借りた『獣の奏者』を読み、シリーズのファンになりました。シリーズを読み終えたあと、ドラマ化の噂を聞いて『精霊の守り人』を読んでみると、あとはもう、シリーズ一気読みでした。
『精霊』と『神』はシリーズのなかで特に好きな作品で、圧倒的な力と無垢で素直な心を併せ持つアスラに感情移入し、バルサの名言に唸らされ、ラストシーンで感動し……。もう本当に最高でした。
一週間前から『闇』が青春アドベンチャー枠のラジオドラマで再放送されてるんですけども、無駄のなさといい、ちょうどいい間といい、癖になるナレーションといい、原作に誠実なところといい、おすすめです。見逃したら損です。ちなみに私はradikool(シャットダウンすると録音できないので、公式サイトをよく読むこと!)というアプリで連ドラ録音してます。
しかし、ドラマは私にとってダメでした。バルサのキャラが変わってるし、ログサムが生存していて暗殺を試みたバルサがお尋ね者になったという背景には本当にがっかり。些細なようで重要な物語のニュアンスを汲み取れていないのか、ただの安っぽい復讐劇に成り下がってしまったのではないかと……。帝だって水晶玉持って変な呪文を唱えてる変なやつになってるし、スファルも力を発揮して気絶したアスラについて「ひとまず診よう」と言ってて……。
愚痴はここまでにしておいて、これからラジオドラマを聴こうと思います。
Commented by teri-kan at 2017-01-25 10:44
シルヴィ様。
こんにちは、はじめまして。
コメントどうもありがとうございます。

上橋菜穂子作品、いいですよね。
読みだすと止まらない面白さです。
ラジオドラマもあったのですか。
確かにラジオの方が原作に忠実に作れそうです。

テレビドラマはテレビドラマとして楽しもうと、私は結構割り切ってます。
水晶玉はわけがわからないですが、ログサムが存命していることや暗殺未遂でバルサがお尋ね者になったことは、ドラマ化にあたって必要だったと考えてるので、私は拒否反応は今のところ出ていません。
過去の出来事だったログサム王との確執が現在進行形に変更されたことで、新たな見どころができるのではないかと、割と期待しています。

でも確かに原作とは違うので、受け入れられない方もいらっしゃるでしょうね。
ドラマ化の悲しいところです。
原作未読の方には楽しんでもらいたいですね。
既読組は突っ込みながら鑑賞するしかないです(苦笑)。
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