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「138億年の音楽史」

浦久俊彦著、講談社現代新書。

新書としてはかなりブ厚いのですが、文章は読みやすく、ページはサクサク進みます。
音楽の本ですが、内容は楽曲紹介や作曲家紹介といったものではなく、哲学から見た音楽、神学から見た音楽、感情から、あるいは権力から、そして当然物理学から見た音楽、等々、この世にとって音楽とは何かといったことを様々な分野から解説してる本です。

こういうのを読むたび、数に強い人を羨ましく思うのですが、音そのものは物理の世界に属しているものなので、比率の美しさ等がわかれば音楽の見方どころか世界の見方も違うんだろうなあと、理数系がボロボロな自分が悔しくなります。

そういった数字音痴の人間の感想が以下に。
数には弱いが音楽は好きなのです。







本書は冒頭から「音楽とは何か」を読者に問うていて、実はそれは私も先日来考えていたことでした。
私の場合はもっと個人に寄って、「人はなぜ音楽を聞くのか」といったニュアンスですが、「西洋音楽史」を読んだ頃よりずっと頭の中にあったのです。

人は感動を求めて音楽を聞く、感動とは神と出会うことだと、「西洋音楽史」の感想で書きましたが、ではその神とは何かというところで、ちょっと止まっていたんですね。
便宜上「神」と書きましたが、私はキリスト教などの一神教の信者ではないから彼らの思う神のことを言ってるつもりはないし、かといってこの「神」は日本の八百万の神々のことでもない。
「神」に当たるものが何だかはっきりさせたくて、そういうのもあってこの「138億年の音楽史」を読んでみたわけですが、うん、なるほどという感じでした。
書いてしまえば簡単ですが、音楽を聞いて感動した時に出会う神は、この世界そのもののことなんですね。

この本は、音あるいは音楽がこの世界を構成していることを、ずーっと分野ごとに説明してくれるのです。
その説明は膨大で、ここに簡潔にまとめて書くなんて到底出来ないのですが、ともかく世界が、あるいは宇宙が音楽で構成されていることが読むうちに納得できる。
音楽はこの世界そのもの、宇宙そのもの、ビッグバンの際には無音と思われてる宇宙空間だけど音が発生していたそうで、この世界は最初から音ありきの世界なのだそう。
そんな世界で人間が音楽を聞くというのは、聞いて感動するというのは、ようするに音を通して世界とつながる感覚が得られるからなんだろうなと、読んでてそう受け取りました。

世界とつながれるし、当然宇宙ともつながれる。この世を構成する万物全てにつながれる。
この世界で自分は孤独ではないことが実感できるんですね。
大げさな言い方をすれば、宇宙で人類は孤独ではないということが絶対的な感覚で得られる。
存在の全肯定って感じ?
これは多分とんでもない快感なんじゃないでしょうか。
古来より人が音楽を求めた理由、それこそ文明が発達する前からの、石や太鼓レベルのものを叩いて喜んでいた頃からの理由は、そういったところにあったのかなと。
孤独ではないことを感じられるということは、自分以外の存在を感じられるということ、その存在を仮に神と名付ければ、神が万物を創生したという考え方も起こってくるものかなあと。

とまあ、私は勝手に音楽をそういうものだと本作を読んで捉えたわけですが、となると気になるのが聴覚に支障がある方々。
音は万物を構成するもの、人間はその世界に属しているもので、そんな世界にあって音のない生活をするというのはどういうことになるのかなと、ちょっと考えてしまったのですね。
でもこの本によると人間の体自体が音楽だと。

うん、まあ確かに人間は鼓動を持ってる。
音は振動のことだから、振動を感じることは音を感じることである。
体に音を持っているのならば、既にそれで万物とつながってるわけで、ようするに人間である限り無音の世界はないってことになるし、全てから隔絶された孤独もないってことになる。
本書によるとDNAにも音楽があるそうで、そんなレベルの話になるとそれこそこちらはお手上げなのですが、まあとにかく音の世界は壮大だと、音の世界は世界そのもののことだと。
人間の体は宇宙そのものだと言われますが、概念の話だけではなく、物理的に全く以てその通りということで。

いろいろと刺激されることの多い本でした……。



本書が扱ってるものは膨大だけど、おそらくこれでもまだ音の世界のほんの入り口。
でも私のような理数系全滅の凡人にはここが限界かもしれない。

気をつけなければいけないのは、音楽が人間にとってそういうものである限り、それを悪用する人間はいつの時代にもいるということかな。
音楽家や音を巧みに操る人間を教祖化する傾向、ありますもんね。
かつては神のための音楽だったものが、音楽が芸術と呼ばれるものになり、作品そのものが神になった。
そうなるとやはり作品の扱い方には気を使わなければなりません。

とはいえ、現在の音楽の力は100年前よりパワーは落ちてますよね。
200年ほど前に芸術になった音楽は、今は消耗品になりつつある。
音楽を聞いて感動することに変わりはないけど、音楽との付き合い方は変わりました。

これからどういう風になっていくんでしょうねえ。
どうやらこの世が存在する限り音楽はあり続けるみたいだから、ぜひとも上手い付き合い方をしてもらいたいものです。
人類の幸福の助けになる音楽でいてもらいたいな。



ちなみに著者は「フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか」 を書いた方。
こちらの本も面白かったです。
音楽へのアプローチの仕方が、言い方変だけど現実的なんですね。
どちらの本も音楽を社会で孤立させないって感じが好印象です。
音楽って音楽を好きな人だけのものではなく、ましてや専門家だけのものではない。
そういうことを感じさせられます。




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by teri-kan | 2016-08-31 11:57 | 本(歴史書・新書 海外) | Comments(0)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


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