グルメじゃないアルセーヌ・ルパン
2018年 06月 06日
ジャック・ドゥルワール著、大友徳明訳、水声社。
先日の「普遍性」に続く感想第二弾です。
そう言われればそうだったなあって感じなんですが、実はルパンはフランス人のくせに美食家ではありません。
なんとワインも飲まない人であります。
フランス人なのに。
飲むのはお水。酒はなし。
食事も基本質素。
というか、本文中に食事場面自体が少ない。
フランスの小説なのに。
作者がそういう人だったので、ルパンの食生活が味気ないものになってしまうのは仕方ないのでしょう。
ルブランは美食家のデュマとは違ってたのだそうです。
ルブランの時代はアナーキズムにかぶれた人や「個人の復権」を目指してる人が結構いて、そんな人達には菜食主義者が多かったのだとか。
時代性のせいで、ルパンもグルメではない人になってしまった、ってことのようです。
美食を楽しむ様子が描かれてないせいか、リアルな肉体性が薄味で、ルパンはとてもきれいな印象を受けます。
ワインをあおり、肉汁したたる肉にかぶりつくギラギラした男、ではない。
肉体的な欲から解放されてる感がかなり強いです。
仕事に精力的だし筋肉モリモリな人だから、モリモリ食べる肉食の人かと想像されがちですが、実体は全く違います。
性欲も食欲も極力排除されてるヒーローですね。
性欲は「普遍性」の感想で書いたように出版社の意向で書かれてないだけで、ルパン本人には絶賛備わっていた欲だと思いますが、食欲は本当にあっさり。
どちらにしろ、どちらも小説内でうっすらとしか描かれてないから、ホントにルパンは欲から体が自由になってる印象です。
恋愛は常にしてて、上手くいかなくてイライライライラってことは多いんだけど(笑)。
でもまあ、やっぱり身体的にきれいな印象は受けるかなあ。
アルコールはやらない、食事も質素ということで、とても健康的な感じがするルパンですが、煙草は吸いまくってるので、実は健康では全くない。
脳は冴えてただろうと思いますけどね。
腹いっぱい食べて胃に血が集まる、なんてことはなく、ワインで酔うということもなく、煙草ふかして脳の回転をとにかくグルグルグルグル。
指先の感覚鋭い泥棒さんですから、体が自分のコントロールから外れるなんてことは、本人許せないってところはあったかなあと思います。
ただ、フランスを代表するヒーローのアルセーヌ・ルパンが、まさかこういうタイプのフランス男だったというのは、面白いというか、意外だったかもしれません。
著者によると、実はフランス人の間でもルパンはシャンパン好きの人物のように勘違いされてるらしくて、なんとその原因はテレビドラマのせいなのだとか。
そんな描写は本文中にないのに、なぜだかドラマではそんなルパンになってるのだそうです。
怪盗紳士はシャンパングラスを傾けてた方が絵になる、という考えが、ドラマを作る側にあったってことなんでしょうかねえ。
ボンドがマティーニならルパンはシャンパンでいいではないか、みたいな気持ちは、ちょっとあるかもしれません。
お水飲んでるルパンも悪くはないんだけどさ。
とにかく、酒池肉林をしたくて泥棒をしてるのではない、ということは確かな男、ルパンです。
むしろ泥棒するためにストイックな生活を送ってると言っていい。
真面目ですよね。
とても真面目に泥棒をしてる。
この辺も彼の人気の理由かなと思います。
あ、お酒は飲まないけど甘いお菓子は好きです、ルパン。
そういうところは可愛いですよね。
フランスですから美味しいお菓子はたくさんあるし、その点は良かったですね。
そこのところはおフランス、と言っておこう。