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ワールドカップと旧ユーゴの国々

ロシア大会で大会MVPとなったモドリッチはクロアチア代表選手ですが、少年時代にクロアチア紛争に家族もろとも巻き込まれ、セルビア人におじいさんを殺されるという体験をしています。

海外の選手の幼少期も含めた経歴は、母国をしょって立つワールドカップの際に知るといったことが多いのですが、旧ユーゴ関係については紛争の記憶が新しいこともあり、選手の過去がクローズアップされるたび、辛い気持ちにさせられます。
ワールドカップのたびごとに旧ユーゴの苦難に思いを馳せる、みたいな感じになってますね。







旧ユーゴスラビアではセルビアとクロアチアが大会の常連ですが、2002年の日韓大会にはスロベニアが、2014年にはオシムの母国ボスニア・ヘルツェゴビナが出場を果たしています。

彼らは本当にサッカーが上手い。
そして旧ユーゴ諸国は普通の日本人には馴染みが薄い。
私もサッカーファンでなければユーゴスラビア紛争についてはあまりよく知らないままだったかもしれません。

最初に詳しく教えてもらったのは日本が初出場した98年のフランス大会、日本対クロアチアの対戦が決まった時でした。
クロアチアも独立後初の出場ということで、日本のテレビ番組もクロアチア紛争を取り上げてたんですよね。
特に中心選手だったボバンが愛国者としての武勇伝を持っていたため、私もボバンから当時のクロアチアについて習ったといった感じ。
で、その頃はセルビアについては全くいいイメージを持っていませんでした。

何もかもセルビアが悪いわけじゃないということを知ったのは、日本で活躍したピクシーのおかげです。
紛争時の国際ニュース映像でセルビア人の発言を全く違う英語に翻訳して世界に流していた、とピクシーが暴露した時には、「えええ~!」でしたよ。
当時セルビアについてのイメージは悪かったですが、欧米を中心とする国際社会がセルビアを悪者にしようとしていたのは確かにあったようですね。

セルビアが欧州で嫌われてる実態は、セリエAで活躍していたミハイロビッチのおかげで具体的に知ることができました。
子供についてはボスニアもセルビアも関係ないのに、セルビアの子供達のためのチャリティには他と違って全くお金が集まらないと、ミハイロビッチが怒っていた話には複雑な気持ちになったものでした。
セルビアだけが一方的な加害者ではないと知った時は、ミハイロビッチの悔しさに思いが及んで、ただただ悲しかったですね。

かと思えば、モドリッチはおじいさんをセルビア人に殺されてるわけで、いやもうね、サッカーに政治的なものを持ち込むなとはよく言われるし、当事者となった彼らがピッチにそういったものを持ち込まずにプレーしてきてたのを以前から見てるけど、本当に持ち込んだらキリがないというか、あの紛争では誰もが被害者なのです。
そう思わなければやっていられないほど、旧ユーゴの紛争は一方的にどちらが悪、どちらが被害者とは言えない複雑さなのです。
旧ユーゴの中心がセルビアだったので、どうしてもセルビアの悪い面が表に出てきてしまうのですが、この紛争は歴史的なものの上に成り立っていて、虐殺で言うならセルビア人はかつてクロアチアからドン引き必定の大虐殺をくらってる。
本当に、おいそれと簡単にどちらかに肩入れできるものではないのです。

なのに、それ絡みで一般のファンが事件を起こすのならともかく、選手がピッチで煽るようなことをするというのは、やはり軽率だと言わざるをえない気がします。
そんなことが起こるとはこれまで想像していなかったけど、でもロシア大会では起こっちゃったんですよね……。
例のスイス代表選手なんですけどね。

W杯揺さぶる民族主義 スイス代表選手が行った鷲ポーズの意味とは

残念な一件でしたが、やはりワールドカップは旧ユーゴ諸国を知るのに最適だと思わされました。
普段気にしてなくても、どんなことが起こったか、起こっているか、選手を通してわかりやすく知ることができる。
スイス代表の一件のように、現在も進行形の問題なんですよね。
とんでもなく難しい地域です。

テニスのジョコビッチはセルビア人だけど、大躍進のクロアチアを応援してたり、個人のわだかまりという意味では、実はそうでもないんだなというのは時々感じます。
バルカン半島の歴史は本当にややこしくて、概略を読むだけでも「うへえ」な気分になるのですが、彼ら、別に民族的にはもともと分かれてなくて、シンプルに「南スラブ人」なんですよね。
ただ住んでた場所によって歴史の積み重ねが違ってしまっただけで、しかもその積み重ねの違いが周辺大国の介入によるものだとくれば、彼らの罪を彼らの責任だけに帰すことはできないと思わざるをえなくなります。
上記の記事を読む限りコソボやアルバニアは不穏な雰囲気のようですが、なんとか穏やかに落ち着いてくれればと思います。

今回のスイス代表の件で、アルバニア人は国外に移民してても民族主義的な色が濃いというイメージを持ってしまったけど、そういえばアルバニアってもともとイメージがあんまりよくなくて、ていうかあまりに実情が知られてなくて、「ハリー・ポッター」でもヴォルデモートが隠れてた怪しい国、ってことになってました。
アルバニア人って実際どんな感じなんですかねえ。

実は、先日サンフレッチェ広島に加入したベリーシャ選手は現役のコソボ代表FWなんですよね。
コソボがUEFAとFIFAに加入するまではアルバニア代表でもありました。
せっかくなので、これを機会にコソボのことを知れたらいいなと思います。
活躍してくれたらうれしいなあ。



たどってきた歴史が日本とは全く違う国々なので、想像力を働かせるのにも限界があるのですが、ワールドカップで世界中をワクワクさせた選手の中には、戦争被害者がいるということは心に留めておきたいものです。
よく日本国内では「73年間平和だった、戦争はなかった」と言われるけど、世界は全くそうではない。

四年後も平和にワールドカップが開かれればいいですね。
その時カタールが平和で、かつてのユーゴのようにFIFAから参加不可にさせられるなんてことがどの国もなく、平穏無事に開かれればいいなと思います。
日本も災害がなく、楽しみにしていた中継を見られないなんてことがないよう、地震や火山の神様にお祈りお祈り。

無事に四年を乗り越え、また大会を楽しみたいものです。
今大会も変なことはいろいろあったけど、サッカー自体は楽しめたから。

うん、ワールドカップってやっぱりいいですね。
次のカタール、頑張ってもらいたいです。




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by teri-kan | 2018-07-20 10:05 | 2018ワールドカップ | Comments(0)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


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