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「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」

片山杜秀著、文春新書。

タイトルのベートーヴェンはもちろん、バッハとワーグナーの音楽史上の価値を詳しく知りたい方には特にオススメのクラシック音楽の音楽史本。

カトリックのグレゴリオ聖歌という、修道士が歌う神のための音楽から、プロテスタントの讃美歌という信者が神のために歌う音楽が出来上がっていく歴史の流れ、神のための音楽が人間(王侯貴族)の音楽になり、王侯貴族のための音楽が金満市民の音楽に、更には中階層の市民も聴く音楽になっていく過程、その歴史の流れがとてもわかりやすく書かれている良作です。







内容としては、タイトル通り世界史がわかるのもあるけど、人間の精神史が何よりわかるといった感じです。
「ベートーヴェンの作曲の背景には市民階級の台頭があった」とはよく言われることだけど、市民が台頭するとはどういうことか、市民が音楽を聴くとは具体的にどういうことなのか、といったことが書かれています。

クラシック音楽がエラソーになった理由も解説されてる。
ここは「なるほど~」でした。
もともとは神のための音楽だったから権威があるのだ、という単純なものではありません。
アカデミズムが持つ問題のせいなのですね。
クラシックそのものよりもクラシック専門家がエラソー、というか、むしろマニア的な愛好家の方が素人からしたらエラソーに見えたりすることがありますが、その辺のエラソー(権威)の構造の解説は面白かったです。

全体的に斜めから見て書かれてるというか、事実を身も蓋もなく書いているというか、ヴァイオリンという楽器の異常性についての記述なんて目からウロコでした。
モーツァルトの可哀想さは何が可哀想だったのか超わかりやすかったし、ポイントの捉えどころが的確。
おかげでいちいち腑に落ちる。

分かりやすかったり腑に落ちることが多かったりした要因は、序章にあるように音楽の受け取り手側から音楽史を書いてくれているからですね。
聴く側がその時代においてどういう人達だったかというのが本書では最も重要なのです。

そういう意味で、数年前に読んだ「西洋音楽史」とは同じ音楽を扱っていても、あちらは「社会や文化と関わる音楽史」で、こちらは「音楽を聴く人間史」って感じ。
どちらもとても面白いし、どちらも読んだらよりクラシック音楽の歴史について詳しくなれるけど、これから先のクラシックの行く末を心配してるのも同じで、そこがクラシックファンとしては悩めるところです。
現代音楽は全然興味ないもんなあ。
本作の著者はむしろそこが専門なんですけどね。

どちらの本もわかりやすいのが良いけど、特にこちらは文章自体が平易なのでとっつきやすいかと思います。
個人的にはバッハの解説が面白かったな。
オススメ。




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by teri-kan | 2018-12-05 14:56 | 本(歴史書・新書 海外) | Comments(0)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


by teri-kan
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