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「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002)

暴力のイメージが強いスコセッシの映画なのでずっと避けてたんだけど、機会があって鑑賞。
やっぱり痛かったー。
暴力絶対反対!

というわけで、映画の感想です。







ギャングではなくアイルランド移民の話と言い切ってしまった方がよいのではないかと思わされる映画でした。
飢饉にあえぐ国を出て南北戦争さなかのニューヨークにやってきたアイルランド移民の苦境を描く映画。

その苦境を映す鏡がガチガチの移民排除思考のギャングのボス、ダニエル・デイ・ルイス。
「ダニエル・デイ・ルイスがアイルランド人嫌いを演じてるんだあ」と、彼の差別的発言やあまりの残虐さに、妙な感慨を抱いてしまいましたよ。
「エンディング・テーマがU2だったら完璧じゃないか」と思ってたらホントにU2が流れてくるとか、いろいろときちんと揃えてた作品でしたね。

当時のニューヨークの社会情勢がよくわかって、そういう意味ではよく出来た映画だったと思います。
リンカーンの奴隷解放政策に反対だった人間は南部だけでなく北部にもいた、治安の悪い地区の白人にその傾向が強かった、自分の居場所を侵食する大勢のアイルランド移民をとにかく嫌った、というの、まるで今のトランプ支持者、見捨てられた白人層と一緒じゃないかって感じで、これは2002年の作品だけど今こそアメリカ人は見たらいいんじゃないの?って感じ。

冒頭のアイルランド移民と自称ネイティブの住民達の戦闘はものすごいですよー。
対立が行き着くところはあれかーという、なんとも言えない生きるか死ぬかの戦い。
19世紀半ばにあんな古代人のような戦闘をしてるところがさすがアメリカ。
歴史が浅い分、町の支配権の争いさえ原始的。
時代をかけて築き上げた洗練さというものがまるでない。

正直「これは勝てないわ」って感じでした。
こんな諍いを町に抱えつつ、それでも続々来る移民を受け入れ同じ地に違う民族同士が暮らすという、そんなダイナミズムを持つ国には普通の国は太刀打ちできない。
中国は早いとこ諦めた方がいいんじゃないかとさえ思いました。
アメリカにはかなわないわ。
こりゃすごいわ。



南北戦争時代のニューヨークの事情はホントに興味深くて、続々やってくる貧しいアイルランド移民を積極的に徴兵してたり、かと思えば続々増えるアイルランド移民は政治家にとって大事な票の頭数だったり、身も蓋もない戦争やカネや政治の事情がこれでもかと描かれる。
映画の時期って南北戦争のいつくらいなんだろ?と思って調べてみたら、クライマックスの「ニューヨーク徴兵暴動」が1863年7月で、ゲティスバーグの戦いのちょうど十日後なんですね。
ディカプリオ君がダニエル・デイ・ルイスに対してああだこうだやっていた頃、「風と共に去りぬ」のスカーレットはアトランタで募金集めのバザーをやってたんだなあと、こりゃまだまだ北部も徴兵しなけりゃいけなかった頃なんだなあということで、ホントにアイルランド移民は苦しかっただろうと思わされました。

アメリカでアイルランド移民が差別されたのは後のイタリア系もだけど、カトリックだったのが大きかったのかと思ってたんですが、一応それもあるけどアイルランド系の場合は本国のイギリスVSアイルランドの確執が大きかったようで、旧世界のイギリスによるアイルランド差別がそのままアメリカに持ち込まれてるとのことでした。
後からアメリカに来た移民だからというだけじゃなくて、支配階層もギャングもナチュラルにアイルランド人を差別してる、利用するだけの対象、そんな感じ。

まあ、そんなアイルランド系も時代が進めば「プロテスタントVSカトリック」から「白人VS黒人」になって、虐げられる者から虐げる者へと変わっていっちゃうんですけどね。
以前アメリカの黒人差別について書いたことがあるけど、この映画の中では黒人もアイルランド移民も仲良くやってるんです。
それがそうでなくなっていく未来というのは残念ですね。
ダニエル・デイ・ルイス演じるギャングは極端に残虐なのがアレだけど、ああいうのに象徴されるような考え方というのは、アメリカではむしろ普通に存在してるんだろうなあ。

はっきり言って映画のテーマ的にはダニエル・デイ・ルイスが主役なのが良かったんじゃないかと思います。
実際、主演男優賞にノミネート、受賞したのは彼だったし。
うがった見方だけど、巨額の製作費を回収するための「主人公ディカプリオ君」だったのかなあ。
未来ある若者が主人公の方が若い国アメリカには一応ふさわしいんだけど。
ダニエル・デイ・ルイスの体現する古臭く暴力的なアメリカは過去にならなければいけないものだしね。
でも今のアメリカを見てると全然過去にはなってないんだよなー。



とまあ、いろいろと深い事まで細かく描かれた映画で、これは素晴らしい大作だ!って言いたいんだけど、それらをギュッと束ねる力強さが肝心のストーリーにないのが致命的。

スコセッシが描きたかったのって暴力とニューヨークなのだと思います。
残念ながら人間ドラマは……ダニエル・デイ・ルイスは良かったけど、うーん、もう一歩。
力は入ってるのに薄かったなあ。
残念。




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by teri-kan | 2019-06-24 01:00 | アメリカ映画 | Comments(0)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


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