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「大分断 教育がもたらす新たな階級社会」

エマニュエル・トッド著、PHP新書。
日本人に向けてのインタビューをまとめた本。
世界がどうしてこうなっているのか、を解説してくれています。







フランス人って日本人と全然違うんだなあとしみじみ思ったんだけど、その違いこそが日本にとって大いに参考になります。
フランス人ならではの思考なのか、トッドならではの思考なのか、判断つかないんだけど、フランス社会のありようが日本と正反対なのは確かなように思えます。

タイトルにある「教育が格差をもたらす」とは、既に日本でも言われてることですが(それでも日本はフランスよりマシ)、高額な教育費をかけられる親から生まれた子供しかエリート大学に通えない、良い就職が出来ない、ということを指しています。
ようするに教育が階層を固定化させている、ということです。
そしてそれは大学という高等教育の現場が知性を育む場ではなく、支配階級を再生産するだけの機関に成り下がっているということを意味する。
現在の学歴の高い人間は知性を育まれてるわけではない、ということですね。
学歴の高さと知性の高さが一致していないことが、現在の数多の社会問題の原因であり、民主主義が機能不全を起こしている原因である、ということです。

読んでて面白いと思ったのは、戦後しばらくはフランスの高等教育は上手くいっていた、だから大衆からも高学歴の人間は多く生まれ、そういった人達はそのまま上流階級に入っていったけど、今はそういった知性ある人は上流へ行けず大衆層にとどまってるままだから、大衆からまた革命のようなものが起こるかもしれない、と書かれてあったことで、つくづくフランス人って面白いなあと思ったんだけど、大衆の知性を信じてるんですね。
さすが革命とデモの国。

「黄色いベスト運動」についてトッドがテレビで発言してるのをYouTubeで見たことがあるけど、トッドは一貫して彼らを支持してて、本書でもマクロンをボロクソに言ってる。
ちなみにブレグジットも支持してて、大衆の要求にエリートが応えたイギリスに対しては、民主主義が生きていると評価してる。
その辺の理由と解説については、氏のこれまでの著書の方がもっと詳しいけれど、本書では改めて民主主義とは何か、確かめ直すことができたように思います。

ヨーロッパと比較した上での日本の階級についての考察も一読の価値ありです。
確かに日本には、上層部の下層部への軽蔑、下層部の上層部への憎しみは、あまりないと言っていい。それが普通に存在するフランスの階級間の確執は、おそらく日本人の想像を超える。
いやもう、日本とフランスの対比は本当に面白い。
そしてトッド的に言えば同じ家族構成を持つドイツと日本だけど、この二国の対比も面白い。
ホントにドイツのことが嫌いで、日本に対しては親日家だよねー。(ドイツに辛辣な理由はちゃんとあります。)

日本のことを極東ではなく「極西」と呼ぶ言い方のくだりは目からウロコでした。
これは日本人研究者が用いていた表現だそうで、トッド自身も素晴らしいと言ってたけど、歴史の歩み方が確かに日本は他の東アジア国家よりヨーロッパと並行しています。
封建社会の出現だったり、同時期の宗教の動き(プロテスタント、浄土真宗の誕生)、農民戦争と一揆、ヨーロッパの歴史は日本と似てて、実は結構理解しやすい。
こんなに離れた極東と西で似た歴史の歩みがあるということは、歴史とはそういう風に進むのがスタンダードなのだと考えたことがあったけど、極東ではなく極西と言われたら、普遍的なスタンダードではなく両者に一致した何かがあったからと思うこともできて、それって何なのだろうという興味もわく。

まあ、とにかくいろいろと面白い本です。
これまでトッドの著作を読んだことのない人にこそオススメ。
元がインタビューなので読みやすいし、中国以外の現在について要点が整理できます。
トランプについても知識人の中では稀有な評価をしてる人なので、かえって参考になるのではないかと。
今後の世界に不安を感じている人は是非。




Commented by at 2020-08-03 00:17 x
こんばんわ、書き込みごとに言ってる感じですがお久しぶりです。もー生活現実にくたびれ続きで(笑)ネットも鑑賞で済ませてる日々が続いてます。時代は令和なのですが平成末に特撮への熱もアマゾンズ完結で一区切りしたり、20代から読書するに際しての目標としていた「ひらがな日本美術史」全巻購読を達成したりとなんとも茫洋とした日々が続いてます。

自分も最近教育関係の書籍ばっかり読んでましたけど、色々読んでても最終的には「教育」に向かう以前の「学び覚える」記憶していく段階点にある物事に「音源性を聞き取る」音読・漢文素読的な理解方法ってスゲーデカいんだよなあ。て実感が深まってきましてね。
学校教育に向かう幼少期、まあ幼稚園保育園時期の子がなんらかのモノ、例えば「美味しいパン」とかを知っていく工程にそのパンを食べて美味しいと感じたあとのパンなる食べ物を見た目と「pan」なる音源で記憶するのか・それとも「パン」なる字面で記憶するのか。てな事を考えると「そら前者でしょう」になるのですが、江戸期まで知識人にとっての知性を育む教育だった語学・漢文の素読学習てのはまんまこういう「まず音源性を覚えて、意味はそのあと」工程だったのですね。素読的音源とは日本語的ではない中国語調で、近代からは学校での初等教育は国内言語ではあっても方言的訛りのない標準語音源・共通語文章になります。
教育の学習法というのは自他国問わず「言語としての文字」を覚えていく・文字によって記述される「論旨を持つ文章を読み記憶していく」もんだと思うのですがこういう教育学習法と素読的「音源記憶法」はある段階点から各人それぞれ「論旨のある文章」に対して「音源性を聞き取れない」困難が生じていってしまいます。まあわたくしの経験だと自他国言語に匹敵する難解性を発揮する文字「数字を用いた計算授業」ですが(笑)。
小説などの文学だと文章は文体として読者に「イメージビジュアルとしての絵画」を脳内に描写させる手法となりまが、まったく本読まねーし頭ねえからよーとくさされそうな(バカそうな顔をした幸福な)人にとって書籍・文章を読まされる苦痛感というのはこういう「聞こえねーよで描けねーよ」なもんなんじゃないかと思ってましてね。
知性とか思考を育むってとんでもなく難解なんじゃないかとか。
>極東と西で似た歴史の歩みがある
おお梅棹忠夫さんの文明の生態史観ですなあ。
Commented by teri-kan at 2020-08-04 00:15
創様、こんばんは。お久しぶりです。
私も気合の入らない日々が続いてます。
現実のことを考えるとしんどいばかりですよね。

教育関係の本……難しそう(苦笑)。
教育に向かう以前の問題というのは、多分すごく大問題だと思うのですが、音声の重要性は確かに。紙の上の言語と実際の自分の言語って違いますもんね。
ドラマの中の言語とも違うけど。
関係ないけど、母国語以外の外国語を学び始めるのは何才からが適切なのかを研究してる先生がいたのを思い出しました。

>知性とか思考を育むってとんでもなく難解なんじゃないか

数年前からさかんに言われていると思うのですが、知性ってなんなんでしょうねえ。

>梅棹忠夫さんの文明の生態史観

読んだことなかったのでネットで軽く解説を見てみたのですが面白そうですね。
そういえばヨーロッパと中国って面積が大体同じくらいで、大陸の両端同士で、なぜ片方は帝国としてまとまり、片方は細かく分かれて争っていたのか、という本を読んだことがあります。
細かい内容は忘れたけど(確か地形の違いは指摘されてた)、そうやってあちこちの地域を比較してみたら楽しそうです。
外国のことを知ると日本のことも見えてきて勉強になります。
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by teri-kan | 2020-07-31 00:00 | 本(歴史書・新書 海外) | Comments(2)

本や映画、もろもろについて思った事。ネタバレ有。


by teri-kan
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